第16話:お隣さんについて

 明日花あすかが口を開こうとしたとき、頼んだメニューがやってきた。


 華やかなコラボメニューに、二人は歓声を上げた。


 もちろん、食べる前に撮影会だ。


 千珠がさっと耀を模した小さなぬいぐるみを取り出す。


「ああっ、いいなあ、ちびぬい……」

「苦労したよ……。クレーンゲームって苦手……」


 千珠がため息をつく。


「だよね。普通に売ってくれたらいいのに……」


 ひとしきり撮影会をした二人は、さっそくコラボメニューに舌鼓したづつみをうつ。


「で、何があったの?」

 サンドイッチを食べながら、千珠が聞いてくる。


 学生時代から、千珠の追及を逃れられたことなどない。

 明日花は諦めて口を開いた。


「じ、実は……最近、隣に引っ越してきた人が刃也じんやそっくりなの」

「は!? え?」


「身長が180センチ越えてて、すらっとしてて、あ、銀髪に紫の目じゃなくて茶色だけど、たたずまいとか顔立ちがめちゃめちゃ似てて……」


「マジで!? あんなイケメン、リアルに存在するの!?」


 千珠の興奮っぷりに明日花は嬉しくなった。

(びっくりするのは私だけじゃないよね……)


「私も驚いたよ。何度見てもそっくりで……。顔立ちだけじゃなくて、スタイルもほんとそのまま……」


「へえええ、何歳くらいなの?」

「30歳くらいだと思う……」


「ちょっと年上なんだ、いいじゃない。どういう人? 仕事は?」


「それが……職場も隣のクリニックで……お医者さんなの」

「はあ!?」


 千珠が思わず大声を出し、周囲の注目を浴びてしまう。


「あ、ごめん。でも、すごくない!? お医者さんなんてかっこいい! それに職場も隣なんて、運命じゃない!?」


「大げさだよ……」

 あんなに遠い存在の人と、何かが起こるはずもない。


「で、ちょっとは話したんでしょうね?」


 ぐいぐい来る千珠に、宅配を装った強盗から助けてもらったことを話した。


 千珠は追及の手を緩めず、明日花はランチの話やドラッグストア帰りに荷物を持ってもらったことなど、洗いざらい話す羽目になった。


「は? しそっくりの男性で、しかもそんなに縁があって、親切で助けてもらってって……もう付き合うしかなくない!?」


「相手に迷惑だよ」


 予想はしていたとはいえ、千珠の高いテンションに気まずい思いでピラフをもぐもぐと食べる。


「ふーん、興味ないんだ? 異性として」

「……遠くからおがみたい感じかな」


「やっぱり現実の男は嫌?」

「……」


「明日花はめっちゃ絡まれてきたからねー。岳人がくととかひどかったよね」


 千珠の言葉に、暗黒の中学時代が浮かんだ。


 イケメンでスポーツが得意な人気者の岳人に散々からかわれ、挙げ句に大好きなサッカー漫画が読めなくなった。


「ほんと、トラウマの原点だよ、あいつ」

「あ、そういえば岳人って今、東京本社にいるらしいよ」

「げっ」


 思わず声が出てしまい、明日花は慌てて手で口を押さえた。


「あはは、そうなるよねー。私も友達から聞いてびっくりしたよ」

 千珠がチーズケーキをつつきながら笑う。


「心配しなくても、東京だとそうそう顔を合わせないでしょ」

「……やだなあ。とにかく、同じ街に存在していることが嫌」


 ため息をつく明日花に千珠が微笑む。


「本当に苦手なんだね。」

「だって、嫌なことしか言わないし、ずっと馬鹿にされてきたし」


 千珠のような美人で気の強い女の子には言わず、自分みたいな言い返せない鈍くさいタイプが狙われた。


「あれって、好きの裏返しじゃないの」


 からかうような千珠に、明日花は断固として否定した。


「そんなわけないでしょ! 嫌がらせばっかり。それにあいつ、女の子取っ替え引っ替えしてたし! それもめっちゃ可愛い子ばっか!」


 イライラしてた明日花は、一気にドリンクを飲み干す。


「お代わり頼もう!!」

「そうだよ、飲もう飲もう。今度はアルコールもいいんじゃない?」


「デザートも追加する!!」

「いいねえ」


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