第37話:持つべきものは昔から仲良くしてくれてる友人達って事だよね

「う、うわ、ビックリした!? って、どうしたんですか桜井さん??」

「え……えっ!? い、いやだって……その……か、香月さんってあの香月さんですかっ!? 最近だとあの某人気ゲームや某人気ラノベのイラストなども担当されているあの香月さんの事ですかっ?」

「え? あ、は、はい。その香月さんですよ」


 興奮状態になっている桜井さんを見て少しビックリとしながらも俺はその香月だと伝えていった。


「え……そ、そうなんですかっ!? わわ、すっごい……! いや実は私は香月さんの大ファンなんです! まだ香月さんが商業デビューされる前のヌコヌコ動画時代から知ってますし! いやでもそんな昔から大好きだったイラストレーターさんにスズハちゃんのイラストを描いて貰えたなんて……もうすっごく感動しちゃいましたよ……!」


 どうやら桜井さんが興奮状態になっていた理由は香月の大ファンだからのようだ。桜井さんは香月の事をずっと昔から知ってくれていたようで、そんな香月が描いてくれたスズハちゃんのイラストを見て本当に感動してくれているようだった。


「そうなんですね。はは、それなら頑張って香月……さんにお願いしてみて良かったですよ」

「はい、もう本当にすっごく感動しちゃいました! あ、あれ? でもこれって香月さんに有償依頼で頼んだんですよね? という事は……これってもしかして物凄くお金がかかってしまったんじゃないんですか……? わ、私にそんな大金を支払えるかはちょっとわからないんですけど……」


 でもそれからすぐに桜井さんは顔を青くしながら俺にそんな事を尋ねてきた。まぁ普通に香月に依頼したらそれなりに高くなるかもしれないんだけど……。


「あぁ、いやその点については大丈夫ですよ。今回は初回の依頼という事で色々と値引き交渉に応じて貰ったので。なので以前桜井さんに聞いておいた毎月の予算内にちゃんと収まるような値段で仕事を引き受けて貰えたので安心してください」


 桜井さんからはスズハちゃんの宣伝・広告費に毎月幾らまで使っても良いかを聞いていたので、その値段以内に収まるように香月には依頼しておいた。もちろん香月の依頼には友人割も適用してくれたので、それなりにお手頃な価格で引き受けてもらったのであった。


(まぁその代わりに“早く新曲作れ!”って催促されちゃったんだけどさ)


 うん、香月からの恩を返すためにも早く新曲を作っていかないとだな。これからも頑張っていかなきゃだな。


「あ、そ、そうなんですか? そ、それなら良かったです! でも子供の頃からファンだった香月さんにスズハちゃんのイラストを描いて貰えるだなんて……本当に嬉しいですよ! いやこんなにも嬉しすぎる偶然ってあるものなんですね!」

「はは、そうですね。でもそんな昔から香月さんの事を知ってるだなんて凄いですね。ヌコヌコ動画時代の香月さんを知ってるって、もうだいぶ昔の話しですよ?」

「え? あぁ、はい! いや実は私は小学生の頃から如月サクちゃんが大好きだったんですけど、その頃の私が毎日のように聞いていたサクちゃんのオリジナルソングのMVを香月さんが担当されてたんです! だから香月さんの事は私が小学生の頃からずっとファンなんです! 香月さんが商業デビューをされた時には本屋に急いで向かってその雑誌を三冊も買っちゃったくらいですしね!」


 どうやら桜井さんは小学生の頃から如月サクのオリジナルソングを聞いていたようで、その頃から香月の大ファンだったらしい。


「はは、そうだったんですね。多分その話を香月さんが聞いたら物凄く喜ぶと思いますよ。あっ、そうだ、そういえば香月さんから桜井さんに渡しておいて欲しいって言われて預かっていた物があるんですよ」

「え……えぇっ!? か、香月さんから私宛てにですか!? い、一体何でしょうか?」

「はい、ちょっと待っててくださいね。えぇっと……はい、これです」


 俺はそう言って鞄の中から小さな封筒を取り出して、それを桜井さんに渡した。香月から受け取った物というのはこの小さくて可愛らしい一通の封筒だった。


「これは……お手紙……ですかね?」

「はい、香月さんもそう言ってました。それで、良かったら二人で読んでみてくださいって言ってました」

「あ、そうなんですね。それじゃあ早速開けてみましょうか?」

「はい、そうですね。わかりました」


 桜井さんはそう言ってその封筒を開けていき、その封筒の中に入っているメッセージカードを取り出していった。そしてそのまま俺と桜井さんはそのメッセージを一緒に読んでみる事にした。


“スズハちゃんの歌ってみた動画を聞かせて貰いました。凄く綺麗な歌声で聞いていてとても感動しました。私もスズハちゃんの事を応援していますのでこれからも頑張っていってください! そしてまたいつかスズハちゃんのイラストを描けるのを楽しみにしています。”


 そのメッセージカードには香月の可愛らしい手書きの文字でスズハちゃんに向けた応援メッセージが書かれていた。そしてさらにそのメッセージの下には……。


「わ、わわっ……!」

「おぉ……!」


 そのメッセージの下には……なんとスズハちゃんと如月サクが二人で仲良く歌を歌っている手描きのイラストが添えられていた。つまり香月による手描きのイラストがそのメッセージカードの下に描かれていたのであった。


 もちろん俺はそんな依頼を香月にはしていない。という事はこれは香月が無償でやってくれたサービスという事だ。


 そして香月が俺と桜井さんに一緒に見て欲しいと言ってきた理由は、きっとこの手描きのイラストを二人で見て欲しいと思ってそう言ってきてくれたんだろうな。


(はは、物凄く粋な計らいだな)


 という事で俺と桜井さんはそんな香月のサービス満点な手描きイラストを見ながらお互いに感嘆の声を漏らしていったのであった。

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