第32話:今まで24年も生きてきたけど彼女なんて一度も出来てねぇよ!

「まぁ、いいわ。これだけのしっかりとした資料を用意してくれてるんだから、アンタからの依頼は引き受けさせて貰うわよ」

「本当か? ありがとう! 恩に着るよ!」


 一通り資料を読み終えた香月は俺の依頼を引き受けると言ってきてくれたので、俺は改めてもう一度香月に向かってしっかりと頭を下げて感謝の気持ちを伝えていった。


 よし、これでまた一歩、スズハちゃんの公式ホームページの完成に近づいていったな。


「それにしても、アンタの友達で新しくVチューバーを始めた子がいるだなんてね。やっぱり今の時代は誰でも気軽にネット活動が出来るようになって本当に素晴らしい時代になったのね。ふふ、きっと十年前の私達にこの事を伝えたら物凄くビックリするわよ」

「はは、確かにそうだよな。俺達が活動を始めた頃はまだまだネット活動をしてる人なんて少なかったし、それに俺達と同世代でネット活動をしてるヤツをリアルで見かけるなんて事も滅多になかったもんなぁ」


 俺や香月がネット活動を始めた当時はやり方を調べるだけでも相当に大変だったし、それに機材集めとかにも金がかかるという事もあって、当時はまだまだネット活動をしてる人の数は少なかった。まぁ当時の俺も如月サクの曲作りを始めるために両親に土下座してパソコンを買ってもらった訳だしさ……。


 でも今はネット活動のやり方なんて検索にかけたら幾らでも簡単に見つかるし、それに機材集めだって今なら非常に安価で使いやすい機材も沢山売られてるしな。そういう時代の変化もあって今は昔とは違って誰でも気軽にネット活動が出来るという素晴らしい時代になっていた。


 いや本当に十年前の俺達にそんな事を言ったらビックリとされてしまうだろうな。


「……うーん、でも幾ら友達の子が新しくVチューバーを始めたからといっても、ここまでアンタが全力で手伝うだなんてそれはちょっとやり過ぎじゃない? ……あっ、もしかして……その子ってアンタの彼女さんか何かなの?」

「は……はぁっっ!? い、いや違うわ! ってか俺みたいなヤツが彼氏だとか相手に失礼すぎるだろそんなの!」


 そんな昔の事を懐かしく思っていると急に香月はそんな爆弾発言を俺にぶちかましてきた。俺は動揺しつつもちゃんとその言葉は否定しておいた。


「い、いや、相手に失礼すぎるって……何もそこまで自分の事を卑下しなくてもよくない?」

「えっ!? あ、あぁ、いやまぁ……あはは」


 俺みたいな平凡過ぎる男があんな滅茶苦茶に可愛い元アイドルの女の子と付き合ってるわけないだろ! ……って、思わず言いそうになってしまったんだけど、でも香月はそのVチューバーが元アイドルの女の子だって事は当たり前だけど知らないもんな。


 そして当然の事ながらクライアントの個人情報は絶対に秘匿するべきなので、俺は桜井さんの個人情報は何も伝えずにとりあえず笑って誤魔化しておく事にした。


「な、何で急に笑いだしてんのよ……普通に怖いじゃないの。いやというかアンタだってそれなりの見た目はしてるんだし、性格だって良い方なんだから普通にモテるんじゃないの?」

「はは……って、はぁっ!? お、俺がモテるだって!? いやいや全然そんな事ないんだけど!? だって今まで24年も生きてきたけど彼女なんて一度も出来た事はないし……それに昔の知人からは“お前は見た目が詐欺師っぽいな”って笑われた事だってあるんだぜ? そんな俺がモテるわけないだろ!」

「え、さ、詐欺師っ!? ……ぷっ! ぷははははっ! 確かにそう言われてみればアンタの風貌ってアニメとかで良く見る裏切ってきそうなキャラに似てるかもね! ぷはは、中々に面白い例えを思いつく知り合いがいたものね!」

「いや俺は全然面白くないからな!?」


 どうやら香月は俺の話がツボに入ったようで大きく声を上げながら笑いだしてきた。こんなにも大きく笑う香月はとても珍しいんだけど、でも俺は全く持って嬉しくないからな??


「はぁ、すっごく面白かったわ。いや久々にこんなに笑ったかもしれないわ」

「おい、笑い過ぎだぞコラ」

「ふふ、ごめんなさいね。ふふ、でもそっか……アンタって今まで彼女とかいなかったんだね……ふぅん、そっかそっか……」

「ん? 何か言ったか?」

「えっ? あぁ、いや、別に何でもないわよ」


 何か最後に香月はポツリと呟いてきてたんだけど、でもその声は小さすぎて俺の方からは聞き取れなかった。まぁ何でもないって言ってるし別に気にしなくてもいいか。


「ん? でもそれが彼女さんじゃないとしたら……それじゃあ何でその新人のVチューバーのお手伝いをこんなにも全力で頑張ってるのよ? 幾ら友達のためだからと言ってもアンタが今やってる事って素人レベルの頑張りを遥かに超えてるんだけど?」


 香月は先ほどの疑問にまた戻ってきて再度俺にそう尋ねてきた。という事でせっかくなので、俺はこの数年間にやってきた仕事をさらっとだけ香月に伝える事にした。

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