第3話
「ねぇねぇ!西園寺さんってどこから来たの?」
「好きな曲とかある?好きなアイドルとかは?」
「えっと……あはは…」
昼休みに入ると西園寺さんに数多の女子がこぞって話しかけにきた。
あまりの勢いにタジタジになっている西園寺さんを見ながら俺と誠は購買で買ったパンを頬張っていた。
「んで、今日はどうすんだよ」
「速攻帰ってトレモだな」
「1時間な」
「お前じゃねぇんだから2時間は寄越せ」
「2時間もあったらPP量産しちまうかもなぁ」
「良い度胸してんじゃねぇか…1時間でやってやんよ」
俺たちが話しているのは今日発売の新作格闘ゲーム「EVOLUTION6」についてだ。
5からなんと10年の時を経てついに甦った新作タイトルで、グラフィックの大幅な進化や初心者への救済処置などありとあらゆる面で我々の業界では期待されているのだ。
「βのコンボ使えるのあればいいけどな…」
「いや絶対ダメだろあんなの。歴代屈指の弱キャラにでもなってろや」
「は?難しいから許されんだよ」
「だからってノーゲージで4割減らすのはやりすぎなんだよゴリラが」
「あ、あの……」
ふたりで盛り上がっていると女子達からようやく解放された西園寺さんがこちらに話しかけてきた。
「はい!なんでしょう!」
それに誠はいち早く反応し、元気に返事をした。
「えっと…今の話って――
「やっほ西園寺さん!!未来ちゃんって呼んでもいい??」
西園寺さんの言葉を遮るように恭華が絡みにきた。
「あ、はい。大丈夫ですけど…」
「ほんと?よかったありがとー…お昼まだ?なら購買とか案内してあげるよ!」
「いいんですか?ありがとうございます…でもその……」
「早くしないと昼休み終わっちゃうよーほらほらー」
西園寺さんは何か言いたそうにこちらを見ていたが、恭華は急かすように西園寺さんを連れて購買へと向かうのだった。
「……言いかけてたのなんだったと思う?」
「さぁ?オタクが騒ぐなうるせぇって事じゃね?」
俺は大事な話のような気がしていたが、誠は能天気に牛乳パックをちゅーちゅーと飲んでいるだけだった。
「ま、どうせ俺らとは住む世界が違いますよ」
「……それもそうだな」
昼休みまでを通して色んな人達と話しているのを見ていてそれは充分に感じていた。
朝の笑顔も社交辞令的なモノでしかない。西園寺さんからしてみれば俺なんてただのモブにすぎないのだ。
「というわけでオタクはオタクらしくひっそりと生きていきましょうや」
「…賛成」
ふたり揃って卑屈な考えをしつつも、心のどこかではお近づきになりたいと思っているのだった。
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