第15話:オタ友とコラボカフェ!

明日花あすか、こっち!」


 新宿駅直結の駅ビルの7階に上がると、コラボカフェの前で、友達の千珠ちずが大きく手を振ってくれた。


 千珠は長い髪を綺麗にカールさせて、推しキャラの耀ようのイメージカラーであるゴールドのアクセサリーをつけている。


 明日花も同じく、刃也のイメージカラーの銀色のアクセサリーを身に付けている。そして刃也じんやの瞳の色である紫は差し色として、小物などに取り入れている。


「お待たせ!!」

 駆け寄る明日花に、千珠が手招きしてくれる。


「予約している人はこっちの列だって!」


 明日花はいそいそと千珠とともに店の前の列に並んだ。

 予約時間の5分前とあって、既に長い列ができている。


「千珠、久しぶりだね~」

「ね! 結局2ヶ月空いちゃったね。せっかく明日花が上京したのに、まだ2回しか会えてない」


 同じ東京にいてもお互い働いていると、なかなか予定を合わせるのが難しい。


「でも、こうやってコラボカフェ一緒に行けるのって嬉しい!」

「だね~。やっぱり遠征えんせいってなかなかできないし」


 遠方からイベントに参加することを『遠征』という。

 九州から参加する時は、ホテルや飛行機の予約をせねばならず、費用もかかる。


 千珠と一緒にイベントなど、年に一回くらいだった。


「19時30から予約のお客様、整理番号順にお呼びします~」


 今回のカフェは千珠が予約してくれている。

 千珠がさっとスマホの予約画面を見せると店内に案内される。


「こちらのお席です」

「うわあああああ!! やった! 『ようじん』の席だよ!」


 案内されたテーブル席には刃也と耀のイラストが描かれていた。


 刃也じんや耀ようの上級生コンビはニコイチと見なされており、コンビの略称として、ファンの間では『ようじん』と言われている。


「大勝利!」

 お互いのしのイラストが描かれたテーブルに、二人は存分に喜び合った。


 今回、コラボカフェにピックアップされたキャラは8人。

 それぞれ関連性の高いコンビで4パターンのテーブルが作られている。


 確率が四分の一とはいえ、推しキャラのテーブルに案内されたのは幸運以外の何物でもない。


「ね! スタンディングがある!」


 カフェの奥に、等身大のキャラのスタンディが置かれている。

 長身の刃也と耀は、一際ひときわ目立っていて格好がいい。


「わあ! あとで写真撮りに行こうね!」

 千珠が目を輝かせる。


 推しキャラのスタンディがあると、まるでデートをしているような写真が撮れるのでイベントではほぼ必須のアイテムとなっている。


「何食べようか?」

 二人はさっそくメニュー表を見た。


 キャラをイメージした食事とドリンクを頼めるのもコラボカフェの醍醐味だいごみだ。


「私、『刃也の七枝刀ななつさやのたちピラフ』!! ドリンクは『刃也の黒ごまとヨーグルトドリンク』」

 まずは推しキャラのメニューを選ぶ。


 七枝刀を模したプレートが刺さっている派手なピラフは、絶対に頼もうと思っていた。

 ドリンクは刃也のカラーである銀に近い、灰色のドリンクだ。


「私はもちろん、『耀の魔道書サンドイッチ』だね! ドリンクは『耀のハニーレモンソーダ』」


 千珠が選んだのは、本に模したサンドイッチと綺麗な黄金色のドリンクだ。


「あとデザートだよね。『真護しんごの炎のベリーパフェ』二人で分けない?」


「いいね! 『吹雪ふぶきの純白のチーズケーキ』も頼みたい!」


 食事もドリンクも、特典がついてくるのがポイントだ。


 今回の特典はキャラの描き下ろしイラストが描かれたコースターだ。

 こちらもランダムなので、誰が来るかわからない。

 なので、できるだけ数を頼みたいが、女二人ではなかなか厳しい。


「うーん、お代わりするとしても12枚くらいが限度だよね。同僚でめっちゃ食べる人がいるから、協力頼めばよかったかな」


「千珠は会社でもオープンにしてるんだよね」

「うん、別に隠すことじゃないし」

 千珠がさらっと言う。


「ゲームオタも鉄オタもライブ好きもいるし」

「でも……ほら、少年漫画だから……」


「子どもっぽいってこと? 好きなものは好きなんだからいいじゃない! それにアニメ化もされてる人気漫画だから、読んでる人も多いよ。グッズまで集めているのは私くらいだけど」


(わかってる、人の趣味にケチをつけるような人間は無視すればいいって)

(でも、傷つく)


 千珠はしっかり者でハキハキしている。


 たまにオタ活を揶揄やゆされる時もあるらしいが、「何か問題でも? あなたに何か関係が?」と目を見てはっきり言うと大体退散すると言っていた。


「要はなめられてるってことだから。相手見て言ってるのよね」

 千珠は小柄なので、男性からよく絡まれるという。


「でも、そういう奴って反撃されると途端にうろたえるから」

「う、うん……」


 だが、明日花はこれまで言い返してうまくいった試しがない。

 焦れば焦るほど、かんでしまうし、頭がついていかない

 いつも家に帰ってから、ああ言えばよかったと後悔するのがオチだ。


「オープンにしてると、結構、協力してもらえるよー。時間がないとき、課長に一番くじ代行してもらったり、あと、お菓子を食べてもらえる」


「ああウエハースとかチョコとかだね……」


 定番のコラボが、コンビニのお菓子だ。

 コンビニで指定されたお菓子を3個買うとグッズが一つもらえる、というパターンだ。


「あれ、食べるのが大変なんだよね……。チョコとか飴が30個とかね……」


 千珠の言うとおり、グッズが複数欲しい場合は大量買いになる。


 なぜならグッズは5種類ほどあり、全部揃えるだけで15個。保存用も、となると30個のお菓子をレジに持っていくことになる。


「私は全部会社に持っていってるよ。皆、喜んで食べてくれる」

「いいなあ……」

「あ、そうだ。はいこれ」


 差し出されたのは、袋に入ったクリアファイルだ。


「ああっ!!」

 それはドラッグストア、マツシロでもらえなかった、刃也のクリアファイルだった。


「手に入らなかった、ってラインで来たからさ。もらっておいた」

「ありがとう!!」


 しが被らないとこういう協力ができる。

「私も今度耀くんのグッズ出たらあげるね!!」


「ありがと。でも、珍しいね。刃也くんのグッズが手に入らなかったなんて。マツシロなんていっぱいあるでしょ?」

「う……」


 にこやかに声をかけてきた蓮の顔が浮かぶ。


「んん? その顔、何かあったでしょ!? すーぐ顔に出るんだから! さ、話して!」


 千珠がぐいっと身を乗り出してきた。

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