第9話
やだ
あたんない
Cってどれ
折角教えてもらったのに
見てるかもしれないのに
やっぱり私が格闘ゲームなんて
どうしよう
怒られちゃうのかな
才能がないって
やだ
負けたくない
勝ちたい
「………え」
とてつもない重圧。
それから逃れるようにコメント欄を見る。
すると聞こえないはずの、あの人の声が聞こえてきたような気がした。
『その人の得意な技は◯ボタンです』
(得意な技…◯ボタンって………これ…?)
その声に従い、おもむろにボタンを押す。
すると、思ってたより長い足で相手を蹴った。
さっきまで全然届いていなかったのにこの技なら相手に届く。
「………やった」
嬉しくなって、何回も蹴った。
すると相手は飛んでくるようになった。
蹴りは避けられ、危うく攻撃を食らってしまうところだった。
(つぎは……つぎは………)
『相手が飛んでくるならアッパーです』
再びコメント欄を見ると、同じ人がアドバイスをしてくれていた。普段ならよく分からない事ばかりなのだが……何故だかスッと頭に入ってくる。
(アッパーは……前と△!)
私の思った通りにキャラが動いてくれる。
そして飛んでいる相手を見事に迎撃する。
「…………楽しい」
地面にいるなら蹴る。
飛んでくるならアッパー。
なんだか私が相手をコントロールしてるみたいで、ドキドキしてくる。
(そうだ……アッパーからかかと落としって当るんだよね……)
昼頃にあの人に教えてもらったカッコいいコンボ。ちょっと違うけど……やってみたい。
「……飛んで……飛んで………」
そう念じながら蹴りまくる。
執拗に続けているとようやく飛んでくれた。
「待ってました!!」
(前と△……そして……!)
まずはアッパー。そのまま体を捻って……
(アクロバティックかかと落とし!!)
少し飛び上がって空中で回転し、勢いをつけた蹴りをお見舞いする。
(そしたらなんでかバウンドするから!)
マウガのたくましい腕で跳ね上がった相手の体を掴み、そのまま反対の地面へと叩きつける。
「『地面とキスしてなぁ!!!』」
K.O!!
「やった………………やったぁ!!!」
「っし!!」
配信を見ながら思わずガッツポーズをしてしまった。
(マジかよマジかよ!6B対空から竜巻Bって繋がんのかよ!カウンターしてるからか?やっべぇトレモしてぇ!)
西園寺さんは堂々とコンボしていたが実は教えたのとは少し違うコンボだった。
本来ならアッパーからはC必殺技……つまりゲージを使った強化技か、当ててもバウンドしないA版じゃないと繋がらないはずだった。だが6Bがカウンターしたせいか繋がらないはずの発生の遅いB版でも繋がったのだった。
早々に見切りをつけてしまったせいでそんな簡単なことにも気付かなかった自分を情けなく思うと同時に、目茶苦茶テンションが上がってしまう。
そして何より〆の滞空投げ。難しい昇竜コマンドなのに本番でもしっかりと決めていた。
(よしよしこのまま3R目を取って初勝利……)
「おにぃ……?」
「は、はい!?」
こっそりと見ていたのにいつの間にか桜花が背後からスマホを覗き込んでいた。
「またそういうの見て……」
「いや、これは…仕方ないことなんだよ!」
「それ2年前にも聞いた!その時もご飯中に見るのはダメだって言ったじゃん!」
「頼むよ桜花!アイス買ってくるからさ!」
「………ほんと?」
「ほんとほんと!」
「………見なかったことにしてあげる」
「助かる!」
急いでスマホの電源をつけ直し、配信画面を開いたのだが……
(あ、普通に負けてる)
10戦10敗という見事な戦績を背景にうなだれている西園寺さんの姿がそこにはあった。
(………いやでも)
西園寺さん……いや、星宮ハルカの顔はさっきまでとは違い、とても嬉しそうにしていた。
コメント欄も2R目のカッコいいコンボに沸き立っている。
「…………よかった」
「…………にやにやしないでよ気持ち悪い」
「してない」
「してる」
「………仕方ない」
「仕方なくない!早くアイス買ってきて!」
桜花に急かされてしまったため、一度配信を見るのをやめ、近くのコンビニにアイスを買いに向かうのだった。
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