隣の美少女はVTuber
第6話
「てめえか?今日の喧嘩の相手は?」
「かわいいからって侮らないでよね」
一方は筋肉質のむさ苦しい男。
一方は中華服に身を包んだ可愛らしい少女。
一見すると不釣り合いにも見える戦いを誰も止めることはなく、試合開始の合図と共に男は大きく跳ね、全力のパンチを繰り出そうとしていた。
「オラァ!」
「…………ハイッ!」
しかし少女はその攻撃をいとも容易く躱し、逆に男の顎へと左での突き上げ掌底打ちをクリーンヒットさせた。
「まだまだ……オラァ!!」
「……………ハイッ!」
「オララァ!」
「……………ハイッ!」
「…オラァ!」
「……………ハイッ!」
『ちょっと!!!!ねぇ!!!おかしい!!』
「うるっさ」
対戦しているとイヤホンからとんでもない声量の抗議が聞こえてきたのですぐに音量を下げた。
「なんですか本気でやれって言ったのは西園寺さんでしょ」
『だったらなんで動かないの!!!』
「だって勝手に飛んでくるし」
『飛ばないと攻撃出来ないじゃん!!』
「いやそういうゲームじゃないんだけど…」
その抗議を受けつつもひたすらに無敵技で飛びを落とし続け、余裕のパーフェクト勝ちを決めた。
『じゃあもう飛ばない!!私も待つ!』
「そっすか…なら……」
一度試合が仕切り直され、再び両者が向き合った。男は先程の雪辱を晴らすためにどっしりと構えていた。
だが……
「よっっと!」
少女は一瞬で男の懐に潜り込むと、そのまま男の後ろに回り込み、背後から連撃を叩き込んだ。
「やるじゃねぇ――
「隙だらけだよ!」
連撃を食らって地面に伏せた男だったがすぐに立ち上がり、ファイティングポーズを取ろうとする。だが少女はそんな暇を与えなかった。
男の脛をおもいっきり蹴り、よろけたところにまたまた連撃を入れる。そしてまた男が倒れ、すぐに立ち上がったのだが…
「幻妖の舞!」
少女が謎の動きをした瞬間、まるで2人いるかのような怒涛の攻めを繰り広げた。
「…………ッ!!この野郎!!」
男は攻めの隙間を狙って腕を伸ばすも、それを読んでいたのかと言わんばかりにサラリと避けられ……
「ハイッ!」
トドメに顎への掌底突きを食らってしまうのであった。
「ふぅ……」
『ずるいって!!!飛んでよ!!てかなんか分身してるんだけど!!』
「いやまぁそういうキャラなんで」
『この人は分身出来ないよ!!!』
「いやまぁそういうキャラなんで」
『さっきも聞いた!!』
「……とりあえず落ち着いてください」
『………わかった』
興奮している西園寺さんをなだめながら学校でのキャラの違いに驚く。
(予想はしてたけど……元気な人だなぁ…)
『はい落ち着いた落ち着きました!』
「じゃあまずはそのビックリマークつけてそうな話し方やめてくださいよ」
『………つけてないです』
「ありがとうございます」
ようやく落ち着いてくれた西園寺さんと話を始めた。
「それで?どうでしたか初対戦は」
『楽しくなかった』
「それはすいません…」
『でも本気でってお願いしたのは私だし…』
「だとしてもやりすぎたって自覚はあります」
『……そうなの?』
「はい」
『じゃあ草薙くんのせいか』
「うわ図々しい」
『なに』
「……なんでもないです」
対戦中はおもわず砕けた感じで話していたが、相手はクラスで一番勢いのある美少女転校生であることを思い出し、俺も一度冷静になった。
『でもさ!でもね!』
「はい」
『草薙くんのキャラすっごいカッコよかった!』
「……ありがとうございます」
『私もこの人をそんな風に戦わせてあげられたらなぁって!思ったんだ!』
「……正直勝ちたいなら他キャラの方が良いかも」
『え?ダメなの?』
「ダメというかその……」
西園寺さんが使っていたキャラは俺が昨日見切りを付けたキャラである「マウガ」である。
特徴的なのはやはり「投げ」だろう。
いわゆる投げキャラに分類されるキャラで、火力に関しては今作でも随一だ。
各種投げ技でダウンを取れば画面のどこからでも起き攻めが出来るのだが……問題はその投げ技の範囲と使いにくさ。
β版では移動投げがアホみたいな性能をしていたおかげで何とか誤魔化されていたがいざ製品版になると近づく手段が他キャラに比べて少ない。なのに牽制技も弱体化を食らったのでもう目も当てられない。
意地でも投げキャラは強くしないぞ、という開発の信念を感じる調整だ。
「まぁ端的に言うと難しいキャラなんです」
『えーーーーカッコいいのにーーー』
「………といっても最初は好きなキャラ使うのが良いとは思いますよ」
『だよね!!』
どうせ西園寺さんがこのゲームをするのも発売して2ヶ月程度だろう。そのうちすぐに飽きて他のゲームをしだす。なら飽きるまでは好きなキャラで遊んでもらった方が良いはずだ。
『じゃあ!コーチの件!考えてくれた!?』
「あー……」
そういえばそんな話だったのをすっかり忘れていた。
「………ちなみに報酬ってどのくらい?」
『えっと…私のお小遣いからだから……』
『ざっくり月1万……くらい?』
「1万!?」
『え、もしかして少ない?』
「いやいやいやいや!?全然!!」
『ならいいんだけど……頼むんだったら報酬はちゃんとしなさいってお父さんが良く言ってるからさ』
月1万を貰いながら美少女と遊べるなんて最高すぎる。バイトをしてない俺にとっては貴重な収入源だ。
『あ、あと……その……月一ならデートも…考えてあげるけど……』
「あ、それはちょっと」
『はぁ!?なんでよ私とデート出来るんだよ!?これ以上ないでしょ!!』
「俺があんまり外出たくないんですよ」
『なぁ!?まさか……お家デート……!?』
「いやいやいや待て待て待て!!」
『ゲームのテクニックを手取り足取り教えられるんだ……』
「ちょっ……年頃の女子の発言かそれ!?」
『うそうそ冗談w……ホントにデートは無しでいいの?』
「……そういうのはちゃんとした関係でやるものでしょ」
『確かに……それもそっか……』
少し気恥ずかしいことを言ってしまい、2人揃って黙りこくってしまった。
『じゃ、じゃあ!うん!2万で!うん!』
「いやいやそんなには……」
『いいのいいの!うん!じゃあまた明日学校で!』
「え、明日は――
プツン
完全に勢いに任せて通話を切られた。
(また明日って……明日は土曜なんだけど……)
こうして、俺と西園寺さんの世にも不思議な関係が始まるのだった。
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