第9話:休憩中にスズハちゃんの配信を覗いてみる

 それから一ヶ月程が経過した。


 俺はとりあえずウェブ系の仕事をフリーランスで引き受けつつ、空いてる時間は自分の趣味として如月サクの曲作りをしたり、積んでたゲームをしたり、動画を見たりしながら過ごしていた。


「はは、それにしても最近は充実した日々を過ごせてるよな。本当に毎日がすっごく楽しいわ」


 クルスドライブで働いていた時は動画の企画を考えたり、コラボ先や企業案件の人達との打ち合わせに出かけたり、撮影に必要な機材の発注やら書類作成、ウェブサイトや各種SNSの更新と、その合間にメンバーの誹謗中傷対応などもしていた。


 そしてこれらを全てこなした上で動画撮影と編集も俺の仕事だったんだ。こんなん普通だったら過労死してるわ。


「いや、本当に今までが働きすぎだったんだよな……よく過労死しなかったな俺……」


 確かに俺はクルスドライブの裏方として毎月50万の給料で貰えてたけど……でもそれは絶対に金額に見合った仕事量じゃなかったからな。


 だって今までずっと休みなしで毎日18時間は働いていたからな。時給換算したら800円/hとかだしさ……。


「今の都内の最低時給って1100円以上するのに、なんで俺の時給はそれを余裕で下回ってるんだよ……」


 それを考えてしまうと非常に悲しい気持ちになる。俺のこの数年間は一体何だったんだろうな……。


「……うん、これからはもっと自分の時間を大切に使っていこう……」


 という事で今日も夜からは自分の時間として如月サクのオリジナルソング作りをしていく事にした。でもその前に誰かお気に入り登録をしている配信者の動画かライブ配信がないかをチェックしてみた。すると……。


「……おっ、ちょうどスズハちゃんがライブ配信してるじゃん」


 スズハちゃんとは俺が最近推している歌ってみた系の動画投稿をしている個人勢の新人VTuberだ。スズハちゃんのチャンネルは少しずつではあるけど順調に登録者数も増えていっており、もうすぐ4000人を突破しそうになっている。


 そんなスズハちゃんが今はまったり雑談配信をしているようだ。


「よし、それじゃあ今日はスズハちゃんの配信を聞いてから作業に移るかなー」


 俺はそう決めて早速スズハちゃんの配信サムネをクリックしてみた。


 するとすぐにスズハちゃんのライブ配信に飛んでいったんだけど……でも何やらその配信の様子がおかしい事にすぐに気が付いた。


『え、えっと……そ、その……できればその……あ、荒らし行為は止めて頂けると……』


あwせdr:ぶっさww 気持ち悪い声ww さっさと配信やめろ!


kぐしr:ガチで不快な声すぎる。ってかよくそんなキモい声で歌ってみたとか出来るね。恥ずかしくないの??


lsdじょ:きもいきもいきもいきもいきもい!


あしkf:お前みたいなのがVTuberとか名乗んなよ、真剣にやってるVTuberの方々に対して失礼だろ!


『そ、んな……わ、わたしだって……真剣に頑張ってる……のに……』


あwせdr:真剣に頑張ってるとかwww お前みたいな弱小VTuberのどこが頑張ってるんだよ。バカかよ、同接1000人超えてからそう言う事言えよ


kぐしr:ってか普通にやっててもチャンネル登録者1万人くらい余裕でいくもんなんだけどなww えっと……ところで君は今チャンネル登録者何人なのかな? かな??


lsdじょ:マジでお前みたいなイタい勘違い女のせいでVTuberの品位が下がってんだよ。責任とって早くVTuberやめろ。チャンネル爆破しろ


「な、なんだこれ……荒らしか……?」


 それは誰がどうみても悪質な荒らしだった。確かに弱小のウーチューバーやVTuberを狙った愉快犯的な荒らしをする人は俺も時々見かけるけど……おそらくこれもその部類だと思う。


 まぁ配信をやりなれている中堅以上の配信者だったら、こんな荒らしコメントはスルーして即座にブロック対応していくか、もしくはわざとその荒らしと喧嘩をして面白おかしくネタ配信として昇華させていったりする人もいる。だけどスズハちゃんはまだまだ配信をはじめたばかりの初心者なので、そのような荒らし対応のスキルは持っていないようだ。


 そしてそんな初心者VTuberのスズハちゃんはそんな悪質な荒らし相手にもスルーせずに誠心誠意を込めて真面目に対応をしようとしてしまっていた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る