第18話:桜井さんからのお願いごと

「へ、へぇ、なるほど、そうなんですね。そういった裏方業務までされていたんですね……あ、あの! すいません……!」

「ん? どうかしましたか?」


 俺はクルスドライブのメンバー達の事を思い出していたら、急に桜井さんが俺に声をかけてきた。


 俺は何だろうと思いながら桜井さんの方に顔を向けてみると……桜井さんは何だか意を決したような物凄く真面目な顔つきをしながら俺の事を見てきていた。


「あ、あの……そ、そのですね……謝礼はちゃんとお支払いしますので……な、なのでっ! なので良かったら私のチャンネルに……もっとアドバイスとかを頂けたりしませんか?」

「え? 俺が桜井さんのチャンネルにアドバイスをですか?」

「は、はい! そしてさらに図々しい事を言ってしまうと……出来たらモデレーターもして頂けたらその……非常に助かるのですが……あっ、もちろんちゃんと謝礼はお支払いいたしますので!」


 桜井さんは覚悟した表情をしながらそんな事を俺に言ってきた。


 ちなみにモデレーターとは桜井さんのチャンネルの動画やライブ配信をしている時にチャット欄やコメント欄にある悪意あるコメントを削除したり、悪意あるユーザーに警告を送りつけたりブロックしたりする事が出来る役職の事だ。まぁ早い話が桜井さんのチャンネルに対して管理人のような立場になれるという事だ。


 でも俺なんかが桜井さんのサポート役をしても良いのかな? その場合だと俺は桜井さんの個人チャンネルを教えて貰う必要があるのだけど……。


「……ふむ……」

「……あ、や、やっぱり忙しいですよね……! す、すいません……とても厚かましい事を言っちゃって……」

「……え? あぁ、いえ、俺の方は全然大丈夫ですよ。というかモデレーターくらいなら全然タダで引き受けますよ、あはは」

「えっ!? い、いいんですか!?」


 俺は気さく笑いながら桜井さんに向けてそう言ってあげた。別にモデレーターと言っても個人でやっているチャンネルの配信ならそこまで難しい作業もないだろうしさ。


「でも、俺が桜井さんのモデレーターを引き受けるという事は……桜井さんのVTuberのチャンネルを俺に教えて貰わないといけなくなると思うんですけど、その点は大丈夫なんですかね? 俺みたいな第三者に桜井さんの個人チャンネルを教えるのって抵抗感とかあったりしませんか?」

「はい! それに関しては全然大丈夫です! あ、でも、一応私がそういう活動をしているってのはお姉ちゃんにしか伝えていないので……なので出来れば私のチャンネルに関しては秘密にして頂けると助かるんですけど……」

「あぁ、はい、もちろんそういうプライバシーに関しては必ず秘密にするよう心掛けていますので大丈夫ですよ。いやまぁ口では何とでも言えるので、桜井さんにそれを信じて貰えるかはわかりませんけど……」

「あ、いえ! 全然大丈夫です! だって友瀬さんがすっごく良い人だって事は今までに何度もお話をしてきて十分にわかってますので!」

「あ、そ、そうですか? それならまぁ……良いんですけども」


 桜井さんは真っすぐな目をこちらに向けながらもそんな眩しい言葉を投げかけてきてくれた。いや桜井さんのような優しい女の子から“アナタは良い人です!”と面と向かって言われるのは流石にちょっと照れてしまいそうになる。


(……ま、そんな桜井さんもすっごく良い子だという事は俺もわかってるけどさ)


 という事で俺としてもそんな桜井さんのために何か力になれる事があるのであれば喜んで手を貸してあげようと思った。


「はい、わかりました。それじゃあ俺で良ければモデレーターになりますよ。あぁ、もちろん謝礼とかも要りませんので気軽に頼ってくださいね」

「あ、ありがとうございます! あ、いやでも……流石に無償で引き受けて貰うというのは気が引けるというか……それに友瀬さんは社会人なわけですし、そんな方の貴重なお時間を無償で頂くというのは流石に申し訳ないというか……」

「そ、そうですか? いやまぁそんなの全然気にしないで大丈夫なんですけど……」


 そう言うと桜井さんは非常に申し訳ない表情をしながら俺の方を見てきていた。


 いや俺としては全然無償で問題ないんだけど、でもこのまま無償で引き受けちゃうと、きっと桜井さんは負い目に感じちゃうよなぁ……。


「うーん、そうですねぇ……あ、そうだ。それじゃあ桜井さんのモデレーターを引き受けるんで、その代わりに俺にご飯を奢ってくださいよ」

「……え?」


 という事で俺は等価交換としてちょうど良さそうなのを思いついたので、早速俺はそれを桜井さんに提案してみた。


「え、えっと……ご、ご飯を奢るだけで良いんですか?」

「はい、いやもう全然それだけでも十分ですよ。だってご飯を食べる時が一番幸せだと感じますしね、あはは」

「な、なるほど……た、確かに、美味しいご飯を食べるのはとても幸せな事ですもんね!」

「はい、そうですよね。まぁそれじゃあ桜井さんのモデレーターをやらしてもらう報酬に関してはそれでチャラって事で良いですかね?」


 という事で俺は桜井さんにご飯を奢って貰うのを条件にして桜井さんのモデレーターを引き受けると言ってみた。


 やっぱり無償で引き受けると言ってしまうと桜井さんにとても気を遣わせてしまう事になるだろうし、これくらいの条件があればきっと桜井さんも納得してくれるだろ。ま、コンビニのお弁当でも奢って貰えればそれでいいさ。


「……はい! わかりました! そ、それじゃあその……私、頑張って友瀬さんに御馳走しますね! それでは改めてこれからよろしくお願いします!」

「え……? あ、は、はい、よろしくお願い……します?」


 桜井さんは両手をガッツポーズにしながら物凄く張り切った様子で俺に向かってそんな事を言ってきた。そんな張り切っている桜井さんの様子を見て俺はビックリしながらも頷いていった。


 い、いや、というかさ……“頑張って御馳走します”ってどういう意味だろ……?

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