隣の席の美少女から格闘ゲームのコーチになって欲しいと懇願された話

鉄分

プロローグ

第1話 

「おい!なにパナしてんだよ!」


『当たると思ったんだよ~』


「てめぇ!二度とパナせない体にしてやる!」



夕食も終え、風呂にも入り、あとは寝るだけ。

そんな夜遅くに通話を繋ぎながらモニターと向き合っていた。



『あ!それバクだぞ!?』


「うるせぇ直ってねぇなら仕様だ」


『この野郎……!!』


「はい雑魚乙~。リーサルかんぺ――」



「おにぃ!!!うるっさい!!!何時だと思ってんの!!」


「あ……いや……」


『はーい浮かせまーす』


「ちょっと待て!卑怯だろ!!」



「……だからぁ!!」

「夜中にゲームするの禁止!!!」






「あのですね!おにぃも誠さんも来年受験生ですよね!少しは勉強したらどうですか!!?」


「はい……」


『返す言葉もございません……』


部屋に乗り込んできたうるさい妹に友人とふたり揃って説教をくらう。


「もしまた夜に騒いだらお母さんに言いつけるからね!誠さんもですよ!!」


「いやあのそれだけは……」


『勘弁してください桜花さくら様……』


通話をスピーカーにしているので誠の謝罪もよく聞こえる。


「……分かったらもうちょっと静かにやってよね」


「はい……」


『肝に銘じておきます……』


「よろしい。それじゃあおやすみ!」



「『おやすみなさいませ』」








「おい。お前のせいだからな」


「バグ使う奴が悪いんだろ。天罰だ天罰」


翌朝、最寄り駅で高校に向かうための電車を待ちながら昨夜の責任を擦り付けあっていた。


「直ってねぇなら仕様だっつってんだろうが」


「それバグ使う奴の常套句じゃねぇか」



隣に立っているこの男の名前は野崎誠のざきまこと

俺の中学1年の頃からの友人で、高校生になった今でも一緒に色んなゲームで遊んでいる。

いわゆる親友ってやつだ。



「なんだなんだ~?朝からイチャイチャしてからに~」


お互いに一歩も引かずに睨み合っていると後ろからニヤニヤした声が聞こえてきた。


「ん、おはよ」


「よ!そんな恭華は今日もかわいいな!」


「おはよ~慎二。誠、キモイ。死ね」


「流れるような罵倒助かる」


「ちなみに本気だよ?」


「え?」


「え?」


「はいはい…朝からイチャイチャすんな…」


「してないですぅ!」


「俺はしたいけどね」


「…幼なじみじゃなかったら手が出てるよ」



誠の事を幼なじみと呼ぶ女子の名前は新井恭華あらいきょうか

コイツも中学1年の頃からの付き合いで、高校も3人で一緒に受験した。ショートカットのボーイッシュ系女子。ちなみにコイツはゲーム全般が嫌いだ。原因はというと……


「てか何の話してたの??」


「ん?あー…格ゲーの話だよ」


「またゲーム……あのさぁ…いい加減飽きないの?」


「飽きない飽きない!恭華もやろうぜ!」


「やんないよ!!」


小さい頃に誠にレースゲームでボッコボコにされたかららしい。普通に可哀想だ。


「来月には中間だよ?大丈夫?」


「なので勉強教えてください!」


「………慎二も?」


「お願いします恭華様」


「しょうがないなぁ……」


((チョロ……))


機嫌が良くなった恭華をおだてながら電車に乗り込み、テスト範囲の話をしていると誠が突然何かを思い出したようで…


「そういやさ、噂の転校生…うちのクラスらしいぜ?」


「ほんとか?」


「マジマジ。昨日オダ先が一緒に話してるとこ見たって言う奴がいてよ…やっぱ相当美人なんだってさ」


「ふーーーーん……チラッ」


「そ、そうか……たのしみ、だなー」


「ふーーーーーーん………チラッ」


先程までの上機嫌はどこへやら。俺達の方をチラチラ見ながら不服そうに相づちをうっている。


「……ま、まぁ?とりあえずは中間だよな?そうですよね?恭華様?」


「そだねー」


「めっっちゃ頼りにしてる」


「………そう?」


「「うんうんうんうん」」


「………ふーーーん」


その後もなんとか恭華のご機嫌を取りつつ、我らの高校がある宮ノ中央駅に着いたのだった。



「んじゃ私は友達と合流してくるから」


「はいはいいてらー」



電車が止まるとすぐに恭華は小走りで駅の待合室に向かい、中で座っていたクラスの女子に声をかけて楽しそうにお喋りを始めた。


「………こうして見るとさぁ、いつの間にか雲の上の存在になったって感じするよなぁ」


その光景を横目に見つつ、誠はそんなことを呟いた。


「そうか?」


「俺らオタクとは違うってオーラ出しまくってんじゃん?」


「……まぁそれはそうだが」



容姿端麗頭脳明晰運動神経抜群。……つまり恭華は目茶苦茶凄い奴なのだ。クラスでも常に輪の中心にいて、俺らみたいな端っこ族とは住んでる世界が違う。

高校では部活はしていないが、中学の頃は女バスのキャプテンで、ブイブイ言わせていた。



「………転校生さ。オタクで美人だったりしねぇかな」


「そんなのありえねぇだろ」


「だよなぁ……」



朝からテンションが下降気味の誠を慰めながらふたりで高校へと向かうのだった。

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