第31話:香月に本当のお願いをしていく
「……って、あぁ。もしかして今日私に会いに来た理由ってMV作成のお願いに来たの? あはは、なんだ。そんな事だったら別にいつでも引き受けるに決まってるんだから、そんな畏まった態度で私に会いに来なくてもいいわよ」
香月はあははと笑いながら俺に向かってそんな事を言ってきた。
「あ、いや……実はそれが本題じゃないんだ。ってかそもそも俺の新曲が完成するのっていつになるか全然わからないしさ」
「え? あぁ、まぁ確かに言われてみればそうよね。でも、それじゃあ私にお願いしたい事って一体何よ?」
すると香月はキョトンとした表情になりながら俺のお願い事についてを尋ねてきた。
「あぁ、いや実はさ……香月に有償でとあるVチューバーのファンイラストを描いて貰いたいんだ」
「Vチューバーのイラスト? 何よ、もしかしてアンタも柚姉みたいにVチューバーに転生したの?」
「いやいや、俺はVチューバーになってないよ。ちょっと友人みたいな感じの子が個人で新人Vチューバーをやっててさ、今はその子のお手伝いをしている所なんだ」
「ふぅん? そうなんだ?」
「あぁ、それで今はそのVチューバーの個人ホームページを作ろうと思っててさ、それで出来れば香月にはそのホームページに乗せる用のファンアートを描いて貰いたいんだ。今日はその相談がしたくて香月に会いに来たんだよ」
「ふぅん……?」
俺がそう言うと香月は目を閉じながら少しだけ考え事をしだしていった。
「んー、いやまぁアンタからのお願いなら私は全然引き受けても良いんだけどさ……でも漠然と新人Vチューバーのファンアートを描いて欲しいって言われても困るからね? 最低でも描いてほしいVチューバーの設定資料とかは欲しいし、描いて欲しいイラストのイメージや大きさとか、それに納期とかについても詳しく教えてくれないと引き受けられるかどうかなんてわからないわよ? まぁアンタの曲のMV作りは私がアンタの曲を聞いて好き勝手にイメージして描いてただけだからそういうのは全然気にしなくても良かったんだけどさ」
香月は目を閉じながらそんな事を俺に伝えてきた。多分香月は今までにイラストレーターとしてそんなやり取りを何度もしてきたんだろうなと簡単に察する事が出来た。だから俺は……。
「あぁ、もちろんわかってるよ。今香月が言ってきてくれた内容については予め俺の方で資料にまとめてあるから、まずはその資料を確認してくれると助かる。ほら、これが今回の資料だよ」
「……えっ?」
そう言って俺は鞄の中から数ページにまとめた冊子を取り出して、そのまま香月に手渡していった。すると香月はキョトンとした表情になっていたんだけど、でもすぐにビックリとした表情になっていっていた。
「……えっ!? い、いやアンタ手際良すぎじゃない!? 何でもうこんな冊子を作ってあるのよ??」
「ん? いやいや当たり前だろ? 事前に話し合いたい内容の資料を作っておかないと打ち合わせとか会議で何も話せなくなるだろうし、それにわざわざ時間をかけて会いに来てくれてる相手方にも失礼だろ?」
「そ、それはまぁ、そうだとは思うんだけど……でもアンタの依頼って個人の新人Vチューバーよね? 企業とか大手グループとかじゃないんでしょ? 新しく始めた個人の子でここまでの資料を事前に作っているだなんて……いや相当に珍しいわよ?」
「はは、まぁ俺も人にお願いする時はちゃんと事前準備をしなきゃ駄目だなって社会人になってから学んできたって事だよ」
「ふ、ふぅん、なるほどね……?」
だからこそ香月には今までなぁなぁでMV作りをしてきて貰った事には本当に感謝をしてるし、そして全部香月に任せきりにしてしまった事に対しても非常に申し訳なく思っている気持ちはかなり強かった。だから俺は今までの恩を今後しっかりと香月に返していくつもりであった。
「ま、まぁアンタも社会人になって成長したって事なら良い事よね。いや立派な社会人になったんなら音信不通になるなよってツッコミたい気持ちもあるけど……まぁでもそれはいいわ。それじゃあ早速その資料を拝見させて貰っても良いかしら?」
「あぁ、頼むよ。一応イラスト案はこっちの方でも2~3種類は考えているから、それも最後に見てくれると助かる」
「えっ!? そんなに案を考えているの!? いや本当に色々と準備が良すぎじゃない?」
「はは、そりゃあ今まで働いてた所では前準備をしっかりとする事が俺の一番大事な仕事だったからなぁ。あぁ、それとホームページは全体的に淡いピンク色を色調にしたサイトを作る予定だから、ファンアートの配色にピンク色を多用しちゃうと見ずらくなるかもしれないから、その点だけは気にしておいて貰えるか? まぁ詳しくは全部資料にまとめてあるからそれを確認してくれると助かるよ」
「え、えぇ、わかったわ。それじゃあ早速拝見させてもらうわね……」
そう言って香月は早速俺の渡した資料をペラペラと捲っていった。
◇◇◇◇
「ふぅ……」
数分後、俺の渡した資料にザっと目を通し終えた香月はゆっくりと息を吐いた後で俺に言葉を投げかけてきた。
「……いや凄いわねアンタ。最近は有償依頼なのに漠然と“何か可愛いイラストを描いて欲しい”って物凄く曖昧な事しか言ってきてくれない依頼人もいるってのに……それなのにアンタのこの見やすい資料は何なのよ?? 手際良すぎてビックリしたわよ!」
「はは、俺の場合はただただ場慣れしていっただけだよ」
まぁ俺の場合はこの数年間にクルスドライブの裏方として色々な業種の人とやり取りをさせて貰ってたからな。
(今思えば、ほぼ毎日のように動画撮影の企画会議の資料作成をしたり、コラボ先の人達との打ち合わせ資料作成をしたり、案件先の会議資料を作成したり、外部ロケ先での協力者達との打ち合わせ資料を作成したり、その他色々な人との打ち合わせやら会議の資料を作る毎日だったなぁ……)
いやでもよく考えてみたらさ、ほぼ毎日のように資料作りと会議と打ち合わせで一日のほぼ全てを使い切ってたってのに……なんでそこから動画編集やら撮影の準備までも俺が全部一人でやってたんだ??
(いやもう思い出せば思い出す程ブラックすぎるグループだったな……あれで月給50万は絶対にやってられんわ……)
まぁでも確かに毎日地獄のように忙しい日々を味わって来たわけだけど……でもポジティブに考えてみれば二十代前半までの間に沢山の人と関わりを持ってお仕事をさせて貰ったというのはとても貴重な経験が味わえたって事なんじゃないかな?
うん、そう考えたら俺がクルスドライブで頑張ってきていた意味もあるってもんだよな! ……まぁ地獄のような日々だった事には変わりないけどさ。
「い、いや場慣れって……アンタ将来はプログラム系の仕事するって言って色んなパソコンの資格を取得してなかったっけ? え、もしかしてプログラム系の仕事じゃなくて営業系の仕事をずっとやってきてたの?」
「え……? あー、まぁ営業職“も”やってたって感じかな? あははは」
「う、うん……?」
香月が怪訝そうな表情で俺の事を見てきたので、俺はあははと笑って答えながらもそんな昔の事を思い出していっていた。
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