第15話:桜井さんが辛そうにしている理由

「えっ!? さ、桜井さんって……VTuberをやってるんですか!? それは凄いですね!」


 俺は個人的にVtuberの配信を見るのはとても好きだったので、このような身近な所でVTuberをやってる人がいると知って俺のテンションはどんどんと上がっていった。


 でもそんなテンションを上げている俺とは真逆に、桜井さんの顔はどんどんと真っ赤になってとても恥ずかしそうにし始めていった。


「えっ? あ、は、はい……いやでも別に事務所に入ってる訳でもなくて、ただの個人的な趣味でやってるような感じですから全然凄くないですよ。それに初めてまだ数ヶ月しか経ってませんし……」


 桜井さんはとても恥ずかしそうにしたままそんな事を小さく呟いてきた。それは桜井さんの中では全然大した事はしてないという口ぶりだった。


「いやいや! 事務所に所属してようが個人でやってようがそんなのは全然関係無くどちらも凄い事ですよ! それに数ヶ月も継続してやれている時点で桜井さんも立派なVTuberですからね! あ、でも……それじゃあもしかしてネット関係で問題があったのってつまり……?」

「あ……は、はい。その……実はちょっと最近初めての荒らし被害に遭ってしまいまして……」

「あ、あぁ、なるほど、そうだったんですね……」


 やはり桜井さんの悩みの種というのは配信上の荒らし被害についてのようだった。そういえば先日もスズハちゃんの配信が突然と荒らされてしまっていた。もしかしたら最近はそういう新人の子に対する荒らし行為が横行しているのかもしれないな……。


「荒らしに遭うのって本当に辛いですよね。しかも今回が桜井さんにとって初めての荒らし被害なんですね……メンタル的に大丈夫でしたか?」

「……えっと、そうですね……正直私としては何も変な配信をしていたつもりがなかったので……だからいきなり荒らされるなんて事は全く想像すらしていなかったので……だからメンタル的にはちょっときつくなってしまいましたね……」

「あぁ、やっぱりそうですよね。荒らしなんてされたらメンタルきつくなるに決まってますよね。でも荒らしなんて基本的にはただの愉快犯なんですから気にしない方が絶対に良いですよ。荒らしコメントなんてスルーしてそのコメントを削除したりユーザーブロックしたりすれば良いと思いますよ」


 俺は先日のスズハちゃんの配信を思い出しながら、その時と同じような対応策を桜井さんにも伝えていった。


「……それも配信中にリスナーさんに言われたんですけど……でも私……初心者過ぎてそういう設定のやり方とかも全然わかってなかったんです。それでそれも荒らしの人に“お前は勉強不足だ”って怒られてしまって……あぁ、本当にその通りだな……私みたいな勉強不足な女が配信なんて始めたら駄目だったんだな……って思ったら……もう何だかどんどんと辛くなってしまって……悲しくなってしまって……ぐすっ……う、うぅ……」

「さ、桜井さん……」


 そういうと桜井さんは急にポロポロと涙を溢し始めていっていた。俺はそんな桜井さんの悲痛な表情を見ていたたまれない気持ちになっていった。


 でも……。


(……あぁ、そういえば俺にも桜井さんと同じ時期があったな……)


 でも俺はそんな悲痛な表情をしている桜井さんの気持ちが痛い程よくわかった。何故ならこれはクリエイティブな事をした事がある人なら誰しもが通る道だからだ。


「……俺には桜井さんの気持ち……痛い程よくわかりますよ」

「……ぐすっ……うぅ……ぐす……えっ……?」


 という事で俺は涙を流している桜井さんに向かって俺の過去話を少しだけしてあげる事にした。


「いや、実は俺も……ウーチューバーやVチューバーとはまた違うんですけど、でも俺もだいぶ昔にネット上に自分の作品とかを投稿していた時期があるんです」

「……ぐす……え……そ、そうなんですか……?」

「はい、そうなんです。まぁどんな作品を投稿してたか恥ずかしいんで内緒にしときますけどね。それでまぁネットに投稿を始めた最初の頃はとても温かいコメントが沢山貰えてたんです。でもそれから少し経ったとある時に……今の桜井さんのように俺も突然と悪意あるコメントを投げつけられたことがあるんです」

「えっ……友瀬さんにもそんな時期があったんですか……?」


 俺は中学生の頃に両親に土下座して買ってもらったパソコンを使って、如月サクのオリジナルソングを作っては動画投稿サイトの“ヌコヌコ動画”と“ウーチューブ”に投稿をしていた。


 初めて投稿した最初の頃には“頑張ってください”とか“良い歌詞ですね”とか“これ好き”みたいな温かいコメントを貰えてとても嬉しくなり、それからも俺はオリジナルソング作りを頑張っていった。


 でも投稿を初めてから少し経つと突然と“下手くそ”だとか“サクはこんなの歌わねぇよ”とか“変な曲をサクに歌わせるな4ね”とか“お前みたいなカスが如月サクの作ってんじゃねぇよ56すぞ”のような非難めいたコメントがチラホラと書き込まれるようになってしまったんだ。


 まぁ今思えばその悪意ある書き込みはきっと同一人物の仕業だったんだろうけど……でも当時の俺はそんな事は一切思いつかず、俺のせいで沢山の人を不快にさせてしまったと思い込んでしまったんだ。


「はい、俺にもそんな時期があったんですよ。しかも俺の場合は投稿した作品をボロクソに荒らされたのって中学生の頃でしたからね。いやもう冗談抜きで中学生の頃の俺はその荒らしのせいでメンタルがズタボロに破壊されて毎日のように号泣してましたよ。ま、今ではそれもいい思い出なんですけどね、ははは」


 という事で実は俺も今の桜井さんと同じように“心無いコメント”や“悪意ある荒らし”によってメンタルがボロボロになった時期があったんだ。


 しかもそれは俺がまだ中学生だった頃の話だ。だからまだ子供だった当時の俺はそんな悪意のあるコメントをもろに受け取ってしまい、そのせいで当時の俺は毎日こんな事を思うようになってしまっていた……。


『あぁ、そっか……僕みたいな能力の低い子供が如月サクの曲作りなんかしちゃ駄目だったんだ……僕のせいで沢山の視聴者さんの事を不快にさせてしまったんだ……こんな沢山の人に迷惑をかけるくらいなら……如月サクの曲作りなんて始めなければよかった……』


 ……と、当時の俺は毎日そんな事を思うようになってしまっていた。そしてそれからも毎日のように涙をポロポロと流しながらしばらくの間は曲作りなんて出来ない程にメンタルがやられてしまったという経験があるんだ。


 でもこういう経験を味わった事がある人というのは何も俺や桜井さんだけではないはずだ。これは何か一つでも自分の表現したい事を世の中に出した事のある人ならば誰しもがこれに近しい経験をした事があるはずだ。


「しかもそう言う時ってファンからの温かいコメントが沢山あったとしても、たった数件しかない悪意あるコメントの方にどうしても目がいっちゃうんですよね。しかもその数件しかない悪意あるコメントを見ただけでもう自分の事を全否定されてしまったような気持ちになるんですよね」

「あっ……そ、そうなんですっ……! 私も配信をしてた時にファンの皆さんが“応援してます”とか“荒らしコメントなんて気にしないで”っていう温かいコメントがずっと送られてきてたのはわかっているんですけど……で、でも……それでも……」


 桜井さんはそこまで言うと、また辛い表情になりながらもその続きを喋り始めていった。


「で、でも……そんな私に向けられた酷いコメントを一つでも見てしまったら……もう何だか全てのリスナーさんにそんな酷い事を思われているんじゃないかって気がして……それが何だかとても怖くなってきて……それでもう配信が出来なくなってしまったんです……ぐすっ……うぅ……」

「桜井さん……」


 桜井さんはそう言うと辛そうな表情のままポロポロと大粒の涙を流し始めていった。でもそんな桜井さんは……涙を流したまますぐに顔を上げて俺の方を見ながらこう尋ねてきた。


「ぐすっ……友瀬さんはそういう時……どうやって乗り越えられたんですか……?」


 桜井さんは涙を流しながら俺にそう尋ねてきた。そのような悪意ある荒らしに対してどうやって乗り越えてきた……か。

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