第23話:桜井さんの高校生の頃の話
「そ、そうなんですね! あ、でもすいません、俺はちょっとアイドル方面はかなり疎くて……だから桜井さんがアイドルをされていたなんて今の今まで知りませんでした……」
「あはは、それはしょうがないですよ! だって私は誰しもが知っているような大手のアイドルグループに所属してた訳ではないですし、本当に小さなアイドルグループで活動してただけなんで。だから私が高校生の時にアイドルをしてたのをリアルで知っている人なんてほぼいませんよー」
「そ、そうなんですか? いやでも小さなグループだとしてもアイドルをされていたのは本当に凄い事ですよ! あ、でも……そんな高校生の頃からアイドルをしていた桜井さんに対して“世界観”の話を得意げにしちゃって……いや本当にすいませんでした!!」
俺は昨日桜井さんを励ますために“世界観”についての話をしたんだけど……でもアイドルという職業はもろに自分達の“世界観”をファンに向けて表現されている滅茶苦茶凄い人達だからな。
そんなアイドルという職業を高校生の頃からやっていた桜井さんに対して俺は何という恥ずかしい話をしてしまったんだ……。
「え……あ、あぁ! いや、それこそ全然ですよ! むしろあの話をもっと早くに聞きたかったくらいですし! それにもし高校生の頃に友瀬さんとお会いしてたら……もしかしたら今でも私はアイドルを続けていたかもしれませんしね、あはは」
「え……? それってどういう事ですか?」
何だか桜井さんは含みのある笑みを浮かべながらそんな事を言ってきた。俺はどういう事が気になったので詳しく尋ねてみる事にした。
「あぁ、いや私は配信中には大学受験のためにアイドルを引退したって言ったと思うんですけど……でも実際には違うんですよね。実は私……アイドルの素質が全然なくて諦めて辞めちゃったんです」
「えっ!? そ、そうだったんですか?」
「はい、そうなんです。元々私は子供の頃から歌うのが大好きだったので、将来は歌って踊れるアイドルになりたいなって凄く憧れてたんです。だから高校生の時に意を決して小さなアイドルグループに入ってみたんですけど……でも中々思うような成果も出せずに1~2年くらいで辞めてしまったんです。そのグループに所属していた間も私の人気はいつもダントツで最下位でしたしね」
「え、えぇええっ!? さ、桜井さんが一番人気が無かったんですかっ!?」
(い、いやそんなバカなっ!?)
俺は驚愕のあまり思わず喫茶店の中で大きな声を出してしまった。いやだってこんなに歌も上手で話も面白くて、それに滅茶苦茶可愛い女の子なのに……それなのにグループの中で一番人気が無かったなんて、流石に信じられないって!
「えっと……い、いや、正直それは流石に信じれないですよ。だってその桜井さん……というかスズハさんは歌も上手いし、トークも面白いですし……そんな子の人気が一番無かったっていうのは流石に信じれないですって!」
「あはは、リスナーさんの友瀬さんにそう言って貰えるのはとても嬉しいです。でも私にはその……アイドルとしてはちょっと問題がありまして……」
「え……も、問題ですか? そ、それは……一体どのような問題が?」
桜井さんは悲しそうな表情をしながらそんな事を言ってきた。い、一体どんな問題が桜井さんにはあったのだろうか……?
「はい、いや実はその……私って物凄く緊張してしまうタイプなんです……だから舞台とかに立つとすぐに緊張してあがってしまうんです……」
「……え? そうなんですか?」
「はい、そうなんです。友達とかと普通に雑談をしてる分には全然問題はないんですけど……でも、大勢の人に見られてるような状況になると一転してすっごく緊張しちゃうんですよね。沢山の人に見られてるって思うと顔もどんどんと真っ赤になっちゃうし、緊張で汗も凄い事になってしまうんです。だから学校の授業とかでも大勢の人の前で発表する時とかは本当に苦手でしたし……」
「あぁ、なるほど、確かにそういう人は多いですよね」
その桜井さんの悩みは俺にも理解する事が出来た。というか俺もその悩みはずっと持っていたしさ。俺も大勢の人から注目を浴びるというのが子供の頃からどうしても苦手だった。
だから俺はクルスドライブが顔出し系ウーチューバーに転身するって話が出た時はすぐに裏方に回るって秀達に言ったんだ。まぁでもそしたら裏方の仕事を全部俺一人でやるハメになってしまったんだけどさ……。
「そんなわけで……私は舞台に立つとどうしても緊張がほぐせなくて、本番では歌とかダンスを間違てしまう事も時々あって、そのせいで周りの子達にも相当な迷惑をかけてきちゃったんです。それでもうこれ以上皆の足を引っ張ってしまうなら……自分にはアイドルの才能なんて全然無いんだし、これからは大学受験も控えてるからって事でアイドルはスパッと辞めちゃったんです」
「……なるほど、そんな事があったんですね」
俺はそんな桜井さんの高校生の頃の話を静かに聞いていった。
「はい。でも……昨日友瀬さんが言ってくれたじゃないですか。自分の事をちゃんと褒めてあげろって」
「……え?」
「実は昨日友瀬さんに言われたあの言葉を家に帰った後もよく考えてみたんです。それでよく考えたら私……あの頃アイドルグループの中で一番歌の練習もダンスの練習も誰よりも私が人一倍頑張ってたんです。誰よりも早くに来て練習してたし、誰よりも遅くまで練習してました。だから本当なら私は誰よりも頑張っていたという事をちゃんと知ってたはずなのに……でも私はそんな自分の頑張ってる部分を一切見ようとはせずに駄目な部分ばかり見ていたなぁって……」
桜井さんは目を閉じて高校生の記憶を思い出しながらそんな事を言ってきた。
「だから友瀬さんが言ってくれたように、あの時にちゃんと自分の良い所を見つけてあげて、頑張ってる所を自分でしっかりと褒めていってれば……もしかしたら今とはまた違った未来もあったのかなって思ったんです。いやまぁそうは言ってもアイドルを辞めた事に関しては全然後悔なんてしてないんですけどもね、あはは」
「桜井さん……」
「それでも今になってそういう大事な気づきを与えてくれた友瀬さんには本当に感謝しているんです。だから本当に素晴らしい言葉を送ってくれてありがとうございました!」
「……いえ、そう言ってくれるなら俺もありがたいですよ」
そう言って桜井さんは俺に向けて丁寧にお辞儀をしてきてくれた。俺はそんな桜井さんの立派な姿を見て、俺は桜井さんに向けて優しく微笑んであげていった。
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