第28話:十年来の友人との再会

 それから数日が経過した。


 今日は秋葉原の駅前にある喫茶店でコーヒーを飲みながらとある人物がやって来るのを待っていた。


「はぁ……」


 俺はため息をつきながらその人物がやって来るのを待っていた。その人物とは以前に話したあの“十年来の友人”だ。


 先日桜井さんのサポート役を引き受けた日の帰りに、俺はその友人に久々に連絡を取ってみたのだが……まぁ案の定その友人にめちゃくちゃ怒られてしまった。


“てめぇ! ちゃんと連絡返せよバカヤロー!! 死んだのかと思って心配しただろ!!”


 その十年来の友人に久しぶりに連絡を送ってみたら、すぐにそんな感じのお叱りメッセージが飛んできてしまった。いや数年近くも音信不通になってたらそりゃあ怒るに決まってるよな。


 という事で今日は誠心誠意を込めてちゃんと謝罪をするためにその“十年来の友人”と会う約束をしたのであった。まぁあとはついでに出来れば俺の仕事も引き受けて貰えるように全力でお願いをする予定もあるんだけど。


―― からんころん♪


「おっ!! いたいた!!」

「ん?」


 そんな事を思っていると喫茶店の扉が開く音が聞こえた。そしてそれからすぐに聞き覚えのある女性の声が聞こえてきたので、俺は扉のある方に顔を向けてみる事にした。


 するとその扉の前には黒髪ロングの清楚系な美人女性が立っていた。着ている服も落ち着いた雰囲気のあるシックな服装でその清楚系の女性にとても合っていた。という事でこの清楚系の女性こそが……。


「よう、久しぶりだな。香月カヅキ

「おっすおっす、久しぶりだねーってバカヤローか!! 何で数年も音信不通になってんだよ!!」


 その清楚系の美人女性は俺の座っている席の前までずんずんと近づいてきて、そしてそのまま大きな声で俺の事を叱ってきた。


「い、いや、だから本当にごめんって。でもちょっとここ数年は仕事が忙しすぎてさ、だから中々連絡が出来なかったんだよ」

「はぁ、全くもう……まぁ仕事で忙しいんだろうなってのは何となく思ってたけど……でも一言くらい誰かに連絡をくれても良いでしょ。こっちだって皆すっごく心配してたんだからね」

「は、はい……いや、すいませんでした……」


 これはどう考えても俺の方が完全に悪いので、俺はその清楚系美人の女性に向かって全力で謝り続けていった。


 という事で改めて、俺の目の前に立っているこの清楚系美人な女性こそが俺の“十年来の友人”である香月カヅキだ。


 香月は俺よりも二つ年下の二十二歳で、今の仕事はイラストレーターを生業にしている。ちなみに香月とは本名ではなくイラストレーターとしてのペンネームだ。


 もちろん俺は香月の本名も知ってはいるんだけど、でも出会った当時から俺は香月の事をずっとペンネームで呼んでいたので、今でも変わらず俺はペンネームの方で香月の事を呼んでいた。


 そしてそんな香月との初めての出会いはもう今から十年近くも前だ。俺が“ヌコヌコ動画”で如月サクの曲を投稿し始めていた頃に、香月が俺の投稿していた曲をイメージして如月サクのイラストを描いて俺に送ってきてくれた事がきっかけだった。


 実はその当時の香月もヌコヌコ動画で“描いてみた動画”や“メイキング動画”を投稿し始めていた絵描き志望の中学生だったんだ。


 それで中学生だった香月はその時期に俺が投稿していたサクの曲をたまたま聞いてくれたようで、一瞬でファンになったと言ってサクのイラストとメッセージを送ってきてくれたんだ。


 俺は初めてファンの人から自分の曲をイメージしたサクのイラストを描いて貰った事にとても喜んでいったし、香月から貰ったイラスト自体も本当にとても綺麗で素敵なイラストだった。だから当然のように俺もそんな香月の描くイラストに惚れこんで一瞬でファンになっていった。


 そんな感じで俺達はお互いにお互いのファンになったという奇妙な縁から、それからもちょくちょくと交流するようになっていき、次第に香月と仲良くなっていったという経緯があった。


 それで香月と仲良くなった後に、俺は自分が作っている如月サクの曲のMVを香月に作って欲しいと無理を承知で頼んでみたんだけど……香月はそんな俺の無茶なお願いに対して二つ返事でオッケーを出してくれた。しかも香月は俺の作る曲が大好きだからと言っていつも無償で俺のMVを作ってくれたんだ。


 だから俺が今までに投稿してきた如月サクの曲に流れているMVはほぼ全てが香月によって作られたMVなのであった。


(……まぁ今の香月に“無償”でお願いするなんてもう絶対に無理だけどな)


 という感じで俺達は十年前の中学生時代から一緒に切磋琢磨しあっていた仲なんだけど……でも当時はただの絵描き志望の中学生だった香月も、今ではトイッターのフォロワー数が五十万人以上もいる程の神絵師にまで成長していた。


 そんな神絵師に無償で依頼するなんてもうおこがましすぎて二度と出来るわけがない。だからこれからはちゃんと有償で香月にお願いする事にするつもりだ。まぁでも俺がサクの曲を最後に作ったのってもう4年近くも前だから、ここしばらくはずっと香月に依頼はしてなかったんだけどさ。


「……それにしても、急にアンタから唐突に連絡が来るなんてね。本当は他の子とかも呼びたかったんだけど……でもあまりにも急すぎたから誰も都合つかなかったわ」

「え? 他の人って……あ、もしかしてヌコヌコ動画のいつメンの事?」

「えぇ、そうよ。皆アンタの事を本当に心配してたんだからね? ここ数年いつメンのオフ会にも参加してこなかったし、サクの新曲だってアンタ全然投稿しなくなってるし……もう本当に皆でアンタの事をすっごく心配してたんだからね」

「い、いやそれは……はい、本当に申し訳ございませんでした……」


 という事で俺はもう一度香月に向かって全力で謝っていった。今日はあと何回くらい謝れば済むのだろうか……。


 ちなみに今俺達が話していた“ヌコヌコ動画のいつメン”というのは、十年前近く前に俺や香月が参加していたヌコヌコ動画のコミュニティで仲良くなったメンバーの事だ。


 その仲良くなったメンバーとは年に1~2回くらいのペースでオフ会をしていたんだけど、でも俺はここ数年は忙しすぎてそのオフ会にはここしばらく参加していなかった。


 だからどうやら香月だけじゃなくていつメン達にもかなり心配をかけさせてしまったようだな……いやこれは流石に申し訳なさすぎるって。


(今度オフ会が開催される時には皆にちゃんと手土産を持参して誠心誠意を持って全力で謝ろう……)


 という事で俺はそんな謝罪の言葉を今の内に考えていきながらも、当時の仲の良かったメンバー達の事を頭に思い浮かべ始めていった。

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