第21話:叔父のからかい
「うわ!」
「んん? どうした? 明日花ちゃんと話してたのか?」
「ちょっと、叔父さんやめてくれよ」
「今のタイミング、ホラーのジャンプスケアそのものだよ!」
「あー、振り返った瞬間、殺人鬼とかがいるってやつ? うん、それを意識してやった」
「わざとかよ!」
「はは!」
淳が心底楽しげに笑っている。
11歳しか違わない叔父は、昔から蓮をからかうのが大好きだった。
「で、明日花ちゃんと何話してたの~?」
ニヤニヤ笑いながら肩に手を回してくる淳の額をデコピンする。
「いでっ!」
「昨日は友達と会ってて楽しかったって」
「ふうん」
淳が至近距離で見つめてくるので、ぐいっと押しのける。
「何だよ」
「いや、おまえも楽しそうだなって」
「は?」
「気づいてないのか。おまえ、明日花ちゃんのこと話すとき、いつも楽しそうなんだよなあ」
「そ、そう?」
蓮はドキッとした。淳は時々鋭いことを言う。
「地元の件もあったしさ、若い女性に関してはピリピリしてるから心配してたけど……。明日花ちゃんなら大丈夫なんだな。見た目に反して、おどおどしてるし、
害はなさそう」
「そういう言い方やめてくれる。彼女に失礼だろ」
思ったより強い声が出て、蓮は自分に驚いた。
「そうだな、悪かった」
叔父は鼻白むどころか、ニヤニヤとチェシャ猫のように笑って眼鏡のつるを押し上げる。
どうやらわざと挑発したらしい。
「……叔父さんってほんっと性格悪いよね」
「可愛い甥っ子に構いたくなるのはしょうがないだろ」
一見人当たりがよく優しそうな叔父だが、その実ドSなのではと思っている。
叔父がスマホを見る。どうやら着信があったようだ。
「ん……? あっ、やべ!」
「どうしたの?」
「すまんが、今日17時に上がりだ。早めに閉める」
「へ?」
「大学の同窓会があるんだが、うっかり忘れていて。やべ……友達と待ち合わせしてるんだった。いったん家に戻ってスーツに着替えないと。さすがにこんなカジュアルな格好じゃ行きづらい」
大学の同窓会、というワードに蓮はピンと来た。
「この時期って同窓会が多いの? 隣の芙美さんも、今日は大学の同窓会があるから17時に閉めるって」
「えっ、もしかして芙美さんって同じ大学なのか?」
叔父はトップ私大の
マンモス大学で生徒数はゆうに2万人以を越えるので、同時期に在学していても存在を知らないことは有り得る。
「マジか!! 会場で会えるかもしれないな」
淳の声が弾む。
(芙美さんは綺麗だし、それに気遣いができて楽しい人だからな)
芙美は一見、高嶺の花タイプのきつめの顔立ちの美人だが、物腰が柔らかく話しやすい。
(接客業のプロ、って感じだなあ。それに性格的にもたぶん面倒見がいいタイプ……)
それは姪っ子に対する態度でもよくわかる。
「そっか、17時で上がりか……」
なら、明日花と同時刻に帰ることになる。
明日花に声をかけようかと思ったが、
(すっごい拒否されたからな……)
「ん? なんだなんだ明日花ちゃんを誘いたいのか?」
こいつは心が読めるのか。
思わず眉をしかめた蓮を見て、淳がぎゃははは、と遠慮なく笑う。
「おまえ、顔に出すぎなんだよ」
「へっ?」
ポンと肩を叩かれた蓮は目をむいた。
(嘘だろ……)
うまく心中を隠せていると思っていた蓮は呆然とするしかなかった。
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