第13話:一方その頃クルスドライブでは……①(秀視点)

 クルスドライブから友瀬をクビにしてから一ヶ月近くが経過した頃。


「はぁ……マジで使えねぇなぁ……」


 俺は新しく雇った編集スタッフから送られてきた動画データを確認していたんだけど、俺はつい無意識の内にそんな事を呟いていた。


「そんなイライラしてどうしたんだよ、秀?」

「……ん?」


 すると俺の家に遊びに来きていた友人かつクルスドライブのメンバーでもある紘一が俺にそう尋ねてきた。


「あぁいや、一週間前にお試しで編集スタッフを雇ってみたじゃん?」

「動画スタッフ? あぁ、そういやそんなの雇ったな」


 以前、俺達はファンの中から編集スタッフをオーディション形式で雇うという動画の企画を考えたんだけど……でもそれを実際にやるためには事前に準備しなければならない事がマジで沢山あったんだ。


 でも毎日とても忙しい俺達にはそんな準備をする時間なんて確保出来るわけがないので、残念だけど今回のオーディションは中止にする事にした。


(はぁ、昔は企画案さえ出したら、あとは毎日暇な友瀬クズがそれを勝手に全部一人で準備して実行する所までやってくれたんだけどなぁ……)


 どうせ辞めさせるんだったらそのオーディション企画を全部友瀬にやらせてからクビにすりゃあ良かったかな? いやまぁでもあんなクズの事なんもうどうでもいいか。


 という事でここしばらくの間はクズの友瀬が居なくなってしまったせいで、クルスドライブとしての動画投稿を一切出来なくなってしまっていた。でもウーチューバーをやってる身としてはこれからも動画投稿は続けていかなくてはならない。


 なので俺達は動画編集をしてくれるヤツをネットの求人・仕事サイトで見つけて試しに雇ってみる事にした。その編集スタッフは在宅ワークで動画編集を一本につき5,000円で引き受けてくれるとの事だった。


 今までのクルスドライブの動画投稿頻度はニ~三日に一本ペースの更新頻度だ。だから月に十本の動画を投稿するとしたら、その編集スタッフの給料はたったの50,000円で済むという事になる。つまりは友瀬の給料の1/10で済むという事だ。いやもうコスパ最強過ぎて正直皆で笑っちまったわ。


 という事で俺達はすぐさまその在宅ワーカーをスタッフとして雇い入れ、そしてこれから新しいクルスドライブとしていよいよ再始動出来るとそう思っていたのだが……。


「それで? その雇った編集スタッフがどうかしたのか?」

「いやどうかしたのかも何も……コイツマジで駄目だわ、カスすぎ。動画編集の才能無さすぎだし、マジで使いもんになんねぇよ」

「え、そうだったのか?」


 俺はそう言いながら苛立ちながら煙草を取り出して口に咥えて火をつけていった。


「でも駄目だって具体的にどういう所が駄目だったんだよ?」

「いやもう全部だよ全部。動画の切り取りは雑だし、BGMは小さすぎなのにSEは大きすぎ。効果エフェクトは安っぽいし、文字テロップは見にくい色とフォントを使ってて最悪過ぎだわ。マジで見てて不快になるなんて今回が生まれて初めてだったわ……はぁ、こんなん友瀬だったらありえねぇよ」

「は、はぁっ!? 何だよそれマジで全然使いもんになってねぇじゃん!?」


 その編集スタッフから送られてきた動画データの中身は相当に酷かった。今までクズの友瀬が編集してきた数々の動画よりも圧倒的に見劣りする出来栄えだった。この程度の編集能力しかないクセに動画一本につき5,000円も取ろうとしてくるとかマジでぼったくりだわ。


「……あぁ、いやまぁでも、そういや初日から編集についての打ち合わせをさせてくれだとか、編集するための仕様書を送ってくれだとかもう何だかゴチャゴチャと口煩いヤツだったよな。やっぱり仕事が出来ないヤツって口ばっかり煩くなるもんなのかな?」

「あぁ、そういやそんな事ばっかり言ってきてたな。いや最近のヤツらは自分で物事を考えるって事をしないヤツが多すぎるんだよ。はぁ、全く……そんな馬鹿共の相手するのマジでしんどいわ」

「はは、お疲れさまだな、リーダー」


 俺はそう言いながらため息をついていった。それほどまでに今回雇ってみた編集スタッフは大ハズレだったんだ。


 それはさっきも紘一が言っていたように、今回雇ってみた編集スタッフは最初の時点で既にゴチャゴチャと口煩いヤツだったんだ。何度も俺達と打ち合わせがしたいとか言ってくるし、編集するための仕様書をさっさと送れとか俺達に命令までしてきやがった。


「いやそもそも何で俺らが編集スタッフのためにわざわざ仕様書なんて作らなきゃいけないんだよ? こっちは金払ってんだからそういうのは全部自分で考えて編集するに決まってんだろ? なぁ、そうだよな、紘一?」

「あぁ、そんなの秀の言う通りに決まってるじゃん。金貰ってるクセに自分で考えて行動出来ないなんて社会人として失格にだろ!」

「あぁ、やっぱりそうだよな!」


 という事で俺達はそんな上から目線の編集スタッフの要望は全部無視して“こっちは金払ってんだから、そんな事は全部自分で考えて編集しろ!”と強めの口調で返事を返しておいたんだけど……でもその結果として出来上がってきた動画というのが今目の前にあるカスみたいな動画だったというオチだ。


「はぁ、あんな友瀬クズでももっと見やすくて面白い動画を毎回作れていたってのに、試しに雇ってみた編集スタッフはあんなクズなんかよりもよっぽど酷いドクズだったってオチかよ」

「いやそれマジで最悪のオチだよな。あ、まぁでも逆に考えたらこれも一本のネタ動画に出来るんじゃね? あはは、それならまた緊急動画作るか??」

「あぁ、確かにそれも面白そうだな。緊急動画ってタイトル付けとけば基本再生数回るし、それも良いかもな。いやそれにしても俺達のファンってちょろいヤツばっかだから簡単に再生数が伸びてありがたいわ。先月の収益も過去最高だったしさ」

「はは、だよな。しかもあんなテキトーに撮った動画でチャンネル登録者数も一気に10万人近くも増えたしな。はは、これからもファンの皆様にはしっかりと俺達の養分になって貰わねぇとなー」


 そう言って俺達はこの一ヶ月間の出来事を思い出しながらお互いに笑い合っていった。

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