第21話:クズがいなくなってから久々に企業案件を引き受ける(秀視点)

「あーくっそ!! マジでムカつくな!!」


 俺はクルスドライブの事務所の中で一人スマホを見ながら苛立っていた。俺が今スマホで見ていたのはここ最近にクルスドライブのウーチューブチャンネルに投稿した動画だった。


「くっそ……高評価全然伸びねぇじゃねぇかよ!! マジであのゴミ編集のせいじゃねぇかよ!」


 俺が苛立っていた理由はここ最近に投稿していた動画に高評価が全然押されていない件についてだった。それに再生数もいつもより伸びが悪かった。


「くそ! あのゴミ編集……マジでふざけんなよ!! 俺達の人気が落ちたらアイツのせいだぞ!!」


 結局俺達はあのゴミクズすぎる編集スタッフが作った動画を仕方なく数本ほどクルスドライブのチャンネルに投稿してみたのだが……そしたら想像以上に視聴者からの評価が良くなかったんだ。


 友瀬が編集をしていた頃なら高評価は常に2~3万は余裕で超えていたのに、ここ最近に投稿した動画はどれも高評価は1万程度しかついていなかった。


 この結果から見ても視聴者も俺達の投稿した動画のクオリティが下がっているのは感じ取っているようで、最近の動画のコメント欄は若干荒れてしまっていた。


―― 何か動画のクオリティ落ちてない?

―― カットが雑過ぎる

―― 声が小さくて聞き取りにくいし、逆にBGMが大きすぎる

―― もっと音量調節をどうにかして欲しい

―― テロップとかエフェクトとか全体的に安っぽい気が……

―― 大変な時期なのはわかってるんですけど……出来れば今までのような見やすい編集をお願いします!


 などなど、視聴者からこのようなコメントが数多く送られてきてしまっていた。


「……っち、マジでゴミすぎる編集スタッフを雇っちまったわ。はぁ、もうそろそろ動画撮影も再開しなきゃなんねぇってのに……マジでイライラすんなぁ」


 俺はそう言いながらイラつきを落ち着かせるために一旦タバコを吸い始めていった。するとその時……。


―― ガチャッ


「お疲れーっす!!」

「んー? あぁ、紘一か。お疲れー」


 するとそのタイミングで紘一がクルスドライブの事務所にやってきた。でも何だかいつもよりも紘一のテンションが高い気がした。


「何だか今日のテンション高くねぇか? 何か良い事でもあったか?」

「あぁ、うん、そうなんだよね! いや実はマジでちょっとビックリする話があんだけどさ……そういえばここから先に受ける企業案件ってもう決まってたりする?」

「企業案件? いや、まだしばらくの間は何も決めてないけど?」


(……あ、やべ)


 紘一にそう言われて思い出したけど、そういやここしばらくは企業からのメールなんて何一つとして確認してねぇわ。


(そういや企業からのメールについても暇な友瀬が毎回確認してたからなぁ……)


 そんな友瀬がいなくなってしまったから……そりゃあ企業案件のメールなんて誰も見てねぇよな。はぁ、今後はそれも俺達でやらなきゃなんねぇとかめんどくさすぎるわ。


 まぁでも金を稼がなきゃいけないし、今後はちゃんと俺達で確認するしかないか。


「あぁ、それなら良かった! それじゃあちょっと秀に相談したい大事な話があるんだけどさ!」

「俺に相談したい事? それってもしかして……企業案件絡みの話か?」

「そうそう! いや実は昨日ホテルで遊んでた女の子からさ、是非とも私が働いている会社の商品PRをして欲しいって頼まれちゃったんだよね!」

「商品PR? 何だよ普通に企業案件じゃん。ってかお前ホテルで遊んだ後にその女の子と仕事の話してたのか? はは、色々と凄すぎるだろお前」


 どうやら紘一は昨日も高級ホテルで女の子と楽しい夜を過ごしていたようだ。でもそんなお楽しみの後にもクルスドライブのためにしっかりと仕事のやり取りをしているだなんて偉すぎるわ。いやマジで仕事しないゴミクズの友瀬とは大違いだな。


「まぁでも……そういう依頼なら公式HPにあるメールフォームから送れるようになってるから、そっから送ってくれって言っといてくれよ」

「いや、俺もその女の子にはそう言ったんだけどさ……でもその子が言うにはすぐにでも新商品のPRがしたいらしくて、今すぐにでも俺達と契約をしたいんだってさ。でもその代わりに報酬はめっちゃ出すって言ってくれたんだ。そんでさ、その報酬額ってのがヤバすぎるんだよ……!」

「ふ、ふぅん?」


 紘一はニヤニヤと含みのある笑みを浮かべながら“報酬額”がヤバイと伝えてきた。そんなハードルを上げて大丈夫なのかと思いつつも、とりあえず先にどんな会社の案件なのか聞いてみる事にした。


「でもそんなにも早く打ち合わせがしたいだなんて……一体何の商品を出してる会社なんだよ?」

「えぇっと、その女の子が言うには“健康系のサプリメント”を作ってる会社らしいよ。飲むとすぐに痩せるサプリとか、飲むと病気が治るサプリとか……まぁとにかく色々なサプリを作ってるらしいよ!」

「へぇ、そりゃあ何だか凄そうな会社だな。んーでもそれってちゃんとした会社なのか?」

「あぁうん、それは大丈夫だよ! 俺もその女の子と一緒にホームページを確認したんだけど、ちゃんとした立派なホームページだったからさ! それにえぇっと……株式?ってのも上場してるらしくて、企業としても超優秀だって国からも認められてるんだってさ!」

「へぇなるほど、国から認められてるんだったらちゃんとした会社そうだな! でもそんな健康サプリのPRを俺らがしても効果あんのかな? 俺らって普通のウーチューブグループだぞ? そんな健康系の案件を貰っても意味なさそうな気がするけどな……」

「いや、でも意外とそうじゃないらしいよ。何か今は若い子達にダイエットとか健康ブームが来ているらしいんだってさ。それで今一番若い子達に人気があるクルスドライブに健康サプリの商品PRをお願いしたいって事らしいよ」

「へぇ、そんなブームが若い子達に来てたのか。全然知らなかったなー」


 そういや俺の母親も健康食品だとかサプリを時々飲んでたりした気がするけど……でも若い子達にもそういうブームが来てたなんて全然知らなかったな。


「はは、まぁでも確かに俺達は若いヤツらからの支持はめっちゃあるから、需要と供給は成り立ってるって事か。それで? それじゃあいよいよ本題に入るけどさ……その案件の報酬額は一体どれくらいなんだ? 紘一の口ぶりからして相当良さそうな気はするけど?」

「ん? あぁ、うん……ふふ、それはねぇ……」


 俺がそう聞くと紘一はニヤっと笑いながらこう言ってきた。


「ふふ……商品レビューの動画と、商品アンバサダーを半年間は就任して貰う事を条件として……なんと報酬額は“一億円”だってさ!!」

「え……は……え……えぇぇえええっ!?」


 俺は紘一の言ってきた報酬額を頭で理解するのに相当時間がかかってしまい、リアクションを取るのにも相当かかってしまった。い、いやでも……だってさ……!


「い、一億円だって!? お、お前それマジかよ!?」

「はは、マジに決まってんじゃん!」


 だって今までに友瀬が引き受けてきた案件でもそんな超高額な案件はなかったんだぞ!? 今までで一番高かったのでも超大手企業のイベントPR大使をした時で一千万円の案件は貰った事があるけど……そ、それの十倍の報酬だって!?


「い、いやそんな報酬額は初めて聞いたぞ!? 今までに友瀬が持ってきた案件だって基本的に数百万円規模の案件ばかりだったろ? ってか安いのなんて数十万程度しか貰えなかった案件もザラにあったぞ!? そ、それなのになんだよ……そんな莫大な報酬が貰える案件なんて本当にあんのかよ!?」

「いや、俺もそんな凄すぎる報酬額を聞いた時にはあまりにもビックリしちゃって秀と同じ事を言ったんだけどさぁ……でもその女の子曰く、クルスドライブのような超人気グループにならこれくらいの成功報酬は当たり前だってさ。ってか逆に数百万円程度の報酬なんかでクルスドライブに案件を出すなんて失礼すぎるって怒られちゃったよ、あはは」

「は、はぁ? そうなのかよ!? くそ……友瀬の奴!! って事は俺達にしょぼい案件ばっかり渡してきたって事かよ!! アイツマジでふざけんなよ!!」


 俺達は今まで企業案件に関しては全部友瀬に任せていた。だから今までずっと報酬の相場なんて俺達には知る由もなかったのだ。


 そしてその驚愕的すぎる事実を知ってしまった俺はどんどんとあのゴミクズへの怒りが溜まってきていった。マジで今までの給料を全額返してほしいレベルでアイツは仕事してなかったって事じゃねぇかよ!


「それでどうする? この案件を引き受けるようなら今すぐその子に連絡いれるけど?」

「あぁ! もちろん引き受けるに決まってんだろ!! 早くその子に詳しい話を聞かせて貰って来いよ!」

「オッケー、それじゃあとりあえずその子には今すぐ連絡しておくよ。それで向こうから連絡が来たら秀にもすぐ報告するよ!」

「あぁ! 頼んだぞ!」


 という事であのゴミクズを辞めさせた後の初めての企業案件が決定したのであった。いやそれにしても企業案件でPR動画の作成とアンバサダーを就任するだけで一億円も貰えるだなんて……マジで俺達人生の勝ち組すぎるな!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る