第2話

「なぁ誠。これなんだと思う?」


「どう見ても机と椅子だろうな」


「いやそれは分かるけど……昨日まで無かったよな?」


「……そういうことだろ羨ましい」


朝、教室に着くとさも当たり前かのように俺の隣に机と椅子が置かれていた。


「俺のぼっちライフが……」


俺の席は教室の窓際の一番後ろ。クラスの人数的に隣もおらず、完全に孤立した俺だけの特等席だったというのに……



「何のためのくじ引きだったんだよ……」


「今日から美少女転校生とのイチャイチャライフの始まりだな」


誠は俺の前の席に座りながら嫌味を言ってきた。


「どうすんだよバリバリの陽キャだったら…昼休みに購買から帰ってきたら席取られてたらどうすんだよ…」


「そんときは…大人しく食堂暮らしだな」


「食堂も食堂で混んでるってのによぉ」



ぐちぐち言いながら教科書やノートを鞄から取り出し1限目の授業の課題に取り組むのだった。





「ほーい席につけー」


しばらくすると担任の小田先生が教室にやってきて、ホームルームが始まった。


「サクッと終わらせたい所だが…今日ばっかりはそういうわけにもいかない」

「……入ってきていいぞ」


小田先生から呼ばれて教室に入ってきた女子に俺達も含めてクラスの皆が目を奪われた。


綺麗でさらりとした長い髪。

凛としているようでどこか緊張してるのが伝わってくる歩き方。


そしてなにより圧倒的に顔面が強い。


「自己紹介どうぞ」


「はじめまして、西園寺未来さいおんじみらいと言います。何かとご迷惑をおかけすると思いますが、どうかよろしくお願いします……」


堅苦しい挨拶をして頭を下げた後、俺達の反応が気になったのかすぐに頭を上げ……


「………………ニコッ」



(((((あ、かわいい……)))))



その笑顔にクラスの男共のハートは一撃で奪われたのだった。


「はい拍手~」


その言葉と共に盛大な拍手で迎えられることになった西園寺さん。といっても主に男達限定だったのだが…




「んで、席はそこな。あの空いてるとこ」


「分かりました」



教卓を降り、少し恥ずかしそうにこちらに歩いてくる。



「よいしょ…」


そうして隣の席に座ると、「ふぅ」と一息入れていた。


「んじゃホームルーム始めっぞー。こっちみろー」


西園寺さんに注目が集まっていた視線を小田先生が注意し、もうすぐ中間だからちゃんと勉強しろよという話を始めた。

俺もなるべく西園寺さんの方を見ないようにしながら話を聞いていると……



チョンチョン


急に隣から腕をつつかれたかと思いきや、いつの間にか机の端っこに紙切れが置いてあった。

怪しみつつも開いてみるとそこには


「よろしくおねがいします 未来」


と、かわいらしい字で書いてあった。



それを読んで思わず隣を見てみると西園寺さんが頬杖をつきながらこちらを見ていた。

さっきまでの真面目な様子からは想像もつかないような仕草に驚きつつも、とりあえず頭をさげ、心のなかで「おねがいします…」と返した。



すると……



「………………ニコッ」


頬杖をつきながら右手で器用にピースをし、自己紹介の時に披露したような満天の笑顔で返してくれたのだった。



(あ……だめ好き……)



こうしてあっさりとオタクは勘違いをし、ぼっちライフが終わることを嘆いていたのなんてすっかり忘れていたのであった。




「………………」




どこからか殺意のこもった目線が送られてきていたような気がしたがとりあえずそれも無視しておいた。

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