第5話

西園寺さんから連絡があった翌日。

授業中もずっっっと西園寺さんからの相談したいことについて考えていた。


(……普通に考えれば学校の事だよな………でもワンチャンありえるよな…)


なんて妄想をしつつ授業に取り組み、やがて昼休みへと突入した。




「んで、6はもうリンでいくのか?」


「んー…もう少し触ってみない事にはなぁ」


今日も今日とて購買のパンを頬張りながらゲームの話をする。


「ゴリラが見捨てないでってお前を見てるぞ」


「んなこと言われても……そういう誠はどうなんだよ」


「俺は……今んとこはオニキスかな」


「へー珍しい。お前が男キャラ使うなんて」


「いいだろ別に。しっくりきたんだから」




チラッ…………チラッ………




誠と話をしながら昼食を取っていると隣からの視線が目茶苦茶気になって仕方がない。

今俺達の隣には西園寺さんと女子数名が楽しそうにお喋りしながら弁当を食っているのだが…


「どしたん?食いすぎか?」


誠はどうやら視線に気づいていないらしい。いやもしかしたら気づいていながら気にしないようにしているのかもしれない。


「……いや、なんでもない」


「そ?んじゃ小テストの勉強でもしようぜ~」


「へいへい。今日どこだっけ」


「20から22」


「はーーーー……覚える意味あんのかよ…」


ゲームの話をやめると見られることは無くなり、やっぱり隣でオタク全開の話をするなと言うことなんだろうという結論に至った。




そして放課後……


「バイト終わって22時からでいいよな?」


「おっけー仕上げとくわ」


「泣くぞ?」


「冗談冗談w色んなキャラ触っとくだけだよ」


「それも嫌だけど…ま、いいや。んじゃな」


そうして誠は早々に帰り、俺は未だに席を立とうとすらしていない。



「未来ちゃーん!帰ろー!」


今日も今日とて恭華が西園寺さんに絡みにきた。


「あ、今日はその…色々と先生と話があって忙しいので…すいません」


「ありゃ…それは残念。んじゃまた月曜日ね」


「はい。ありがとうございます」



西園寺さんは恭華を軽くあしらったかと思えば俺の方を見てニコッと微笑んでくれた。



(あれ?これやっぱワンチャンあんじゃね??)



なーんて邪な事を考えつつ、教室から人が居なくなるのを待っていた。




数分後、教室は俺と西園寺さんだけになり、ようやくその時が訪れた。



「すいません残って貰っちゃって」


「い、いえ!全然……はい!」


「……なんでそんなに緊張してるんですかw」


「いやぁ……あははw」


(するに決まってんだろ!)


すると西園寺さんは笑いながら俺の方に体を向け、どこか緊張しながらも真剣な目をしていた。


「あ、あの!」


「は、はい!」



「その…誤魔化すのは苦手なので……単刀直入に言うんですけど…」


「はい……」



(やっぱり愛のこくは――)



「私に…ゲームを教えてくれませんか!」


「…………はい?」



「……ダメ…ですか?」


「ダメというか……え?」


あまりに唐突な話すぎて理解が追い付かない。


(ゲームを教える???何の話だ???)



「やっぱり理由は知りたいですよね……分かりました仕方ないです」

「コーチに隠し事は良くないですもんね」


いきなり俺の事をコーチ呼ばわりしたかと思いきやスマホをいじりだし、一息いれると画面を見せてきた。


「これを…見てください…」


「……VTuberですね」


画面に写し出されていたのはとあるVTuberのチャンネルの画面。登録者は…3000人……いわゆる普通の個人女Vといった印象をうける。


「…………あの、これ、私です」


「へー…………はい!?」


衝撃のカミングアウトの連続でいよいよ脳がショートしそうだった。だがそれ以上に西園寺さんの顔は真っ赤だった。


「これで……分かって貰えましたか…?」


西園寺さんは少しうつむきながらも俺の方を見ながら聞いてきた。


「いや正直全然……」


「えぇ!?普通分かりません!?」


すると西園寺さんはまたまたスマホをいじり、今度はライブのアーカイブ一覧を見せてきた。


「見てくださいよ!これ!」


細い指が指していたのは再生回数の部分。


「1000ですよ!!1000!!!」


「いやまぁ……充分でしょ……」


アーカイブの内容はどうやら少し前に流行ったFPSのバトロワだったらしく、2時間程度の長さだ。



「私はこんなにかわいいのに!?」



(あーーーーー……)


嫌な予感がしてきた。

この人……いやこの女………


「アバターだってお金かけたんですよ?なのに……」


「だったら顔出しでやればいいのでは…?」


「そんなことしたら外歩けなくなるじゃないですか!!」


(駄目だ今すぐ逃げてぇ)


「なので私は考えたんです。足りないのは何かってことを!」


ドヤ顔で話している西園寺さんはそれはそれは確かに可愛かったのだが……


「バズらないのはひとえに私のゲームスキルの低さにあるのだろうと!」


「…………絶対関係ない」


「何か言いましたか?」


「いえ何も」


そもそも今さら新人Vなんて見る奴の方が少ない時代だ。一昔前なら俺だって見ていたが今では企業勢の切り抜きをたまに見るだけだ。


「そこで…なんですよ!昨日発売した話題の新作がありますよね!!」


「まさか……」


「そう!EVOLUTION6です!」


なんとなく話の概要は理解できた。

ついでにこの人がどういう人なのかも………



「昨日の昼休みに草薙くん達の話を聞いてですね『もうこれは運命だ!』と感じた訳です!」


西園寺さんは興奮しながら俺の手を取り、強すぎる顔面を近づけてきた。


「私のコーチになって欲しいんです!もちろん報酬はちゃんと支払いますし、その……草薙くんがしたいなら…デートくらいなら……受けてあげますし……」


「デっ!?」


「なので……私にゲームを教えてください!お願いします!」


「いやあの……ちょっと離れて…」


そう頼んでみたものの西園寺さんは離れる気がない。多分俺がOKというまで手を握り続けるのだろう。


「………デート以上はありませんからね?粘っても無駄ですよ?」


「そそそそんなこと考えてないですけど!?」


「だったら何が嫌だって言うんですか!!」


(アンタが若干残念な人だからだよ!!!)


「その……バズってどうしたいんですか?」


本音を隠しつつ、理由を問う。


「そんなの億ションに住むために決まってるじゃないですか!!!」


(そうなんですね)

「うっっっっっわ……」


「うわってなんですか!!当たり前の欲求ですよ!!!」


「え?あ、すいませんつい本音が……」


「むっっっ!!分かりましたそこまで言うなら実力で分からせてあげますよ!」


西園寺さんは急に立ち上がり、荷物を鞄に片付け始めた。


「あの……どこへ…?」


「帰るんです!そして対戦しましょう!」


「へ?」


「私の才能を見れば是非コーチをさせてくれと草薙くんの方から懇願するはずです!」


「いやちょっと待っ――


「私は今からインストールしてくるのでお先に失礼します!チャンネル登録忘れずに!」


そう言いながら西園寺さんは小走りで教室から飛び出して行った。



「今からって……マジで?」



取り残された俺はとりあえずスマホで先程見せて貰ったチャンネルを探し、しっかりと登録しておいたのだった。

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