第8話:お隣さんJDの“桜井涼葉”さん
その日の夕方。
―― ぐぎゅぅ……
「あ、もう夕方か……腹減ったな……」
オリジナル曲作りに没頭していたら朝からずっとご飯を食べずにこんな時間にまでなってしまった。スズハちゃんに朝ご飯代のスパチャをしたけど、その前に自分の朝ご飯をちゃんと用意しろよっていう話だよな。
「んー、でも家に何もないし……仕方ない、コンビニでも行ってくるかな」
流石に空腹に耐えきれなくなった俺は、今住んでいるマンションの近くにあるコンビニへと向かう事にした。
という事で俺はさくっと身だしなみを整えてマンションの部屋から出て、一階に降りるためのエレベーターに乗り込んでいった。するとその時……。
「あー! す、すいません、ちょっと待ってくださいー!」
「ん? あぁ、どうぞー」
するとその時、エレベーターに乗りたい人が外にいたようなので、俺は“開”のボタンを押しながらその人が乗れるように待機してあげた。
「はぁ、はぁ、すいません、本当にありがとうございます……」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ。って、あぁ、桜井さんだったんだね。こんばんは」
「はぁ、はぁ……え? あ、あぁ、友瀬さん! こんばんはです!」
エレベーターに乗り込んできたのは俺のお隣に住んでいる桜井涼香さんという大学二年生の女の子だ。身長は150後半くらいのスレンダー体型で、綺麗な茶髪のウェーブヘアが特徴的な明るい女の子だった。
そして見た目に関しては綺麗系というよりも可愛い系に属するタイプの女の子だと思う。というか普通にテレビに出ているようなアイドル並みに可愛いらしい顔をしているからね。それに性格も大人しくて良い子だし……うん、きっと桜井さんの通っている大学では沢山の男子学生からモテているんだろうな。
(……まぁ、そういう発言をするとセクハラになっちゃうから本人には絶対には言わないけど)
流石に俺もTPOはわきまえてるので、こういうセクハラな発言は心の中で留めておく事にした。
「はぁ、はぁ……友瀬さんはこんな時間から何処かにお出かけですか?」
「ん? あぁ、いや違うよ。ちょっとご飯を買いにコンビニまで行くだけだよ」
そしてそんなアイドル級に可愛い桜井さんとはお隣さん同士という事もあって、軽く雑談をするくらいの仲ではあった。という事で俺はこのエレベーター内で桜井さんと軽くお話をしていく事にした。
「そういう桜井さんこそこんな夕方の時間に何処かに出かける感じなの?」
俺は桜井さんの姿を見ながらそんな事を尋ねてみた。今の桜井さんはバッチリとメイクをしており、服装もかなりオシャレなニットワンピースに綺麗な黒いロングブーツを着こなしていた。この桜井さんの恰好からして……おそらく今から女子会とかの集まりがある感じかな?
「あ、はい! ちょっと今から歌の練習がしたくなったので……今から一人カラオケに行ってこようかなと!」
「え? 今から一人カラオケに行くの? そ、それにしては何というか……めっちゃ気合が入ってるね?」
「はい! やっぱり歌の練習とはいっても、ちゃんと人前で歌う事を意識しながらやらないと上達しないと思うんです。だから私はいつもカラオケに行く時はたとえ一人で行く時でもバッチリとメイクと服装を決めて向かう事をルーティーンにしてるんです!」
「へぇ、それは凄いね! 桜井さんって凄いプロみたいな事をしてるんだね!」
「……えっ!? あ、あぁいや、その……あはは」
「……?」
俺がそんな事をいうと、桜井さんはちょっと驚いた表情をしながらも笑いながら誤魔化して来た。何か俺の言葉に変な所でもあったのかな?
「でもそんな本気で歌の練習をしているだなんて凄いね。もしかしてカラオケの大会か何かにでも出場するとか?」
「あ、い、いや、そういうわけじゃないんですけど……でもちょっと友達……のような人にこの曲を歌ってほしいってリクエストを貰ったんで、それの練習をしにいこうかなと」
「へぇ、そうなんだ。でもカラオケかぁ……俺は大学卒業してからはもうしばらくは行ってないなぁ……」
学生の頃は秀達と頻繁にカラオケに行っていた時期もあったけど、でも社会人になってからは行く機会はまるっきりくなってしまった。
「そういえば桜井さんはカラオケではどんな曲を歌ったりするの?」
「うーん、そうですねぇ、基本的には何でも歌いますよ。JPOPでも洋楽でもアニソンとかでも好きな曲なら何でも歌っちゃいますし、最新の楽曲とかも良い曲を見つけたらすぐにでも歌ってみたくなるんですよね!」
「へぇ、そうなんだ! 最新の曲まで網羅してるなんて凄いね!」
いや何でも歌っちゃうなんて本当に凄いな。きっと桜井さんは歌がかなり上手いんだろうなー。
―― チンッ……
そしてそんなカラオケ談義をしていたら、ちょうどエレベーターは一階に到着した。
「あ、はい、それじゃあお先にどうぞ。今からカラオケの練習頑張ってね!」
「はい、ありがとうございます! 友瀬さんも晩御飯のお買い物頑張ってくださいね!」
「あはは、ありがとう」
桜井さんはそう言うとエレベーターから降りてそのまま駅の方へと向かって歩いて行った。俺はそれを見送ってから反対方向にあるコンビニへと向かって行った。
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