第16話:中学生の俺が荒らし被害にあった時の話
「うーん、そうですね、まぁ俺の場合は……時間が解決してくれた感じですね」
「え……そ、そうなんですか?」
俺は色々と昔の事を思い出しながら桜井さんにそう言ってみた。
「はい。いや確かに最初の頃は悪意あるコメントを真に受けてショックを受けて泣いたりもしたんですけど……でも数日寝てみて気が付いたんです、“いや何で俺がショック受けなきゃいけないんだよ!”ってね」
「え……い、いやでも……やっぱりそういう事をされたらショックを受けてしまうのが普通なんじゃないですか……?」
「えぇ、そうですよね、それが普通だと思います。俺も始めて悪意あるコメントを貰った時は滅茶苦茶にショックを受けましたし。でもそういう悪意あるコメントを書く大多数の人は、俺が今までに努力してきた事を何一つとして見てないで書き込んでる人なんですよ?」
十年近く前に初めて投稿したサクのオリジナルソングのコメント欄に書かれていた誹謗中傷めいたコメントを俺は思い出しながら……その続きを桜井さんに喋りかけていった。
「俺はその制作活動をするために子供ながらに沢山勉強をしてきましたし、何度も何度も色々な練習を重ねてきました。それほどまでにとてつもない時間をかけてようやく投稿する事が出来た作品ばかりなんです。そんな滅茶苦茶な苦労をかけて作り上げた作品を頭ごなしに全否定されてボロクソに叩かれたわけですよ? そんなのショックを受けてる場合じゃない、ブチギレなきゃ絶対に駄目だ! ……って当時の俺は思った訳ですね」
「え……えっ!? ぶ、ブチギレ……ですか?」
「はい。あぁ、いやもちろん心の中でブチギレただけですけどね。でもこっちの苦労もしらないで“下手くそ過ぎて見ていて不愉快”だとか“さっさと垢爆破して4んでくれ”とか言ってくるんですよ? そんなあまりにも酷すぎる事を言ってくるならもう相手の住所特定してこっちから凸ってやろうかな!! って思うくらいには相当ブチギレましたよ。まぁ若気の至りってやつですね、あはは」
もちろんそれは先ほどから言っているように心の中で滅茶苦茶にブチギレていただけであって、本当に悪質な荒らしを特定してリアル凸をしたりしたわけではない。そもそも中学生の俺にはそんな事を実際にする勇気はないし。大人な今なら情報開示請求してやるかもしれないけど。
「まぁでも心の中でそれほどまでに大きくブチギレた事もあって、それ以降は悪意あるコメントとか荒らしが来ても心に余裕が出来て粛々と対応出来るようになりましたね。はは、まぁこれはさっきから言ってるように中学生の頃の話なんですけど、でもこんなにも荒ぶった事を思ってたりしたのは流石に反省しなきゃですけどね」
俺はそう言いながらあの時の事を思い出して少しだけ笑ってしまった。
でも中学生の頃にそんな悪意ある荒らしやコメントを貰うという貴重な体験を得たからこそ、大学時代に始めたクルスドライブでは悪意あるコメントや荒らし相手には特に何のストレスも感じる事なく粛々と対応する事が出来たのかもしれないな。
「まぁそんなわけで、いや流石に桜井さんにも中学の頃の俺みたいに過激な事は思って欲しいなんて事はこれっぽっちも思わないんですけど……でも今の桜井さんには一つだけ知っておいて欲しい事があるんです」
「……知っておいてほしい事……ですか……?」
俺はそう言ってからもう一度桜井さんの事を見たんだけど、先ほどと変わらずに落ち込んでいる様子だった。俺はそんな桜井さんの悲しんでいる目をしっかりと見ながら続きを喋り出していった。
「自分の持っている“世界観”というのを世の中に表現している人達っていうのは全員が本当に素晴らしい方々なんですよ。例えばそういうのは漫画家さんやイラストレーター、小説家、映像や音楽にゲームクリエイターなど、本当に沢山の人達がいますよね。桜井さんはそんな人達の事をどう思いますか? とてつもない膨大な時間をかけて一つの作品を生み出す人達の事を……桜井さんは馬鹿にしますか?」
「えっ!? い、いいえ、そんな事は絶対にしないですよ……! 私はそういう凄い能力を持った方々の事は本当に尊敬していますので……!」
「ですよね、俺もそういう人達の事はとても尊敬しています。そしてそれはもちろん……桜井さんだって尊敬されるべきクリエイターの一人なんですよ?」
「え……えっ!? い、いやそんな……私は別に尊敬されるような事は……」
「いやいや、何を言ってるんですか。ウーチューバーやVTuberのようなインフルエンサーだって、それぞれが独自の世界観を世の中に表現するために生まれた立派なクリエイター集団じゃないですか」
「そ、それは……そうかもしれませんけど……でも私はまだまだVTuberを始めたばかりの初心者ですし……しかも勉強不足な事も多くて……沢山の人を不快にさせてしまったりもしましたし……」
そういうと桜井さんはまた悲しそうな表情へと戻っていった。でも俺はすぐにそれを否定した。
「いえ、それは違いますよ。まぁもちろん儲けるためにわざと不快な行動をして炎上商法を狙う人も中にはいますけど……でも桜井さんはそんな不快な行動をしてたわけじゃないんですよね? 桜井さんは普通にリスナーの皆を楽しませる配信をしていただけなんですよね? それなのに理由もなく配信を荒らされてしまったというのなら、それは桜井さんには絶対に落ち度はないです。だからそんなに自分を卑下しないで大丈夫ですよ」
「……」
俺は桜井さんには落ち度がないという事を説明しながら励ましていったんだけど、それでもやっぱり桜井さんはまだ悲しい表情だった。
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