第11話:かなり暗い表情をしている桜井さんにバッタリと遭遇する

 スズハちゃんの生配信荒らしから一週間が経過した日曜日の朝。


 あれ以降スズハちゃんは配信も動画投稿も何もしなくなってしまったし、トイッターも全然呟かなくなってしまっていた。


(本当に大丈夫かな……ちょっと心配だな……)


 俺はそんなスズハちゃんのメンタルを心配しつつも、今日はフリーランスで貰ったネット関連の仕事を行っていた。今日の依頼内容はウーチューブ用の動画編集だった。


 どうやら最近のウーチューブは沢山の芸能人や芸人さんがどんどんと始めるようになってきているので、今俺がやっているような動画関連の仕事は結構需要が高まっているらしい。


 そしてそのおかげで今日の動画編集の単価はそれなりに良かったので俺はちょっとだけルンルン気分で動画編集を行っていっていた。


「うーん、流石に毎日これをやるのは地獄だったけど……でも何だかんだいって編集作業って面白いんだよなー」


 クルスドライブを辞めてからここしばらくは動画編集なんてずっとやってなかったんだけど、でも久々に編集作業をやってみて俺はそんな事を呟いた。


 編集作業には元動画のトリミングにテロップの配置、BGMやSEの挿入に各種エフェクトの追加などの様々な要素があるんだけど……でもこれらの編集作業は人によって個性が全然変わってくるのでとても面白い作業だと思っている。


 だから俺は動画編集自体はとても好きな作業だったんだけど、でもそれと同じく色々な人の作る動画を見るのも本当に大好きだった。地声を使わずにボイチェンを使ったり、合成音声を使って“ゆっくり”とした実況動画を作ったりする人達もいて本当に凄いと思う。


 特にあの“ゆっくり”としたボイスを使って違和感のない掛け合いボイスを作ろうとすると、ボイスの速度とか抑揚とかを弄らないといけないから上手く作るの絶対に大変なんだろうなぁ……俺も合成音声の如月サクを使ったオリジナルソングを作ってるから、合成音声を使った違和感のない掛け合いボイスを作る事の難しさは何となくわかる。


 まぁどうせクルスドライブを辞めて暇になったしいつか俺もそういう動画作りにも挑戦してみようかな?


◇◇◇◇


「……ふぅ、これでひとまずは終わりだな!」


 という事で編集作業を開始してから数時間後、俺は大まかな編集作業を終わらせる事が出来た。ここから依頼主によるチェックが必要になるので一旦俺はそのデータを依頼主へと送っていった。


 そしてその確認作業には時間が結構かかってしまうと思うので、俺の今日の業務はこれで終わりだ。


「うーん、それじゃあちょっと早いけど今日は早めのお昼ご飯を食べに出かけようかな」


 俺はそう言いながら時計を確認してみた。時刻はまだ11時を過ぎた所だ。


 まぁちょっと早いけどお腹も空いた事だし今日は早めのお昼ご飯を食べに行く事にした。いやまぁいつも通りコンビニ飯を買ってくるだけなんだけどさ。


「良し、それじゃあさっさと買いに出かけよう」


 という事で俺は座っていた椅子にかけていたジャケットを羽織ってからマンションの部屋から出た。そしてそのまま俺はエレベーターに乗り込んで地上へと降りて行った。


「……ん? あれは……」


 エレベーターから降りると、マンションのエントランス前で俺は見知った女の子の後ろ姿を見つけた。あれはお隣さんの桜井さんだった。そういえばここ最近は桜井さんとは一度も会ってなかったな。最後に会ったのは……そうそう、桜井さんが一人カラオケに行くと言ってた時だ。


「こんにちは、桜井さん」

「え……あ、あぁ……こんにちは、友瀬さん……」

「……えっ?」


 俺はいつも通り気さくな感じで桜井さんに挨拶をしたつもりだったんだけど……でも桜井さんはかなり暗い表情をしながら俺に挨拶を返してきた。俺はそんな暗い表情の桜井さんを見たのは生まれて初めてだったのでかなりビックリとしてしまった。


「え、えっと、桜井さんは今からお出かけですか?」

「あ、はい……ちょっと……そこのコンビニまで……」

「あ、そ、そうなんですね。実は俺もそこのコンビニに行くつもりだったんで良かったら一緒にいってもいいですか?」

「え……あ、は、はい……いいです、よ……」

「あぁ、ありがとうございます。あ、そういえば前に会った時は一人カラオケに行ってましたよね。最近もカラオケには行ってるんですか?」

「え……? あ、あぁ……いえ……もうこれからはカラオケに行くの……辞めにしようかなって……」

「え……えっ!? そ、そうなんですかっ?」


 つい先日まではあんなに楽しそうな表情をしながら歌の練習をしにカラオケに行っていたのに……一体桜井さんに何があったんだ?

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