第5話、屋上での決闘

 ~1~

 考える。思考のうみへ、僕は埋没まいぼつしていく。

 意識はやみの中へ沈んでいく。代わりに思考はより鮮明に、より明瞭めいりょうに冴え渡っていきそのまま思考のうみへと埋没していく。

 何をかんがえているのか?それは言うまでもない。花咲アサヒの事だった。

 昨夜、僕はアサヒがいているのを見た。見てしまった。それに動揺どうようして僕は彼女を止める事が出来なかった。そう、僕は彼女のなみだを見て、それに深く動揺してしまったんだ。

 考える。深く、思考の海に心を沈めていく。

 果たして、僕は花咲アサヒの心をすくう事が出来るのだろうか?僕は、彼女の痛みをきちんと受け止める事は出来るのだろうか?

 分からない。そもそも、僕が彼女アサヒを救いたいという気持きもちは所詮、彼女の気持ちを一切考慮に入れていない傲慢ごうまんでしかないのだろうか?本当は、彼女はそんな事を一切望んでいないのではないだろうか?彼女は、救いなんてもとめていないのではないだろうか?

 だとしたら、僕は一体どうすればいのだろう?

 何かをしたい。僕は、アサヒに対して何かをしてやりたい。アサヒを心から救ってやりたいと思っているんだ。それはきっと、間違まちがいはない筈だ。

 それは、きっとアサヒにとって余計なお世話せわでしかないのだろう。きっと、アサヒはそんな事はのぞんでいないのだろう。

 けど、しかし。だったら僕はどうしてアサヒをすくいたいと思ったんだ?アサヒに対して救いたいと思ったのはどうしてだ?それは、果たして彼女アサヒに対して自分自身じぶんじしんを重ねただけだったのだろうか?

 本当ほんとうに?

 そもそも、どうして僕は其処そこまで彼女に執着しゅうちゃくしているのだろう?彼女に対して自分自身をかさねていただけでは到底説明が出来ない。それに、彼女と初めて会った時に強く印象にのこっていたのはどうしてだ?どうして、其処まで強く印象に残っていたのだろうか?

 本当に、彼女の苛烈かれつな性格に自分ぼくもああなっていたかもしれないと、そう思っただけだったのだろうか?本当ほんとうは、僕は花咲アサヒに対して……

 いや、流石にそれ以上の考察は早計そうけいだろう。僕は彼女に対してたすけたいと、そう本心から感じた。心から救いたいと思った。それがすべてなのだろう。

 それ以上の考察は邪推じゃすいでしかない。きっと、それこそが全てなんだと思う。

 そう、僕は考察をめくくった。

 きっと、この疑問ぎもんも何れ解決かいけつするだろうと信じて。

 ・・・ ・・・ ・・・

 目をます。何時もの宿舎の一室にあるベッドだ。枕元にいてある時計は午前六時過ぎを差していた。今日は確か、訓練はやすみだった筈だ。だったら、二度寝に入るのも偶には良いのではないだろうか?そんな事をかんがえていたのだけど……

 ふと、視界の端に何かがうつった。それは、昨夜この部屋にはかった筈のもの。

 メモ用紙だった。扉のそばに、半分に折りたたまれた一枚のメモ用紙が落ちているのが見えた。

 そのメモ用紙自体は、何処どこにでもあるありきたりなメモ用紙だ。恐らく、そこら辺のコンビニにでもられているような。そんな安物やすもののメモ用紙。

 けど、どうしてこんな所に、それも扉のちかくに半分に折りたたまれたメモ用紙が落ちているのだろうか?まるで、扉のそとからメモ用紙だけをし込んで部屋の中に入れたかのようではないか?

 ……少し、嫌な予感よかんがした。

「……何だ、これ?」

「ん、どうしたイブキ。何かへんな事でもあったか?」

「変な事って言うか。変なものが落ちていた」

「……変なもの?」

 ギンガが怪訝けげんな顔をしながら目元をこすっている。まあ、その反応も当然だろうとそう思いながら、僕はとりあえずベッドからき上がって扉の傍に歩み寄る。

 其処に落ちていたメモ用紙をひろい、開いてなかを見る。

 其処には、とても丁寧ていねいな文字で簡潔かんけつにメッセージが書かれていた。

 屋上でつ。今すぐ宿舎の屋上に来られたし。其処で決闘けっとうを望む。と至って簡潔に書かれていた。そして、メモ用紙のはしにはやはり丁寧な文字で名前なまえが書かれているのが見えた。その名前をんですぐ、僕はメモ用紙をぐしゃりと握りつぶした。

 嫌な予感よかんは、測らずも的中てきちゅうした。

 その様子を見て、ギンガが怪訝な表情のままい掛けてきた。

「お、おい……何かあったのか?そのメモ用紙に何がかれていたんだ?」

「用事が出来た。今すぐ出かけてくる……」

 それだけげて、僕は部屋を出ていった。

 部屋を出て、扉をそっとめる。そして、すぐに僕は廊下をけ出した。そのメッセージを締めくくるように書かれていた名前なまえ。それは花咲アサヒだった。

 落ち着け、あせるな。そうはやる気持ちを何とか落ち着けようとする。けど、それでも流石に無理むりだった。どうしても焦ってしまう。

 どうして、アサヒが僕に決闘けっとうを申し込んだ?このメッセージは一体何だ?そもそもどうして僕はこんなにあせっている?決闘を申し込まれた所で、そもそもそれを受ける必要なんて何処どこにもない。そんなメッセージなんて、無視むしして教官に言ってしまえば良いのではないか?それをしないのは何故なぜ?何もかもが分からない。

 けど、これだけはかった。今、僕は非常に焦っている。困惑こんわくしている。それだけは何とか理解出来たから。僕は必死ひっしに二階三階と上がっていく。必死に階段を上がっていく。どうして、アサヒはこんな真似まねをしたのか?理解出来ない。

 けど……

 思い出す。思えば、昨夜のアサヒは何処どこか、何時にもして心の余裕が無いようでまるで張り詰めたような感じさえあった。何処か、もろく儚いガラス細工のようなあやうささえ感じさせたから。

 それに、あの時彼女が流したなみだ。それが今になっても頭からはなれない。どうしても脳裏にこびりついて離れてくれないのだ。

 焦るな。焦っては意味いみがない。一度落ち着くべきだ。

 そうはおもうものの、それでも僕は焦る気持ちをおさえきれない。どうしても、焦りが勝ってしまい酷く動揺どうようしてしまう。

 どうして、今更いまさらになってこんな事を考えてしまうのか?

 分からないけど、それでも僕は……

「くそっ‼」

 思わず、愚痴ぐちってしまう。けど、今は愚痴っている場合ばあいではないだろう。早くアサヒにって彼女に直接話をかなくてはならない。

 だから、僕は階段かいだんを上がっていき。やがて屋上へ辿たどり着く。屋上の扉は普段は鍵が掛かっており、そとに出る事は出来ない筈だ。しかし、屋上の扉は現在誰かに壊されたのか鍵がいているのが確認するまでもなく分かった。

 そもそも、誰が鍵を壊したかなんて。それこそうまでもないだろう。

 扉を開ける。屋上には、アサヒがっていた。鋭い視線で、僕をにらみ付けているのが理解出来る。とても、剣呑な気配をまとっていた。

 まるで、張り詰めた糸のようで。或いは、鋭いナイフのようで。

たわね。じゃあ、早速始めましょうか……」

 そう、アサヒは端的たんてきに告げた。

 ~2~

「どうして……」

 思わず、口をついて出てきた疑問ぎもんの言葉。それは、自分自身でも非常に驚くくらいにかすれた声だった。しかし、どうしてもわずにいられない。

 どうして、と……

 どうして、アサヒがこんな事をしているのか?どうして、僕達がたたかわなくてはならないのだろうか?何もかもが、分からない。

 けど、それでもアサヒは僕をにらみ付ける。まるで鋭いやいばのように、まるで一本の剣であるかのように。アサヒは鋭い視線で僕を睨み付けてくる。あまりにも鋭すぎる殺気と殺意がアサヒから向けられている。まるで、喉元のどもとに直接ナイフを突きつけられているかのような鋭い殺気と殺意だ。

 それが、とてもこわい。怖いけど、それでもわずにいられない。

 そんな僕に、アサヒはあくまで冷淡れいたんな声で告げる。何処までも殺意と殺気に塗れた鋭い気配をにじませて。

「どうして、ですって?何を今更いまさら。言ったでしょう?叢雲イブキ、私は貴方の事が大嫌いだって。そうはっきりと言った筈よ?」

「……………………」

「だから、此処ここではっきりと決着けっちゃくを付けましょう。私が勝ったら、貴方には私の前から居なくなって貰う。私の前から素直すなおに消えてちょうだい」

 その言葉には、有無うむを言わさない尋常じんじょうならざる殺気が籠められていた。恐らく僕が此処ではっきりと拒絶きょぜつしたとしても、それでも彼女は止まってくれないだろう。それがいやでも理解出来るくらいに、彼女はり切れていた。

 そうだ、もはや彼女はまれない。止まるには、もう彼女はとっくの昔に振り切れてしまっているから。だから、でも……

 でも、それでも僕は……

 それでも、僕は彼女を。花咲アサヒの事をまもりたいと思ったから。それだけは決して間違いようのない事実じじつだったから。それだけは、どうしようもなく嘘偽うそいつわりのない本心だったから。

 それは、果たして何故なぜなのか?それはからないけど。それでも、僕はきっと彼女に対して強い想いをいだいているのだろう。

 それだけは、きっと間違いようのない事実だったから。

 だから、僕は強くアサヒを睨み付ける。嘘偽りのない本心をつたえる為に。

「ごめん、それだけは絶対に約束やくそく出来ない」

「……………………」

「僕は、正直君とはたたかいたくない。君と、もっとはなしていたい。もっと、一緒に頑張っていきたいと思っていたんだ。今でも、そうおもっているんだ」

「……そう、」

 アサヒのかおを見る。アサヒは、凄く不愉快ふゆかいそうな顔をしていた。まるで、煩わしい羽虫でも見ているかのような。そんな至極しごくうっとうしそうな目だった。

 どうして、僕はそんな目で見ているのだろうか?僕は、もう彼女のこころに触れる事は絶対に出来ないのだろうか?

 どうしても、彼女をすくう事は出来ないのだろうか?それは、所詮不可能事でしかない夢物語ゆめものがたりだったのだろうか?もう、彼女は絶対ぜったいに立ち止まれない所にまで来てしまっているのだろうか?僕のこえはもう、彼女に届かないのだろうか?

 もう、分からなかった。分かる気がしなかった。

「やっぱり、私は貴方イブキの事が大嫌いよ。本当に、うっとうしいったらない」

「アサヒ……っ」

「死んでしまえ」

 そう言って、アサヒは僕に向かってけ出した。

 その時の表情ひょうじょうは、何処か泣き出しそうなほどにかなしげな。そして、何処か迷子の子供のようなさみしげな表情をしていた。その時の彼女の顔を、きっと僕は……

 何時までもわすれる事は無いだろう。

 ~3~

 しかし、僕が思考停止していられる時間など刹那せつなほどもありはしなかった。

 アサヒの手に長槍ながやりが生成されたのを見て、僕はすぐに正気に戻った。そして、そのまま咄嗟に横に跳んで回避かいひする。以前も見た、方天戟ほうてんげきにも似た形状の長槍だ。その槍による斬撃で、屋上のとびらはまるで紙切れのように容易くち切られた。屋上の扉があっさりと断ち切られ、そのまま派手な音を立てて床へと落ちる。

 そのあまりにも鋭すぎる斬撃のあとは、深く壁までも切りいている。どうやら生成された固有武具はかなりの性能せいのうを誇っているらしい。あまり試した事は無かった為その威力いりょくまでは流石に知らなかったけど。

 流石に僕ですら、思わず冷や汗を禁じえなかった。

 マズイ。これは非常ひじょうにマズイ。何がマズイって、このままではアサヒを止める止めないの問題ではなくなってしまう事だ。

 アサヒは本気ほんきだ。本気で、僕をころそうとしている。流石にこれ以上は固有武具を生成して挑まないと僕も本当に死んでしまう。けど……

 アサヒはいていた。泣きながら、長槍ながやりを振るっていた。そんな彼女を、僕はどうしても切る事が出来ない。泣いている女の子を相手あいてに、僕は刃を向けるなんて、

「っ、どうして……アサヒ……っ」

「どうしてですって?それはこっちのセリフよ!どうして、貴方あなたは固有武具を生成してたたかおうとしないの!どうして、貴方はそれでも私にやいばを向けようとしないの!私はこんなにも刃を向けて挑みかかっているのに‼どうしてっ‼」

「っ、それは……」

「そんな貴方の事が大嫌だいきらいよ!大嫌い!最初にった時から、貴方の事が心底から気に食わなかった!貴方の事を腹立はらだたしいと思っていた!どうして、私がこんなにも貴方一人に心をかきみだされなくてはいけないのよ‼」

「っ、アサヒ……」

 今、アサヒは心のそこから。腹の底から悲鳴ひめいを上げている。自身の本心に耐え切れずに悲鳴を上げているのだろう。

 どうして、アサヒはこんなにも。どうして、アサヒはこうまでも孤独こどくでいようとするのだろうか?どうして、アサヒはかたくなに一人になりたがるのか?

 決まっている。そんなもの、アサヒの過去かこを考えればすぐに理解出来る筈だ。

 アサヒは愛すべき家族かぞくを失った。すべてを、天罰事件によって。あの神によって奪われたんだ。その痛みは、その喪失感そうしつかんはアサヒにとってかなりの衝撃を与えたのだろうと思う。文字通もじどおりアサヒ自身、これ以上失いたくないと思わせる程に。

 そして、だからこそアサヒはこう思ったのだろう。これ以上、失うつらさを味わうくらいならいっそ、もう二度と何もたないと。これ以上失いたくないから。何も失うものを持たないと。そう、決めたのだろう。

 その気持ちは、当然僕にも理解出来た。きっと、僕だって義父とうさんや義母かあさん。或いはギンガ達が居なければそう結論けつろんを付けていただろう。僕だって、下手をすればああなっていただろう自覚じかくがある。

 そうでなければ、僕の心だってきっとえ切れなかっただろうから。

 僕自身の心が、耐え切れないだろうから。

 だからこそ、自らそのみちを突き進もうとするアサヒの事を、どうしても放っておく事が出来ないんだろう。僕は、きっと本質的におなじであろうアサヒの事を決して放っておく事が出来ないんだ。どうしても、それだけは出来ないんだ。

 きっと、根本的こんぽんてきな部分で僕もアサヒも同じなんだろうと思う。僕もアサヒも、きっと根本的につよくなる事が出来ないんだ。精神的に、何処かあやうさを抱えているのが僕達なんだろう。

 致命的ちめいてきなまでに、僕達は内面的なもろさを抱えて生きているんだ。失う辛さに耐えきる事がどうしても出来ないんだろう。

 それゆえに、だからこそ……

 自ら、その道を歩もうとするアサヒを僕は放っておく事なんて、そんな事どうしても出来ないんだ。

 どうしても、出来できないんだよ!アサヒ!

「どうしたのよ、いどんできなさいよ。貴方も、固有武具をして私に刃を向けて掛かって来なさいよ!其処そこでヘタレていないで、ほら!ほらほらぁっ‼」

駄目だめ、だ……」

「っ‼」

「僕には、そんな事は出来できない……」

「何、で……どうして‼どうして貴方は其処までして私にやさしくしようとするの!どうしてそんなに貴方はあまったるいの!そんな事では、神を相手あいてに戦えない!神を相手に何も出来やしないのに!どころか、このままではまたうばわれるだけよ‼」

「……っ‼」

 うばわれる。また、奪われる。

 その言葉に、僕は思わずヒートアップしそうになった。その手に固有武具を生成し掛けてしかし、何とかそんな自分をおさえ込む。

 頭を横にり、何とか自分をち着ける。だけど、そんな僕にアサヒはそれでも一切の容赦をしない。どころか、さらにヒートアップしたようだった。

 アサヒが、更に激高げきこうする。

「っ、何で。どうしてよ‼どうして、其処まで貴方は私を苛立いらだたせるの‼どうして貴方は其処まで私を虚仮こけにするのよ‼私にいどんで来なさい。私に刃を向けなさい!私に掛かって来て私を倒して見せなさい。私を、私をころしてよおおっ‼」

「ぐっ、アサヒ……」

 もう、おそらくアサヒ自身じしんも自分自身が何を言っているのか、全く理解出来ていないのだろう。言っている事が、もはや支離滅裂しりめつれつだった。

 もう、彼女の頭のなかはぐちゃぐちゃになっていて。アサヒ自身、どうしようもないのかもしれない。だからこそ、もうアサヒを殺すしか方法はいのだろうか?

 本当に、アサヒを殺さないといけないのだろうか?

 分からない。何も、分からない。

 本当に、僕はもうアサヒをすくえないのか?アサヒに僕のこえは、もう二度と届きはしないのだろうか?

 そんな諦観ていかんが、僕の心を支配しはいし始めた。その時だった……

 ~4~

 階段をけ上がってきて、誰かが屋上に上がって来た。

「イブキっ‼」

「アサヒちゃんっ‼」

「「っ⁉」」

 屋上に、ギンガとユキの二人があらわれた。どうやら、僕達の心配しんぱいをしてこうして屋上まで来たらしい。だけど、どうして此処ここが?

 そう思ったけど、ギンガの事だ。きっと、今まで方々をさがし回ってようやく此処まで来たんだろう。

 けど、流石に今この状況じょうきょうはかなりマズイ。今、アサヒを刺激しげきするのは非常にマズイだろう。

「待っていろ、イブキ!もうすぐ、ばあちゃんが来る筈だから!」

「っ、待ってくれ。ギンガ!今は、僕達をめないでくれ‼」

「「……っ⁉」」

 僕の咄嗟とっさの言葉に、ギンガもユキも驚いていた。

 それは、当然アサヒも心底驚いた様子だったけど。それでも何とか平静を装ったように僕へと挑発ちょうはつを投げ掛けてくる。

「へえ?もしかして、やっとやる気になってくれた?」

「いや、まだ僕はアサヒとたたかいたくない。それは絶対にわらないよ。変えるつもりも断じてい。僕は、アサヒとは戦いたくないんだ。どうあっても、それだけは絶対に変わらないし変えるつもりも無いよ」

「っ、また貴方はそうやって。私を何処どこまでも……」

「でも、」

「っ⁉」

 でも、それでも……

 それでも、僕は……

「僕は、アサヒがくるしんでいる時に。アサヒがつらい時に、何もしてやれないような情けない男にだけは絶対ぜったいになりたくない!だから、こうしてアサヒがどうしても辛くなった時には僕はこうして、アサヒの気持ちをけ止めてやるから!だから‼」

「…………」

「だから、どうかそのおもいは真っ先に僕へぶつけろ‼つらい時は、真っ先に僕が真正面から受け止めてやるから‼だから、いっ‼」

「っ、ああああああああああああああああああああああああああっっ‼」

 そうして、僕に向かってアサヒはけもののような叫びを上げて突進してきた。僕も彼女の想いに真正面から応え、受け止めるべくアサヒの槍捌やりさばきを素手でさばく。

 決して、固有武具は出さない。けど、それでも彼女の想いに対してもうげたりはしないとちかったから。今、自分自身に誓ったから。

 だから、もう僕は一切彼女の攻撃をけたりしない。真正面から、彼女の想いを受け止めるんだ。その為に、こうして彼女の攻撃を素手すでで捌いていく。

 無論、それは決して容易たやすい事ではない筈だ。どころか、むしろ僕が圧倒的なまでに不利だろう。アサヒの槍捌やりさばきは、既に達人たつじんレベルにまで達している。その変幻自在の槍捌きを素手で捌くのは、至難のわざだった。

 事実、アサヒの攻撃の大半は、僕の身体に少なくない傷をきざんでいる。もう、僕の身体には幾つもの傷が刻まれていた。

 変幻自在の槍捌き。それは、まさしく千変万化に変化へんげする自在の斬撃を次々と繰り出してきて。そのあざやかなまでの槍捌きに、僕はさばき切れず傷付いていく。

 けど、それでも僕がアサヒの槍捌きをギリギリ捌けているのは何故なぜか?それは決してこれまでの地獄のような訓練が身をむすんだからでは決していだろう。それも当然あるだろうけど、そもそもそれをうならアサヒだって、あの訓練を一緒に受けていた筈だし。

 同じ訓練を受けていたなら、より技量ぎりょうで勝っている者の方が格段に有利なのは間違いが無い筈だ。だったら、どうして?

 どうして、僕はアサヒの変幻自在とまでべる槍捌きにギリギリで付いていけているんだ?

 それは分からないけど、それでも僕はアサヒの攻撃をギリギリで捌く事が出来ていたのは間違いないだろう。どうしてか、先ほどから僕の思考しこうがクリアになっているのが理解出来る。というよりも先ほどからどうしてか、頭の回転かいてんがスムーズだ。

 まるで、自動的に頭の回転が効率化こうりつかされているかのように。

 まるで、頭の回転が自動的に最適化さいてきかされているかのように。スムーズに高速化こうそくかされていくのが理解出来る。いや、理解りかいさせられている?

でも、今はそんな事を考えているひまなど無いだろう。むしろ、今はもっとアサヒに集中してやるべきだ。だったら、僕は其処で思考を切る。

 より、アサヒの方に集中しゅうちゅうして。アサヒの想いを真っ直ぐに受け止める。

 そんな僕に、アサヒもきながら長槍ながやりを振るい続ける。変幻自在で思わず見惚れてしまうような槍捌きだったけど、それでもきっとアサヒにだって体力の限界はあるのだろう。何処か先程から槍捌きがにぶってきているのが分かる。

 単純に体力がにぶってきているのだろう。或いは、単純に僕に対して気圧けおされただけなのか。はたまたその両方か。まあ、そんな事はこのさいどうだって良い。

 今は、アサヒの想いにこたえるのが先だ。アサヒの想いを真っ直ぐ受け止めてやるのが何よりも先決せんけつだろう。だから、僕はだまってアサヒの槍捌きをただ捌いていく。アサヒの想いをただ黙ってけ止めていく。アサヒの想いに、真っ直ぐ応える。

 アサヒの顔に、目に見えて疲労ひろうが浮かび上がっている。アサヒの槍捌きが、格段に落ちているのが分かる。それを、僕はただ黙って捌き続ける。

 そんな僕に、それでもアサヒは長槍ながやりを振るい続ける。アサヒは限界を超えて手に持った長槍を振るう。僕も、それに応える。

 アサヒの想いを、真っ直ぐに受け止める事だけをかんがえて……

「アサヒちゃん……」

 そんなアサヒを、ユキが何処かかなしそうに見ていた。やっぱり、アサヒの事を大切に思ってくれているのだろう。アサヒには決して、想ってくれる友達ともだちが居ない訳ではないんだ。アサヒにだって、しっかりと想いやってくれる仲間が居る。

 きっと、それをみ取るほどの余裕よゆうが無かっただけなんだ。だから、僕が彼女の想いの捌け口になってやる。僕が、彼女のおもいを真っ直ぐに受け止めてやる。

 彼女の怒りは、悲しみは、絶望ぜつぼうは、全て僕が受け止めてやる。どうしようも亡くなった時は何時でも、僕がこうして相手あいてになってやる。

 アサヒの事を一人になんて、絶対にさせてやらない。だからっ‼

 瞬間、ついにアサヒは限界が来たのだろう。彼女の足ががくんとくずれた。

 其処そこを、僕は決して見逃みのがさない。

「アサヒっ‼」

「っ⁉」

 そうして、僕はアサヒの許にみ込んだ。思わずといった様子ようすで、アサヒは硬直しそのまま目をぎゅっとつむる。

 だけど、僕は決してアサヒを殺したい訳じゃない。アサヒを倒したい訳でも断じてないんだ。

 ただ、アサヒともっと仲良なかよくなりたいだけなんだ。

 本当に、それだけだから……

 僕は、アサヒをぎゅっと強くき締めた。

 ・・・ ・・・ ・・・

「……………………?」

「アサヒ、気はんだか?」

 僕は、アサヒをそのままぎゅっと強く。けど出来る限りやさしく、いたわるようにしっかりと抱き締めた。屋上が、一転して静寂せいじゃくに包まれる。

 しばらくして、ようやく自分の状況が理解出来たのだおる。アサヒが静かに慌てた様子が感覚的に分かった。けど、それでも僕は彼女を放しはしない。

 アサヒももう、僕を振りほどく程の気力きりょくすら残っていないのだろう。一切の抵抗すらしなくなっていた。

 そんな彼女を、ぎゅっと僕はより強くき締めた。

「……どう、して?」

「どうして、か。どうしてだろうな?どうしてこんな事になったのかなんて、僕にも理解出来ないよ。そもそも、どうして此処まで僕がアサヒに執着しゅうちゃくするのかすら僕は分かっていない。けどそれでも一つだけかっている事があるんだ」

「それ、は……?」

「アサヒの事を、ほうってはおけない。アサヒの事を、一人ひとりにしたくない。それだけは嫌でも自覚出来るから。だから、僕はなにがあってもアサヒを一人にしない。それはきっと、あいつだって。有栖ユキだっておなじ筈だぞ?」

「……………………」

 そう、きっとアサヒの事をおもってくれているのは僕だけではない。それはユキだってきっと同じ筈だ。ユキだって、いままでアサヒの事を一人にしないようずっと傍に付き添ってやっていた筈だ。それが分からないアサヒでは無いだろう。

 ただ、無意識的に意識的にそれを無視むししていただけだ。

 何故なぜ?それは、きっとそれは。自覚じかくしてしまえば自分がどうして此処まで努力してきたのか分からなくなってしまうからだろう。自覚してしまえば、覚悟して選んだ筈の孤独の道にまよいが生じてしまうからだろう。

 だから、きっと今まで意図的にそれを無視むししていた。きっと、自覚してしまえば甘えてしまいそうだったから。

 でも、それでもアサヒを一人にしてくれない仲間なかまは居る。他でもないユキがそうであったように。僕にとって、ギンガがそうであったように。

 だったら、そもそも僕なんて必要ひつようなかったのではないか?僕が何もしなくてもアサヒにはユキが、そばに寄り添ってくれていたのではないか?そう、僕自身思ったりもするけれど。それでも僕はアサヒの傍に居たかった。

 僕自身が、どうしてかアサヒの傍に居たいと思ったんだ。それは、絶対にゆずりたくは無かった。本当に、どうしてだろう?

 けど、だからこそ。だからこそきっと、それこそが全てなんだろう。

 そう、思っているから。だから、僕はきっとアサヒのおもいを真っ直ぐ受け止める事にしたんだろうと、そう思う事にした。

 きっと、それこそが全てなんだろうと。

「きっと、僕はアサヒの事をほうっておけなかったんだ。ずっと一人ひとりでいようとするアサヒの事を、敢えて自分から孤独こどくの道を進もうとするアサヒの事を、それでも僕は放っておく事なんてどうしても出来できなかったんだ。それは、きっと僕も下手をすればそうなっていたかもしれないみちだっただろうから」

「……………………」

「僕も、アサヒと同じだ。神のせいで、全てをうしなった。家族をまもる事も出来ないで奪われたのはきっと間違まちがいがない。けど、それでも……」

「……?」

「それでも、きっと僕はギンガような親友しんゆうとか。あるいは僕をその後育ててくれた義父や義母の存在があったからこそ、きっとち直る事が出来た。それこそが、それだけがきっと僕とアサヒのちがいだったんだろう」

「……⁉」

「だから、だけど。それでも孤独の道をあゆもうとするアサヒに言いたい。僕が、アサヒにとってのそれになってやる事は出来できないだろうか?僕にとっての親友や義父と義母のような存在に、アサヒにとってのそれに、心のささえに僕がなってやる事は出来ないだろうか?」

 花咲アサヒにとっての、心のささえに。アサヒの心をつなぎとめる為の支えになってやる事は出来ないだろうか?

 僕はアサヒの肩をつかみ、真っ直ぐき合った。

 そして、真っ直ぐとアサヒに向き合いそうい掛けた。どうか、僕の気持ちをきちんと理解して欲しい。アサヒの気持ちも、理解するから。

 真っ直ぐ、アサヒの想いに応えるから。アサヒの絶望ぜつぼうに、アサヒの怒りに真っ直ぐ応えてやるから。アサヒの悲しみをのこらず全て受け止めてやるから。

 アサヒの気持きもちを理解する精一杯の努力どりょくをするから。だから、どうか僕の気持ちをアサヒも理解して欲しい。

 そう、心からねがう。

 そんな僕に対し、アサヒは目から大粒のなみだを零しながら呟く。

 その声を、ふるわせて。

「……何よ、それ。どうして、貴方が其処そこまで私にかまってくるのよ。どうしてみんなして私の事をほうっておいてくれないのよ。どうして、っ」

「どうしてだろうな、分からないよ。けど、それでもきっと僕はアサヒの事を放っておく事なんてどうしても出来できなかっただろうから。きっと、それがすべてなんだろうと思っている。きっと、他のみんなも同じだろう?」

「何よ、それは。分からない、貴方の言っている事は全く分からないよ……」

 訳が分からない。

 そう、静かに呟いて。アサヒは大粒のなみだこぼしながら、まるで今までの気持ちを全て出し尽くすかのように大声を上げてきじゃくった。その顔は、まるで……

 まるで、以前僕があのころに……

 いや、今それを考えるのは無粋ぶすい極まるだろう。だから、僕はだまってアサヒの背中に腕を回してそっと、ふたたび抱き締めてやった。

 アサヒがき止むまで、アサヒの想いを真っ直ぐけ止める為に。僕はアサヒを優しく強く抱き締めた。そんな僕に、アサヒはまるで今までし込めてきた感情の全てを吐き出すように大声おおごえで泣きじゃくった。

 そうだ、アサヒは今までずっと、自分の感情おもいを押し殺してきたんだ。自分自身を全て押し殺して生きてきたんだ。だったらもう、それらすべてを今此処で吐き出してしまえば良いんだ。

 これ以上我慢する必要ひつようはない。もう、これ以上溜め込む必要はない。全て、此処で吐き出してしまえば良い。全部すべて、僕が受け止めるから。そう、決めたから。

 アサヒのその姿に感化かんかされたのか。ユキも口元に手を当てていている。そんなユキの背中にギンガは苦笑を浮かべながら、片手で優しくでていた。

 そんなギンガに、ユキは更にいていた。

 しばらく、アサヒはこえを上げて泣き続けた。そして、アサヒが泣き止んだ後。どうやらアサヒが泣いている最中さいちゅうにようやくたらしい、ジンリーダーとアリカ教官が僕達に事情をきたいとい詰めてきた。まあ、確かに此処まで大事になったら流石にごまかすのは不可能ふかのうだろう。もう、アサヒ自身欠片もごまかすつもりは無いようだったけれど。

 僕自身、長槍ながやりで受けた傷が痛むけど。そもそも、僕自身決して軽傷けいしょうでは済まない大けがを負っているけれど。それを何とか我慢がまんして、状況説明をする事にした。

 そして、僕達は二人揃って教官とリーダーに事情を説明せつめいする事になった。アサヒは既に観念していたのだろう、素直すなおに事情をくわしく話していた。

 というより、敢えて僕をかばうように言わなくてもい事まで話していた。

 まあ、僕自身もアサヒをかばうように言わなくて良い事まで話していたような気がしなくもないけれど。其処はおたがい様だろう。

 もちろん、リーダーのジンには心底呆れられ、アリカ教官には二人揃って説教を受ける羽目になったのだけれど。まあ、其処は別に良いか。

 僕は、アサヒの想いを受け止め傍でささえると決めたのだから。この程度は仕方がないと割り切る事にしよう。

 思わず、僕は苦笑をこぼしてしまったのはまたべつの話だ。

 いや、正直血を流し過ぎて少ししんどいのは内緒ないしょだ。

 ~5~

 そして、小一時間ほどアリカ教官の説教せっきょうが続いただろうか?ようやく僕達は解放かいほうされる事になった。小一時間ほど正座せいざを続けていた為、僕もアサヒも共に足が痺れて上手くてないでいた。 

 いや、それ以上に僕自身決して軽傷けいしょうではないのだけど。まあ、其処そこはもう気にしない事にしよう。少し、しんどい程度ていどの話だ。

 それに、まあこの程度は所詮仕方のない事だ。当然のばつとして受け止めるしかないだろうと僕は自分の中でり切る。

 そうして、僕達はそろって屋上からようとする。のだけど……

 だけど、どうやらまだ話はわっていなかったようだ。屋上を出ようとしてすぐアリカ教官に呼び止められた。

「……えっと、何か用事ようじですか?」

「いや、お前じゃなくて花咲アサヒに用事ようじがある。お前にも一応用事はあるが、その傷をなおすのが先決だろう。今はかえって貰っても構わないぞ?」

「……いえ、もう少しちます」

 どうやら、アサヒにまだ話があるらしい。まあ、恐らく屋上に無断で侵入しんにゅうした事と勝手に決闘けっとうを行った事に対する処罰を今、此処でくだすのだろう。

 場合によっては、僕も一緒にばつを受ける覚悟かくごを決めている。だったら、傷がどうだとかそんな事を言っている場合ばあいではないだろう。

 そう思っているのをアリカ教官はどうやら見通みとおしていたらしい。すっと僕に鋭い視線を向けてきた。

「そうか、だが一つだけっておく。これはあくまで花咲アサヒへの処罰しょばつだ。故に例え貴様が一緒に処罰を受けると申告しんこくしても決して通らんからな」

「っ、し、しかし教官!」

 尚も反論はんろんしようとする僕を、今度はジンリーダーがめた。

 その口調は、何処までもきびしいリーダーとしてのものだった。

めておけ、叢雲イブキ。これはあくまでルール違反いはんをした花咲アサヒに対する処罰でありお前に対する処罰ではない。だからこそ、本来は無関係むかんけいだった筈のお前までわざわざ処罰を受けに行く必要ひつようなんて無いんだよ」

「し、しかしリーダー!僕も決して無関係むかんけいでは、」

「これ以上わがままを言うなら、此処からまみ出すからな。それが分かったら大人しくだまって見ていろ。いな?」

「……っ、イエスサー!」

 まだ、納得なっとくは出来ないもののそれでも僕は此処ここで引き下がるしかなかった。せっかく覚悟を決めたところだったのに。それが無駄むだに終わるなんて、くやしかった。

 そんな僕に対し、アサヒの方は既に覚悟かくごが決まっているのか表情ひょうじょうを引き締めて真っ直ぐとアリカ教官をていた。その表情に、アリカ教官はほう?と思わず関心したようなみを浮かべた。

 そして、アサヒに対する処罰がアリカ教官の口からくだされる。

「花咲アサヒ!」

「はい‼」

「貴様はこの神殺し部隊におけるルールを二つもやぶった!一つは勝手かってに屋上へ立ち入ってはならない事!そして、もう一つは隊員同士での許可きょかの無い決闘私闘を行ってはならない事!それゆえに、貴様には教官である私自ら処罰を下す事とする‼貴様にその覚悟かくごはあるか‼」

「はい‼」

「よろしい!では、処罰をくだす‼貴様には一週間ほどの宿舎謹慎しゅくしゃきんしんを言い渡す‼」

「…………っ、はい?」

 思わず、アサヒの口から間抜まぬけな声がれた。僕も、思わず自分の耳を疑いそうになったくらいだ。

 えっと、今アリカ教官はなんて言ったのだろう?宿舎に謹慎きんしん?それも、一週間?

 きっと、僕とアサヒの思っている事はおなじだろう。アサヒに対する処罰しょばつがその程度で本当にいのだろうか?と。

 いや、流石におもすぎる処罰を下されても僕としてはこまるのだけど。それでもアサヒが行った違反行為に対して処罰がかるすぎないだろうか?

 少なくとも、部隊をい出されるくらいの覚悟かくごを決めていたであろうアサヒとしてはかなり軽い処罰だったのだろう。アサヒ本人としては拍子抜ひょうしぬけだった筈だ。

 そうおもっていると、早速アリカ教官から罵声ばせいが飛んできた。

「何だ!何か不満ふまんでもあるか‼」

「い、いいえ!ありませんっ‼謹んでけさせて頂きます‼」

「よろしい!では、これより一週間の宿舎謹慎を言い渡す‼決して宿舎内から出る事を許しはしないと思え、いな‼」

「い、イエスマム‼」

 そうして、アサヒは宿舎への謹慎処分きんしんしょぶんが言い渡されたのだった。思わず、呆然とする僕に対して、アリカ教官がつぎとばかりに視線しせんを向けた。

 その視線の鋭さに、視線のあつに、思わずすくみ上がる。さっきまでの疑問が一気に吹き飛ぶ程の威圧感をアリカ教官ははなっていた。

「叢雲イブキ‼」

「っ、はい‼」

「貴様はび出されたとはいえ、無断で屋上に侵入しんにゅうし花咲アサヒとの決闘に結果的とはいえった事に変わりはない‼それは理解りかいしているな‼」

「はい‼」

「しかし、貴様は最後さいごまで花咲アサヒを同胞どうほうであると気遣い、決して刃を向ける事を良しとしなかったと聞く。相違そういはないな‼」

「…………っ」

 これは、果たして正直にこたえても良いものだろうか?この返答へんとうによって、結果的にアサヒを裏切うらぎる事になりはしないだろうか?

 アサヒの方を、ちらりとる。アサヒは、恐らく正直に真実しんじつを答えて欲しいと思っているのだろう。真っ直ぐ、僕を覚悟のこもった目で見ていた。

 けど、僕は。それでも……

 そう、心配する心をどうやら教官に見透みすかされていたらしい。更なる罵声が僕へと飛んでくる。その罵声に、思わずすくみ上がった。

「叢雲イブキ!相違はないな‼」

「っ、はい‼ありません‼」

 内心で、アサヒにあやまりながら僕は教官に返答へんとうを返した。

 その内容に、教官はうむとうなずくとにやりとみを浮かべた。その笑みは、何処か慈しみといたわりに満ちているようだった。

 あくまで、僕の勘違かんちがいかもしれないけれど。

「なら良し!貴様もアサヒ同様、一週間の宿舎謹慎を言い渡す!いな‼」

「っ、イエスマム‼」

「うむ、だが貴様には私から直々に言葉ことばを掛けておこう。くやった‼」

 え?今、僕はアリカ教官からめられたのか?

 どうして?そう思うも、答えが出ずに呆然ぼうぜんとしてしまう。そんな僕に、アリカ教官は苦笑を浮かべつつもその場をっていった。リーダーのジンも、苦笑を浮かべつつ屋上を立ち去っていく。えっと、どういう事だ?

 それは、アサヒも分かっていないようで。アサヒも呆然としていた。

 そうして、思わず呆然としてしまった僕に、ギンガはあとでこっそりと。それも教官にはくれぐれも内緒ないしょにとそう釘をされた上で教えてくれた。

 どうやら、アリカ教官はかけがえのない同胞どうほうであるアサヒの暴走ぼうそうに対し、最後の最後まで諦める事なく説得を続けた僕を高く評価ひょうかしていたらしい。

 アリカ教官は何時になく上機嫌じょうきげんだったとか。あれでも、アリカ教官はおにと恐れられる一方で部下を大切に思いやるやさしさも持ち合わせていたらしい。それも、アリカ巨漢が部下からしたわれる要因だったのだとか。

 今回、アリカ教官がアサヒの処分しょぶんを軽くしたのも、アサヒの気持きもちをしっかりと汲み取った上で彼女を思いやったがゆえだったらしい。

 何だかんだ、肝心かんじんなところで部下にあまい教官なのだとか。

 その話を聞き、僕はすこしだけアリカ教官に対する認識にんしきを改める事にした。まあ確かに怖い教官なのは間違まちがいないだろうけど。それでもただ怖いだけの鬼教官ではないのも確かなのだろう。

 事実じじつ、アリカ教官はアリカ教官なりに部下ぶかを思いやってくれているのは間違いようのない真実だった。だったら、僕もこれからは必要以上にアリカ教官を恐れるのは止めようと、そう僕はおもった。

 ~6~

 その後、部隊内でアサヒと僕のルール違反いはんが知られる事となった。しかし、それと同時により詳細しょうさいな違反の内容ないようも知られる事になった。どうやら、ありもしないデマが広まる前にギンガとユキが事の真相しんそうを広めて回ったらしい。

 そうしないと、下手をすれば妙なうわさが独り歩きして、後々とんでもない事になる所だったとギンガとユキが教えてくれた。

 例えば、アサヒと僕が二人で勝手かってに屋上に上がり、不順異性交遊にふけっていただとかそんな不名誉極まりない噂があやうく広まる所だったと。

 わらえねえ。そう、僕が思わず口元を引きらせてしまったのは、もはや言うまでもない事だった。

 ただ、それでもギンガとユキが噂を修正しゅうせいして回った影響えいきょうが全く出なかった訳では決してかったのだろう。

 そのせいかどうかは知らないけど、隊内での僕のかぶが爆増する事になった。

 いや、何でさ?

 まあ、其処は別に良い。問題もんだいは、あれ以来僕のもとにひっきりなしにはげましの言葉を掛ける為に隊員が来るようになり、そして逆にアサヒの事をしざまに言う隊員が増えてしまった事だ。たして、どうしたものだろうか?

 せっかく、アサヒのおもいに真っ直ぐこたえると決めたのに。それなのに、今はどうする事も出来ないでいる。それが、非常ひじょうにもどかしい。

 果たして、どうするべきなのか?

 そう思っていると、ある日ギンガが謹慎中きんしんちゅうである僕の腕を引っ張って来た。

「おい、イブキ。ちょっとアサヒのもとに行こうぜ」

「えっと、今僕は謹慎中の筈だけど。流石にまずくないか?」

「何、大丈夫だいじょうぶだろ。ばあちゃんも言っていただろ?あくまで宿舎謹慎だって。宿舎内から出なければ違反いはんになったりはしないさ」

 な、何ていう屁理屈へりくつだ。そう、僕は思わずあきれ果てた。

 けど、それでも僕はアサヒの傍でささえると決めたんだもんな。

 なら、この程度の覚悟かくごは決めるべきか?いや、でも……

「……………………」

「ああ、もう!お前ももう少し自分に素直すなおになりやがれ!行くぞ‼」

「あ、おいっ‼」

 ギンガは、無理矢理僕のうでを引っ張って部屋をた。流石に、少しばかり強引過ぎやしないだろうか?そう思うものの、ギンガは一向にかまう様子がない。

 そうして、僕とギンガは部屋から出た。

 部屋からた僕達は、そのまま周囲しゅういの目も気にせずに。というか、ギンガが僕の腕を無理矢理ぐいぐいと引っ張ってれて行く。

 その光景に、それを目撃もくげきした隊員達が呆然ぼうぜんと見ていた。中にはぎょっとしたような目で僕とギンガをている人もたくらいだった。

 全く、何て強引な。そう、思わなくもない。けどまあ、確かに僕も少しくらいは素直になった方が良いのかもしれない。そう、思った。

 そして、アサヒの部屋の前。僕はギンガに少し口をとがらせて文句もんくを言った。

「全く、ギンガは本当に強引だな?」

「そうか、まあいじゃねえか。この程度ていどの事くらいは」

「全く、知らないぞ?アリカ教官に説教せっきょうを喰らっても」

「ははっ、そいつはおっかねえや。でも、上等じょうとうだ」

 そして、ギンガはそのまま部屋のとびらをノックする。

 その後、少しだけ中でさわがしい声がこえてきた。何だか、少しあわてたような声とそれをなだめる声が聞こえてくる?どうやら、なかで二人が言い争っているよう。

 何でも、そんなのいてないとか。今更別にいじゃないとか。良くない、私の気持ちも少しはかんがえてとか。そんなこえが聞こえてくる。一体、何の話をしているのだろうかと気になる気持ちもうそではない。

 けど、その気持ちを僕は何とか我慢がまんする。

 この部屋はアサヒとユキの部屋だ。確認かくにんしなくても、その二人がい争っているのだろう事くらいは理解出来た。

 だけど、その言い争いもやがて終息しゅうそくしていき。やがて扉がひらいた。

 扉をけたのは、ユキだった。

 ・・・ ・・・ ・・・

 ユキは、どうしてかにこにこと満面のみを浮かべて僕を見ていた。えっと、どうしてそんなに満面の笑みでわらっているんだ?どうして、僕をそんなに満面の笑みでじっと見つめているんだ?少し、怖気おじけづく。

 何か、ありそうだと身構みがまえた。けど、それを無視むししてユキは僕とギンガを。

 いや、僕だけを中にんだ。

「イブキ君だけはいって良いよ。私とギンガ君は、そとで待っているから」

「いや、何で?流石に一つの部屋に男と女が。それも、絶賛厳罰中の男と女が一緒にって拙過ぎないか?」

「おやおや?イブキはもしかして、なかでいかがわしい事でも期待きたいしてるのか?」

「あら?あらあら?それは本当ほんとうかな?もしかして、アサヒちゃんはえた野獣にこのままおそわれちゃうのかな?」

「いや、しえねよ!それをしたら、僕が社会的にわるじゃねえか‼」

 まったく、お前達は僕の評価ひょうかを地に落としたいのか上げたいのか分からないよ。

 隊内たいないでの僕の評価を上げたと思ったら、今度は逆に地に落とすつもりか?一体何のつもりだと苦言くげんを呈したい。いや、正直問い詰めたい。

 というか、野獣って何だ!僕をなんだと思っているんだ!

 だけど、そんな僕をギンガとユキはにまにまといやな笑みを浮かべながら微笑ましげに見ているだけだった。本当に、どういうつもりだ?

「いやいや、それはともかくだ。さっさと中にはいれよ。これでも俺達はお前達に対して気を使っているんだぜ?」

「そうよ、さっさと入ってよ」

「お、おいっ!て、お前ら‼」

「せーのっ、ほいっ‼」

 そう言って、僕は部屋の中にし込められる。本当ほんとうに、一体何なんだ?

 そう思って、文句もんくを言いながら部屋の中へ視線をうつす。部屋の中心には、やはりと言おうかアサヒの姿すがたがあった。

 というか、あうあうとかおを真っ赤にしてうつむいていた。うん、まあそれも当然の反応だろうと僕自身思う。かなり思っている。流石に一つの部屋へやに、それも年頃の男と女が二人きりってそれは流石に拙過ぎるだろう……

 あれ?もしかして、僕は二人にめられたのか?もしかして、僕は社会的に抹殺されるのだろうか?

 え?社会的に殺されるの?僕……

 思わず、こわくなった。

 そんな、恐怖にふるえる僕に、アサヒがおずおずとはなし掛けてきた。

「え、えっと。イブキ?」

「は、はいっ‼」

「……………………」

 思わず、声が裏返うらがえってしまった。思えば、アサヒはほかの同年代の女の子に比べてとても整った顔立ちをしている。それに、なによりとても僕のタイプだった。

 肩まで伸ばしたつややかな黒髪、くりっとしたひとみにやや小ぶりな顔立ち。程よく出る所は出ている胸。きゅっとき締まった腰。どちらかと言えば、綺麗というよりもむしろ可愛かわいいというべきだろう女の子だった。

 何時いつもは、鋭く細めた目に冷淡れいたんな表情で分かりにくいけど、それでも十分に可愛いと言えるだろう。いや、可愛い少女だった。

 そんなアサヒが自室じしつだからなのだろう。シャツに半ズボンというラフな姿で僕の前に座り込んでいるのが分かる。

 そして、まるでおびえる小鹿こじかのように座り込み、頼りない目で僕を見ている。

 思わず、僕の顔があつくなるのが自覚出来た。

「えっと、あの。ちがっ……えっと?」

「…………はぁっ、まあ、いよ。流石にイブキ君も女の子と一緒いっしょの部屋に押し込められたら歳相応に緊張きんちょうするんだね?」

「……………………」

 そんな風に、アサヒにあきれられてしまった。あぅっと、僕がうつむいてしまう。

 大の男が可愛くもない事くらい、自覚じかくしている。

かっているよ、別に私だから緊張きんちょうしているんじゃないって。其処は別に、期待なんてしていないから」

「……ちがうよ。僕は、アサヒだから緊張きんちょうしているんだよ」

「…………え?」

 呆然と、僕を見詰みつめるアサヒ。そんな彼女に、僕はじっとっ直ぐ視線を合わせるように見詰める。自分の顔が、あつくなる。けど、真っ直ぐとアサヒの顔を見る。

 その視線に、アサヒはあわてたように顔をあかくして視線を逸らした。

「ま、まままさか冗談じょうだんを!そそそそんなお世辞せじは要らないから!」

「お世辞せじなんかじゃない。僕は、素直にアサヒの事を可愛かわいいと思っている。そりゃ流石に女の子と一緒の部屋に二人きりなんて状況ははじめてだったけどさ。それでもきっとアサヒだからこそ、こんなに緊張きんちょうしているんだろう」

「っ、あうぅ……」

 いや、僕は一体何を言っているんだろうか?これじゃあ、まるで愛の告白こくはくでもしているかのようじゃないか。

 いや、まるでじゃなくて本当に愛の告白でもしているかのようなセリフだ。

 けど、ちがう。そうじゃないから。僕はべつに、愛の告白をしている訳じゃないから其処はくれぐれも間違まちがえないように‼

 果たして、僕は一体誰に対して言いのがれをしているのだろうか?

 それすら分からない。言ってしまえば、混乱こんらんしていた。

 だけど、そんな僕に対してアサヒはくすくすと心底しんそこおかしそうに笑った。どうやら少しばかりっ切れたらしい。まあ、吹っ切れたなら別にいんだけど。

 そう、ふてくされたようにそっぽを向いた。全く可愛かわいくない事くらい、きちんと自覚は出来ている。だから、少しほうっておいて欲しい。

 そして、僕は素直すなおにアサヒに頭をげた。

「……ごめん、流石に緊張しすぎていた。まあ、別にきみに対して手を出すつもりは無いから其処は安心あんしんして欲しい」

「え?手をしてくれないの?」

「いや、アサヒまでなにを言っているのさ?君まで僕のかぶを落とすつもりか?」

「ふふっ、冗談じょうだんよ。分かっているから、イブキは私の事をおもってくれた上でこうして優しくしてくれてるんでしょ?其処は信頼しんらいしているから」

「…………うん、まあ」

「大丈夫よ、そんな貴方だからこそ、私も信頼しんらいしているから。きっと、そんな貴方だからこそ私もきになったのだろうし」

「……っ」

 なんだろうか?これ、ものすごくずかしい。アサヒも恥ずかしいのか、顔を真っ赤に染めて視線をらしている。

 うん、何だろうか?このものすごくお見合みあいっぽいシチュエーションは?

 駄目だめだ!完全に混乱こんらんしてしまって、上手く思考が回らない!

 それは、アサヒもどうやらおなじらしい。顔を真っ赤にしてあうあうと呻いているのが分かる。

「と、とにかく!何か話しましょう!どのみち、しばらくあの二人が此処ここから出してくれないだろうと思うし……」

「そ、そうだな!一緒に何か、とりとめのないはなしでもしてやり過ごそう!」

 一体、僕達は何の話をしているのだろうか?

 そう、思っていて。やがて逆に馬鹿ばからしくなってきた。

 本当に、僕達は一体何をやっているのだろうか?

「ふ、ふふっ……あははははっ」

「は、はは……はははははははははっ」

 僕とアサヒが、同時にわらい出した。腹をかかえて、二人揃って腹から笑う。

 本当に、此処まで心底しんそこから笑えたのは何時いつぶりだっただろうか?此処まで楽しいと思えたのは何時ぶりだっただろうか?からないけど、それでも楽しかった。

 心底から、楽しかった。それだけは、きっと本当ほんとうだろう。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そうして、僕とアサヒは会話かいわを楽しんでいた。最初の関係がまるでうそであるかのように僕達はお互いに信頼しんらいし合い、思った以上に会話を楽しめた。僕自身、これほどまでに楽しい気分になれたのは本当にひさしぶりの話だっただろう。

 恐らく、此処ここまで僕が心をゆるせたのはギンガと僕の家族以外、他に誰も居なかったのではないだろうか?そうとさえおもえてくる。

 それくらいに、心をゆるせていた。

 とても楽しい。出来できれば、こんな日々がずっとつづいてくれればと思う気持ちも確かにあるだろう。けど、それでもきっと、そんなわけにはいかないだろう。

 僕は、あの日の悲劇ひげきを忘れてはいけない。それはきちんと自覚じかくしている。

 だから、僕は……

 僕は……

「イブキ、どうかしたの?そんなにこわい顔をして……」

「……いや、何でもない。それより、少しいか?アサヒ」

「うん、何?」

 こてんと首をかしげるアサヒ。そんな姿が何処か可愛かわくて、少し苦笑してしまう。

 以前までの、極限まで気をっていたアサヒは一体何処にったのだろうかと思わない訳ではない。まあ以前のアサヒより、今のアサヒの方がずっとこのましいと思っているけど。いや、この際だから本音ほんねを語ろう。

 僕はきっと、アサヒの事が大好だいすきなんだ。友達としてではなく、一人の女性おんなとしてアサヒの事をあいしてしまっているのだろう。

 アサヒの事が大好きだ。この世で誰よりも、深く強く愛している。

 でも、それでも僕はまだアサヒにこの想いをつたえる訳にはいかない。まだ、僕にはやるべき事があるんだ。それをわすれてはいけないだろう。

 だから、

「今度、謹慎きんしんけたらどうか僕と一緒に来て欲しい場所があるんだ」

「えっと、何処どこに行くの?」

「それはまだ、言えない。けど、アサヒにって欲しい人が居る」

「……うん。えっと、分かったよ」

 そう言って、アサヒが了承りょうしょうしてくれた。かった。アサヒが了承してくれて。

 そう、僕はこっそり胸をで下ろした。

 さて、それからだ……

 僕は、入口の扉をじろりとにらむ。いや、実際にはそのこうに居るであろう。今もこっそりと僕達の事をぬすみ聞きしている二人を、にらみ付ける。

「そろそろいんじゃないか?ぬすみ聞きしているんだろ?二人とも」

「「っ⁉」」

 扉の向こうから、息をむ二人の気配けはいを感じた。アサヒもじとりとそちらに半眼を向ける。

 さっきから、ずっと僕達の会話かいわを盗み聞きされていた。というか、こそこそ二人が小声で会話する声がしっかりこえていた。

 全く、誰と誰がラブラブだって?

 そう思っていたら、すこし気まずそうに扉をけて入ってきた。そんな二人に、僕とアサヒはそろって半眼を向ける。

 そんな僕達に、ギンガとユキの二人は同時に土下座どげざをした。見事な土下座だ。

 それこそ、土下座とは到底思えないくらいに芸術的で見事な土下座だった。

 けど、それでも僕達はゆるさない。

 僕はギンガを、アサヒはユキを、それぞれ上から見下みくだすようにつめたい視線を向けて仁王立ちした。ギンガとユキは、更にちぢこまるように委縮いしゅくする。少し、面白い。

 まあ、それはどうでもいか。

 僕とアサヒは同時にうなずき、ギンガとユキに笑顔えがおを向けた。その笑顔に、ほんの少しだけ安堵あんどしたように二人は笑みをこぼした。安堵のあまり、その目には涙が滲んでいるのが分かる。どうやら二人はゆるされたと勘違いしているようだ。

 けど、僕とアサヒは決して二人をゆるした訳ではない。むしろ、許さない。

 其処は決して勘違かんちがいしてはいけない。じゃあ、どうするのか?

 もちろん、僕達の判決はんけつはとっくにまっている。にっこりと、僕とアサヒは満面の笑みで同時にわらい。

 無慈悲に判決をくだした。

「「ギルティっ‼」」

「「ぎゃふんっ‼」」

 僕とアサヒのこぶしが、それぞれの頭にり下ろされた。二人の悲鳴が、見事なデュエットを奏でて綺麗きれいにシンクロした。

 さて、すっきりした。そうおもって、アサヒをてみると。アサヒもどうやら同じらしく僕に親指を立ててわらっているのが見えた。それに対し、僕も満面の笑顔で親指を立て返した。そんな僕達を他所よそに、ギンガとユキの二人は目をまわして床に倒れ伏したのだった。

 その姿が、中々に滑稽こっけいで。僕とアサヒは同時にき出した。

 全く、やれやれだ。

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