第38話:桜井さんとした約束って……えっ!?

 桜井さんとのミーティングを始めてから二時間程が経過した。


「それじゃあ今日のミーティングでお伝えしたい事はこれで以上です、お疲れさまでした!」

「はい、わかりました! 今日もミーティングありがとうございました、お疲れさまです!」

「はは、こちらこそですよ。それじゃあさっさと後片付けをして帰りましょうか!」

「はい、そうですね!」


 という事で桜井さんに伝えておきたかった内容は全て伝えきったので、今日のミーティングはこれで終わりにする事にした。そして俺達はそのままレンタルオフィスの後片付けを始めていった。


「いや、でもあのホームページ本当に凄かったです! 友瀬さんって本当に何でも出来るんですね! あんなにも綺麗なホームページを作って貰って本当にありがとうございました!」


 レンタルオフィスの片付けをしている間に桜井さんは俺に向かってそんな事を話しかけてきてくれた。


 なので俺は桜井さんの方に顔を向けてみると、桜井さんは目を輝かせながら俺の方を見てきてくれていた。はは、それだけ喜んでくれたなら俺も作った甲斐があったというものだな。


「いやいや、当たり前ですけど出来ない事の方が多いですよ。今回はたまたま俺の得意分野だったというだけですって。まぁそれでも今回のスズハちゃんのホームページ作りは本当に楽しかったんで、俺の方こそホームページを作らせて貰ってありがとうございました!」

「い、いえいえ! こちらこそ本当に本当にありがとうございました!」


 そんな事を話し合っていたら突然とお互いへの感謝の応酬をし始めていった。まぁでも本当にそれだけスズハちゃんのホームページ作りは楽しかったという事なんだ。


(でも……ここまで楽しく仕事が出来たのは本当に久しぶりだったな)


 何というかこの一ヶ月半の間は、俺達がクルスドライブを設立した一番最初の頃に似た楽しい気分を味わえていた気がした。いやあの頃のクルスドライブは本当に楽しかったんだけどなぁ……はぁ、全く。


「……あっ、そうだ! それじゃあホームページが完成したという事は、これからしばらくは友瀬さんは繫忙期は抜けたって感じですかね?」

「ん? あぁ、はい、そうですね。この一ヶ月半はほぼホームページ作りに力を注いできてたので、逆にここからは結構暇になっちゃうかもしれませんね、あはは」


 この一ヶ月半の間にトイッターの運営、ショート動画の作成、ホームページの作成の三つを主に仕事として取り組んでいたわけだけど、その中でも俺はホームページ作成に一番力を注いでやっていた。


 そしてそんな力を注いでいたホームページ作りがいよいよ終わったという事で、ここからは俺も暇な時間が少しずつ増える事になりそうだ。


(それなら香月との約束もあるし……もうそろそろ曲作りを再開させていこうかな?)


「あっ、それじゃあ! もしこれから友瀬さんに暇な時間が増えるようでしたら、以前に友瀬さんとお約束していた“アレ”をそろそろ実行しようと思うんですけど……どうですかね??」

「ん? アレって……? え、えっと、すいません……何の事でしたっけ??」


 するとその時、唐突に桜井さんは何やら“アレ”についての提案をしてきた。でも俺は桜井さん交わした“アレ”についての約束が何の事なのか全く覚えていなかったため……俺はキョトンとした表情をしながら桜井さんにそう問い返していってしまった。


「あはは、何言ってるんですか友瀬さん! 一番最初に交わした約束があるじゃないですか! 友瀬さんに“御馳走をする”っていう約束ですよ!」

「え? あ、あぁっ! そ、そういえば確かに……」


(あぁ、そういえばそんな約束をしてたなぁ……やばい、すっかり忘れてたよ……)


 そういえば一番最初……桜井さんがVチューバーをやっているというのを知った時に、桜井さんからモデレーターのお願いを受け入れる代わりにご飯を奢ってほしいと俺が言ったんだ。それなのに言いだしっぺの俺の方がその約束を忘れていただなんて……。


「……えっ? と、友瀬さん……もしかして本当に……その約束を忘れてしまってたんですか……?」

「えっ……? あ、あぁ、いやっ! そ、そんな事ないですよ! もう本当にすっごく楽しみにしてましたよ! あ、あははー」 


 俺が心の中でそんな事を思っていると、桜井さんは見透かしたように悲しそうな顔をしながら俺に向かってそう喋りかけてきた。なので俺は慌ててそんな事はないと言っていった。


 ……いや、まぁでも今の俺はスズハちゃんのモデレーターだけではなく、全体のサポート役として雇われている状態なので、そのご飯を奢って貰うという約束自体が無くなったものだとばっかり思っていたんだ。


 だけど桜井さんの中ではその“ご飯を奢る”という約束はまだ生きていたようだ。まぁでも桜井さんがご飯を奢ってくれるというのなら、俺は喜んで奢って貰う事にしよう。それじゃあ桜井さんには何のコンビニ弁当を奢って貰おうかなぁ……?


「あぁ、はい! それなら良かったです! ふふ、私との約束をしっかりと楽しみにしていてくれて本当に良かったです!」

「え、えぇ、もちろんですよ。やっぱりご飯を食べる時が一番幸せに感じますからね、あはは」

「はい、そうですよね! ですから……精一杯頑張って友瀬さんに美味しいご飯を作っていきますね!」

「はい、わかりました! ……って、は、はいっ?」

「あ、友瀬さんって何か嫌いな食べ物とかはありますか? もしあるようなら先に言っておいてくれると助かります!」

「え? あ、えぇっと……貝類が苦手なくらいですかね? それ以外は何でも食べれるかな?」

「あ、そうなんですね! はい、わかりました、それならお肉系のご飯の方がいいですよね? よし、それじゃあ腕を振るって美味しいお肉料理を友瀬さんに御馳走してあげますね!」

「え……えっ?」


 そう言いながら桜井さんは可愛らしく両腕にグッと力を込めてガッツポーズをして見せてきた。いや元アイドルの可愛らしいガッツポーズを目の前で見れるのはめっちゃ嬉しいんだけど……えっ!? で、でもそれってつまりその……えっ!?


「え……えっ? そ、それってつまり……桜井さんが俺に手料理を振舞ってくれるってコト……なんですか??」

「あ、はい! もちろんですよ! 料理は大得意なんで私に任せてくださいね!」

「え……えぇえええええっ!?」


(ご、御馳走を振舞うってのはつまり……桜井さんの手料理を食べさせて貰えるってコトだったの!?)


 い、いや俺はコンビニ弁当を奢って貰うつもりでそう言っただけなのに……それなのにまさか桜井さんの手料理を食べさせて貰えるだなんて……マ、マジで良いんですかっ!?

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