第8話
ピロリンピロリンピロリンピロピロピロ
「うるっせぇ!!!」
土曜日だというのに朝から枕元で鳴り響く騒音で目を覚ました。
「あー?…………あ?」
騒音の正体は今もなお止まることのない通知の連打と着信音。犯人はというと……
「なんですか……朝なんですけど……」
『よかったぁ………ブロックされたのかと思ったぁ………』
何故か泣いていた西園寺さんだった。
「なんで泣いてんですか……」
『だってぇ……返信こないからぁ……やっぱりひかれたのかと思ってぇ……』
「どこにひく要素があるですか……」
『わたし……空気読めないって言われるから………またやっちゃったのかなって…』
「まぁ否定はしませんが…とりあえず大丈夫です。安心してください」
『ありがとぉ……………』
「……じゃあ切りますよ?」
『……………………』
「……ん?」
『スーーーー……スーーー……』
「寝落ちしやがった……」
そのままかわいらしい寝息を聞いていてもよかったのだがどうせ履歴でバレるので速攻で切った。
『ちょ、ほっ、えぇ!?』
「惜しいですね」
『無理だってこんなの……難しいよ……』
「マウガの基本ですからちゃんと覚えてください。立ちBからのコンボが出来ればもう立派なもんですよ」
『B……あー△ボタンね』
「そうそう」
その日の14時頃。
ようやく目覚めた西園寺さんからコーチングをしてくれと要望があったのでそれに応えていた。
『難しいけどカッコいい……やっぱりこの人好きだなぁ……』
「なかなか変わった趣味ですね」
『え?カッコ良くない?引き締まった筋肉にちょっと濃いめの顔!……最高!』
「……まぁ、はい」
『もちろんリンちゃんもかわいいと思ってるよ!いつかはチャレンジしたいもん!』
「その時はまた教えますよ」
『やったありがと!』
どうせその頃には飽きているだろうと思いつつも流石に言葉にはせず、その後もひたすらにコンボ練習に付き合った。
『…………っよし!』
「おー出来るようになりましたねー」
『ふっふっふ!どう?私のこの才能!』
約1時間の練習を経て、ようやく基本のコンボが1つだけ出来るようになった。
『この調子で……あ!時間!』
「何かあるんですか?」
『16時からこのゲームで配信する予定だったの!それじゃあまた!』
「はーい頑張ってくださーい」
西園寺さんは焦りながら通話を切り、ルームからも退室していった。
(エボ6の初配信か……流石に見てあげた方が良さそうだけど…)
スマホから西園寺さんのチャンネルを確認する。
(………さてどうなることやら)
「おにぃ~」
「ん?」
少し頭を悩ませていると部屋の扉が突然開き、
「買い物行ってきて~」
「えー……」
「いいじゃん先週は私が行ったもん」
「……しゃあねぇか」
「やったぁ!アイス買ってきてね!」
「へいへい」
元々コメントをする気もなかったので後でアーカイブを確認しようと思い、食料の買い出しに向かった。
30分後……
「ほれ桜花~アイスだぞ~」
「さっすがおにぃ仕事が早い!」
「褒めてもなにもでねぇぞー」
買い出しから帰ってきた後、桜花とアイスを食べ、そのまま夕食の支度にとりかかった。
「今日はカレーな。理由は目に入ったからだ」
「異議なーし!」
「……ん、うまい」
「できたーー?」
「おう完璧だ」
「よし食べよう!」
「……まだ6時だろ流石に早いぞ」
「えーーーーカレーの匂いを嗅がせといて我慢しろとーー?」
「……夜食は作らねぇぞ」
「いぇーい!」
「どうだ桜花。クラスには馴染めたか?」
「オタクのおにぃと一緒にしないでもらいたいんだけど……」
「……痛いとこを突くなお前」
草薙桜花。
俺の妹で中学2年。うちの家庭の事情のせいなのだろうが俺が中2の頃よりは断然大人びている。
「そういうおにぃはどうなのさ」
「……聞いて驚け妹よ」
「え、なにまさか……」
「………何もない」
「はぁぁぁぁぁ……てっきり彼女でも出来たのかと思ったよぉ」
「出来るわけねぇだろ」
「分かんないじゃん。隣の席の女子と良い感じになるかもしれないじゃん」
「隣ねぇ……」
そう言われて西園寺さんの事を思い出し、まだ配信をしているのかを確認してみることにした。
星宮ハルカ
それが西園寺さんのVでの名前である。
設定としては一応未来人で、色々あって現代の高校に通っているみたいな事らしいのだが…
(いきなりランクマ……まだ認定戦か)
配信を開いてみるとランクマッチで誰かと戦っていた。
桜花もいるので音は出さず、試合の様子とコメント欄から大体の事を察する。
【やっぱりそのキャラ難しいって】
【C振ってれば勝てるよ】
【惜しい!】
【クイック入力にしたら?】
(…………)
試合の内容は俺からしてみればあまり良いとは言えないものだが、それでも本人が楽しそうなら良いと思っていた。
だが……
(無駄に金かけたせいで落ち込んでるのまで丸分かりだな)
音なんて無くても表情から明らかに凹んでいるのが分かる。もしかしたら素顔を知っているからというのもあるかもしれないが……
(………)
「おにぃ?どした?」
「ん?……ちょっとな」
「もしかして……お友達!?」
「そこはもっと彼女かどうかで驚いてくれ。どっちにしろ違うけど」
桜花と話しているといつの間にか試合は終わっており、認定戦の戦績が表示された。
(9戦9敗………流石に凹むか…)
初心者であるということ、マウガを使っているということを加味しても限度がある。
(コメントしてやるか?いやでも俺のアカウントとか知らねぇだろうし……)
そうこう悩んでいるうちに同じ相手との2試合目が始まった。
相手のキャラはリン。つまりは俺の持ちキャラだ。
さっきの試合と同じく激しい攻めですぐに追い詰められていき、あっさりと1ラウンド取られてしまった。
(………後で慰めなきゃなぁ)
実は西園寺さんの最近のアーカイブを見てみた事がある。ゲームはバトロワのFPS。プレイ時間はそこそこあったみたいだが、抱いた感想は1つだけだった。
「シンプルに下手くそ」
ただこの一言につきる。
試合中も頑張ろうとしているし、負けた後の反省もしている。だが根本的にゲームそのものに向いてない。そんな印象だ。
アーカイブのコメントも慣れているのか指示することすらしてなかった。だが本人は至って真面目で取り組んでいるため、コメント欄との温度差の違いは正直見ていられなかった。
(今もC振ればいいって言われてるのにBばっかだし………あ)
配信を見ながら俺はようやく気づいた。
西園寺さんがしようとしてるのは俺から教わったコンボなのだ。
実践投入するにはまだまだ時間はかかるだろうと思っていたが、なんとか決めようとしていた。
(んな悔しそうな顔して……それでも俺の教えだからって………)
俺が教えたのは勝ち方じゃなかった。
初心者が試合中にするには難しいコンボだ。
だって西園寺さんは勝ち負けを気にしない人だって、どうせすぐ飽きるだろうって思っていたから俺はそれを教えた。
『楽しくなかった』
だけどそうだ。
初めての時もちゃんと言っていたではないか。
(……勝ちたくねぇのに対戦ゲームする奴がどこの世界にいんだよこのバカ野郎が!!!)
俺は自分自身に怒り、すぐにチャットを開いてコメントをうった。
今さら間に合うかは分からない。
もう体力は半分を切っている。
そもそもコメントを見るのかどうかも。
(だけど…………!!)
それでも俺は西園寺さんに勝って欲しかった。
ただその一心だった。
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