第33話:香月と固い握手を交わしていく

「いや実はさ、俺はこの数年間はウーチューバーの裏方とかサポート関係の仕事をずっとやらせて貰ってきてたんだ」

「へぇ、そうなんだ? それってつまり動画撮影とか編集とかの仕事をやってたって事? まぁアンタは昔から動画編集とかしてたわけだからそういうのを仕事にするのもアリかもね」

「あぁ、そうだよ。あとはそれにプラスして企画とか広報とかマネージャーとかその他諸々の雑務もこなしてたけどな」

「へぇ、そうなん……は、はぁっ!? いやそれウーチューブでやる仕事のほぼ全てじゃないの!? アンタそれちゃんと休み貰えてたの??」

「えっ? えぇっと、まぁその……あははは」

「おいコラ! 笑って誤魔化すんじゃないわよ!!」


 香月に核心を突く事を尋ねられてしまったので、俺は笑ってごまかしておく事にした。まぁそしたら香月にすぐさま怒られてしまったけど。


「ま、まぁそんなわけで俺は今までそんな仕事をしてたんだけどさ、でもつい最近になってそのウーチューバーとの契約が終了になったんだ。それで今は次の仕事先としてその新人のVチューバーの子の裏方とかサポートとかの仕事をさせて貰う事になったんだよ。だからさっき俺が言った“お手伝い”ってのはちょっと語弊があって、本当は“仕事”として引き受けてるって感じなんだ」


 香月には怒られてしまったけど、でもクルスドライブの件についてはかなりプライベートな部分になってしまうので、そこら辺の話は誰にも話す事は出来ない。


 という事でそこら辺をぼかした上で俺が今までやってきていた仕事についてを香月にざっくりとした内容で説明していった。


「……いや正直まだ色々と聞きたい事はあるんだけど、まぁでも今は聞かないでおいといてあげるわよ。でもなるほどね。だからアンタはこんなにも打ち合わせの手際が良かったのね。ふぅん、そっかそっか、ウーチューバーの裏方とかサポートのお仕事かぁ……」


 という事で香月は俺の説明を聞いてある程度は納得してくれたようだった。しかしそれでもまた香月はすぐに怪訝そうな表情で俺の方を見ながらこう言ってきた。


「……って、あれ? でも今ってウーチューバーとかVチューバーとかネットで活動をしてる人達ってかなり増えてるし、それに今はテレビに出てる芸能人とかもどんどんとネット活動に力を入れる人が続出してるわよね? だからアンタが今までやってきたそういう裏方とかサポート関係の仕事って年々需要が高まってるはずじゃないの?」

「ん? あぁ、それは確かに香月のいう通りだな」


 今よりもだいぶ前の時代にはテレビで活躍している人達はウーチューバーなどのネット活動をしてる人達の事をバカにするような風潮もあったりはした。まぁでもその当時の構図としては明らかにテレビ>>>超えられない壁>>>ウーチューブだったから仕方のない事だとは思う。


 でも近年ではそのような風潮は全くといっていい程無くなっており、テレビで活躍している人達も今ではどんどんとウーチューバーになってきている時代になっていていた。


 そして先ほども言ったようにネット活動のやり方は調べれば簡単に出るようになっているし、必要機材なども安く買える時代になったので、一般の人でも気軽にネット活動が初められる時代になった。


 という事で、そんな時代になってきたからこそ俺が今までやってきていた裏方やサポート役の仕事が出来る人達の需要というのもここ近年で爆発的に増えていってるんだ。


「それなのに何でアンタは次の仕事としてその新人のVチューバーと契約したのよ? その子って事務所に所属してる訳でもないただの個人勢なんでしょ? それだとアンタへの報酬金だってそんなに多くは支払って貰えないんじゃないの?」

「まぁそうだな。今の所は給料なんて全然貰えないとは思ってるよ」

「でしょう? アンタせっかく数年間も裏方仕事をやってきたっていう実績があるんだから、もっと大きな仕事とか取れたんじゃないの? それこそアンタは柚姉とすっごく仲良いんだからさ、柚姉に連絡したら柚姉のサポート役の仕事とか貰えたんじゃない? それに柚姉だってアンタがサポート役を引き受けてくれたら物凄く喜ぶでしょうし」

「うーん、いやまぁ確かにそれは一理あるかもしれないんだけどさ……」

「……? もしかして何かその新人の子のサポート役を引き受けた理由でもあったの?」


 俺が悩んだ様子を続けていると、香月は何か理由があると踏んで俺にそんな事を尋ねてきた。俺がスズハちゃんのサポート役を引き受けた理由か……。


「理由か……うん、そうだな。それじゃあ今からさ、この子のウーチューブのページを開いて貰う事って出来るか?」

「うん? それはもちろん大丈夫だけど、ちょっと待ってね」


 俺がそう言うと香月はすぐさまスマホを取り出してウーチューブの画面へと飛んでいき、そしてすぐに“倉瀬スズハ”と検索していってくれていた。


「……はい、開いたわよ?」

「あぁ、ありがとう。それじゃあさ、そのままその子が一番最初に投稿した動画を見てくれないか? それはまだその子がVチューバーになる前に投稿した動画なんだけどさ……それが俺がこの子のサポート役を引き受けた答えだよ」

「一番最初に投稿された動画……? あっ、これって……」


 どうやら香月は桜井さんが一番最初に投稿した動画を見つけたようだ。その動画というのはもう今から6年以上も前に投稿されたものだった。つまりその動画は桜井さんが倉瀬スズハちゃんになる前の……おそらく中学生だった頃の桜井さんが個人的に投稿した動画なんだ。


 そしてその桜井さんが初めてウーチューブに投稿した動画というのは“とある作曲P”が作った如月サクの曲を歌ってみた動画だった。


 その桜井さんが初めて投稿してみた歌ってみた動画はお世辞にも上手いとは言えない歌唱力だったし、再生回数も2万回程度しか再生されていないのだが……それでも俺にとってその歌ってみた動画はとても心に響く素敵な動画だった。だから俺は……。


「……ふふ、なるほどね」

「あぁ、納得してくれたか?」

「えぇ、まぁアンタらしい理由かもしれないわね。ふふ……」


 俺がそう尋ねてみると香月は優しく笑みを浮かべながらそう言ってきてくれた。


「俺らしい理由……か。はは、確かにそうかもな。まぁでも良かったら香月もこの曲を聞いてみてくれよ。この子曰くこの曲は歌詞が最高に良いんだってさ」

「はは、何を馬鹿な事言ってんのよアンタは。私だってこの曲の良さは遥か昔から知ってるわよ。全くもう、最古参のファン舐めないでよね? ふふ、まぁわかったわよ。それじゃあアンタからのイラスト作成の依頼は喜んで引き受けさせて貰うわ。そして私に依頼したからには最高のイラストをアンタ達に届けてあげるから覚悟しときなさいよ?」

「はは、香月の描くイラストは本当に綺麗だもんな。うん、それじゃあ改めて……これからもよろしくな香月」

「えぇ、こちらこそ」


 そう言って俺達は数年振りに固い握手を交わしていった。よし、これであとは俺が頑張ってホームページをしっかりと完成させるだけだ!

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