第34話:チャンネル登録者数がどんどんと減ってきてキレそうなんだけど(秀視点)

 紘一が持ってきてくれたあの超大型案件(報酬額:一億円)を引き受けてから一ヶ月半近くが経過した。


「はぁ、全くよぉ……」


 俺はため息をつきながらパソコン画面を眺めていた。パソコン画面にはクルスドライブのウーチューブの管理画面が表示されており、そこにはチャンネルの再生回数とチャンネル登録者数の推移が映し出されていた。


 そしてその管理画面からはクルスドライブの動画再生回数がどんどんと減少しており、またチャンネル登録者数もどんどんと解除されて減少してしまっている事が見て取れた。少なくともこの数日間だけでチャンネル登録者数は五千人近くも減少していた。


「はぁ、こうなったのも全部あの案件のせいだわ……マジでふざけんなよな!」


 こうなってしまった原因は全てあの大型案件のせいだった。俺達は一億円という報酬額につられてすぐさまあのサプリメントの案件を引き受けたんだ。


 それで案件用のタイアップ動画は撮影も編集も全て向こうの会社でやってくれるとの事だったので、俺達は向こうの会社の指示に従って貸しスタジオに赴いてそこでタイアップ動画を何本か撮影していった。


 そしてその数日後には編集済みの動画データが送られてきたので俺達はその動画をクルスドライブのメインチャンネルに順次投稿していった。これで俺達の仕事は全部完了したわけだ。


 いやたったこれだけの労力で一億円も貰えるなんて美味しすぎる仕事だと思ったんだけど……でも現実はそんなに甘くはなかった。


「はぁ、マジでうぜぇ事すんなよな……!」


 そのタイアップ動画を投稿した直後はそれなりに再生数も回っていたし高評価も高かったんだけど……でもそれからたった数週間後に突如として事件が起きた。その案件先のサプリメント会社が忽然と消えてしまったのだ。


 どうやらその案件をくれたサプリメントの会社は悪質な詐欺サイトだったらしく、サプリに入ってる成分とか効能を全て偽っていたらしい。


 そしてそんな話がチラホラと表に出てきたと思ったらすぐにそのサプリメント会社は飛んでしまい、今はもうその会社の人と誰一人として連絡が取れずじまいになっていた。


「はぁ全くよぉ……せめて飛ぶ前に俺達にちゃんと金を振り込めよな! これじゃあただ働きじゃねぇかよ!!」


 という事で俺達には案件報酬の一億円はもちろん振り込まれる事もなく、むしろ詐欺の片棒を担いでいたんじゃないかという事で世間からバッシングを浴びてしまう事となってしまった。


 まぁでもこのサプリの案件を引き受けていたのは何も俺達だけではなく、他のウーチューバーや芸能人でもこのサプリの案件を引き受けていた人がそれなりにいたらしい。なのでこの数日間だけで今回の件についての謝罪動画を出している人はそれなりにいた。


 そしてそんな謝罪動画が沢山投稿されたおかげもあってか、今回の炎上騒動はその案件を引き受けた人達で分散される形となった。なので俺達のチャンネルは何とか小火ボヤ程度の炎上で済んでいた。まぁチャンネル登録者数は減少してるし動画再生数も落ちていってるけどな。


「はぁ、でも生まれて初めて炎上事件に巻き込まれちまったなぁ……本当に今回はつくづく運がなかったな」


 今回の件については紘一が申し訳なさそうにしながら謝ってきたが、でもまさか案件先が詐欺会社だっただなんて誰にも想像つくわけがないからな。それに紘一にはいつも可愛い女を俺にアテンドしてくれてる恩もあるから今回は許す事にしてやった。


 それにこの案件を引き受けたヤツが芸能人含めてそれなりに沢山いたという事は、それだけ騙されてたヤツが多かったという事だ。だから俺達は何も悪くない。悪いのは俺達を騙した詐欺会社なんだからな。俺達はただの被害者なんだ。


 という事で今回の件に関しては俺達は何も悪くはないんだけど……まぁでも流石に俺ら以外のヤツらが一斉に謝罪動画を出していってるから、俺達も一緒に謝罪動画を出すことにした。そうしないと後々にメンドクサソウだしな。


 そんなわけで今週の始めにクルスドライブのサブチャンネルに謝罪動画を投稿しといたんだけど、でもその謝罪動画のコメント欄には「謝罪動画なんだからメインチャンネルに投稿した方が良いだろ」とか「しばらくは動画投稿を自粛した方が良いんじゃないか」とかの頭悪すぎるコメントが沢山ついてしまった。


「はぁ、全く……俺達は何も悪く無いのに何で自粛しなきゃなんないんだよ。それにこんなしょうもない動画をメインチャンネルに投稿する訳ないだろ。マジでこいつら馬鹿すぎるだろ」


 メインチャンネルにこんなしょうもない動画を投稿する訳ないし、俺達の動画が見たいと思ってるファンが多いんだから自粛なんてするわけないだろ。


 いや最近マジで頭悪すぎる視聴者が多くなってて困るわ。俺は馬鹿と会話すんのマジで嫌いだからやめて欲しいんだけど……ってか馬鹿はもう俺達の動画なんて一生見ないでくれていいわ。そこら辺んのクソつまんねぇウーチューバーの動画でも見てろよカスが。


「はぁ全く……でもこれからどうすっかなぁ……」


 小火ボヤ程度とはいえ炎上してしまったのは事実だ。動画の視聴回数も減ってきてしまったし、チャンネル登録者数も減ってきてしまっている。


 まぁでも動画の投稿頻度はここしばらくはずっと落ちたままの状態が続いているので再生回数が減っているのは仕方ない事だとしても、でもクルスドライブのチャンネル登録者もどんどんと減少していってるというのは非常にマズイ事だ。いや何がマズイのかと言うと……。


「このままのペースで登録者数が減っていったらいつか登録者数が300万人を割っちまうかもしんねぇな……」


 俺達の少し前にチャンネル登録者数が300万人を突破したんだ。そして現時点のチャンネル登録者数は309万人だ。それなのにこのままのペースでチャンネル登録者数が減少していったら……いずれは登録者数が300万人を割ってしまう事になるかもしれない。いやそんなのは超人気ウーチューバーグループとして一生の恥すぎるだろ。


 それに俺達クルスドライブは若者達から絶大な人気を誇っているというブランディングがあるのに……それなのにそんな超人気なクルスドライブのチャンネル登録者が毎日減っているというのが誰の目から見ても明らかになってしまっているこの状況は非常にマズかった。


「このままチャンネル登録者数がどんどんと減っていくと、若者達のカリスマという俺達のイメージが壊れかねないもんな……」


 でもこのボヤ騒ぎが収まるまでは登録者数が減っていくのは止めらんねぇよな。うーん、どうしたもんかなぁ……って、あ、そうだ!


「あ、そうだ! そう言えば今の時代ってウーチューブの動画編集とかを金で雇えるんだからさ……それならチャンネル登録者数も金で買えるんじゃねーのかな?」


 これはもしかしたら画期的な思いつきかもしれないな。俺はそう思って早速いつも使っているフリーランスで人を雇えるサイトに飛んでいき、そしてそのサイトから動画関係のタブをクリックしてみた。すると……。


「どれどれ……おっ、あったあった! って、えぇっ!? 一万円支払うだけでチャンネル登録者を一瞬で1000人も増やしてくれるプランってのがあるじゃん!? しかもこれ購入無制限なのかよ!? はは、何だこれめっちゃコスパ良いじゃん!!」


 という事は一人辺り十円でチャンネル登録者数を買えるって事か!? しかも購入したら一瞬でチャンネル登録者数を1000人も増やしてくれるだなんて神過ぎるだろ!


「よし、それじゃあ早速十回くらいポチってみるかな? とりあえず減少した登録者人数よりも多めの人数を買っといた方がいいもんな!」


 そうなると費用は十万円も懸かってしまう事にはなるんだけど、まぁでもこの数日間で減ってしまったチャンネル登録者数を一気に回収出来るなら安いものだ。


 だって俺達クルスドライブはカリスマの超絶人気ウーチューバーグループなんだ。だから絶対にチャンネル登録者数は300万人を切らないようにしないといけないんだ。


「んーでもこんな簡単にチャンネル登録者数が増やせるんだったらもっと早くに使えば良かったなぁ……はは、まぁでもいっか。このサービスを使えばチャンネル登録者数なんて買えば幾らでも増やせるってわかったし、これからはどんどんとこのサービスを活用していこう!」


 という事で俺はこんな神サービスを見つけてテンションを上げていきながらも、早速チャンネル登録者数を一万人程購入していった。

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