第6話:最推しVTuberの“倉瀬スズハ”ちゃん

 という事で気分が悪くなりそうになった俺は、そのままウーチューブのトップページに戻って気分転換のために何か面白そうな動画を探し始めていった。


「うーん、何か面白そうな動画とか配信とかないかな……って、あれ?」


 ウーチューブのトップページを下にスクロールしていくと、お気に入り登録をしていたとある子のサムネが表示されていた。どうやらつい先ほどから生配信を始めたようだ。


「おっ、スズハちゃんのライブ配信が始まってるじゃん。ちょっと覗いてみようかな」


 それは数ヶ月前にチャンネル開設したばかりの新人VTuberの倉瀬スズハちゃんの配信だった。俺は早速その子のサムネをクリックして配信を覗いてみた。


『皆さん、こんな朝早くからこんにちはー。皆のアイドルこと倉瀬スズハだよー。良かったらチャンネル登録と高評価を押してねー』


 配信を開くとアイドルっぽい服装を来た茶髪の可愛らしいアニメイラストの女の子が明るく喋っていた。この子が倉瀬スズハちゃんだ。現役JDで主に“歌ってみた系”か“弾き語り系”の動画をメインで投稿している個人VTuberだ。


 スズハちゃんは元々高校生の頃には本当にアイドルをしていたらしいんだけど、大学受験を機にアイドルは卒業してしまったらしい。でもアイドルを辞めた今でも歌う事が大好きだから、歌系の動画投稿を始めるためにVTuberを始めたとの事だった。


『それじゃあ今日は朝からまったり雑談配信をしていくよー。リクエスト曲を歌う配信はまた来週やろうと思ってるからねー』


 そしてスズハちゃんのライブ配信ではリクエストを貰った曲を歌うか、軽い雑談をする配信をするのが主となっている。今日のライブ配信は雑談配信のようだ。


『あ、そういえば次に投稿する歌ってみた動画で何を歌うか決めたんだー! 先月の“サクちゃん”のオリジナルソングランキングで一位を取っていたあの曲を歌ってみるよー』

「お、マジか! スズハちゃんの歌う“如月サク”の曲はめっちゃ好きだから楽しみだな」


 “サクちゃん”こと“如月サク”とは、今から十年以上前に登場した合成音声ソフトの事で、それを使用して作曲されたオリジナルソングが若い世代を中心にしてとても高い人気を誇っていた。ウーチューバー界隈でもそれらの曲をカバーして歌ってみた動画を投稿している“歌い手”は沢山いる。


―― 雪ウサギ:¥1000 おはようございます、今日も朝から良い声してますね! 次の歌ってみた動画も楽しみにしてます! 良かったら朝ご飯代に使ってください!


『あ、雪ウサギさんだ! おはようございますー! そしてスパチャもありがとうございます! はい、これで美味しい朝ご飯を食べてきますね! 本当にいつもありがとうございますー』


 という事で俺は挨拶がてら次の歌ってみた動画に期待を込めて投げ銭をしていった。するとスズハちゃんはすぐに俺の投げ銭に反応して感謝の言葉を伝えてきてくれた。よし、今日も推し活が捗るな!


「それにしても、やっぱりこの子って凄い良い声してるよな。流石は元アイドルなだけあるよ」


 俺はそんな事を思いながらスズハちゃんの配信を見ていった。スズハちゃんの声質はとても綺麗で歌唱力に関しても相当レベルが高い。そして雑談配信ではそんな綺麗な声質で天然発言を連発してきたりするのも結構面白かったりもする。


 普段はとても綺麗な歌唱力を披露しているのに、雑談配信になるとちょっと抜けている所もあったり、ぽわぽわっとしている所を見せてくれるというギャップ差が非常に面白くて俺はついついこの子の配信はよく見させてもらっていた。


 現状だとスズハちゃんはまだまだ新人のVtuberなのでチャンネル登録者数は3000人くらいだし、配信の同接も100人ちょっとしかいないのだけれど、でもこの子はいつか伸びそうだなと思いながら俺はだいぶ初期の頃にチャンネル登録をしておいた。


『あ、そうだ! 今日は期間限定で設置しておいた質問箱に届いたお便りに答えていこうと思います! リスナーの皆はちゃんと質問してくれたかなー?』


 質問箱とはトイッターに設置出来るやつで、その設置した人に対して匿名で質問を送れるという一種のサービスの事だ。


―― atagi:したしたー!

―― 緑:俺の質問見てくれるかな?(わくわく

―― グラン:NG質問来てたらサクッと飛ばしちゃっていいからねー

―― Siro:確かに匿名質問だから変な質問とかもきてそうだよね……


『あ、ううん、答えられない変な質問とかは一つも来てなかったから大丈夫だよ! 私のチャンネルを見に来てくれるリスナーさんは皆良い人ばかりでとっても嬉しいよー! 本当にいつもありがとうございますー!』


 そう言って画面の中のスズハちゃんはニコっと笑顔になっていった。このスズハちゃんのチャンネルの良い所はアンチが全然湧かないって所もあるよな。スズハちゃんは配信中に暴言とか煽り発言みたいな事は一切しないし、根がとても良い子だからこそリスナー達も皆純粋にスズハちゃんの事を応援しているんだろうな。


『はい、それでは早速一つ目のお便りです! えぇっと……スズハさん、いつも綺麗で素敵な歌声を聞かせて貰って本当にありがとうございます、私もカラオケでスズハさんみたいに上手に歌ってみたいんですけど何かコツとかありますか? との事です! うわぁー、綺麗な歌声だなんて嬉しいなー! そんな嬉しい言葉を私に送ってくれて本当にありがとうー!』


 うんうん、やっぱりスズハちゃんの歌声ってとても綺麗だよな。俺以外の人達もそう思ってくれているようで良かった。


『うーん、それにしても上手に歌うコツについてかぁ……あ、それじゃあ一番簡単な発声前のウォーミングアップの方法を教えるからさ、良かったらカラオケに行く前にそれをやってみて! それを事前にしておくとちょっと歌いやすく感じるはずだからさ!』


atagi:どんな方法か聞きたい聞きたい!

桜:早速教えてくださいー


『うん! えっとね、リップロールっていうんだけど今から実践してみるね! やり方はとっても簡単だよ。自分の口を閉じて息をゆっくりと吐きながら、唇をブルルルルッって震わせるだけなんだ。それじゃあ今から実際にやってみるから、皆も良かったら一緒にマネしてみてね、それじゃあいくよー……ブルルルルルッ』


―― グラン:いや俺達には音だけしか聞こえないから実践されてもよくわからないよw

―― 緑:確かにw これだとマネしようにもやり方がわからないw

―― 桜:スズハちゃんの言ってる意味は何となくわかるけど、それでも合ってるかちょっとわからないよねw


『ブルルルルッ……って、えっ!? あ……そ、そっか、確かに私が画面に映ってるわけじゃないもんね、あ、あはは……いや恥ずかしいな、もう……』


―― Siro:いつもの天然さん来たわね

―― 雪ウサギ:天然さん助かる。今ちょうど切らしてた所なんだ

―― atagi:スズハちゃんの天然成分でしか得られない栄養があるんだ


『も、もう、皆してからかわないでよ! え、えっと、まぁつまりその……このリップロールをやるだけで喉が暖まるから声が出しやすくなるんだよ! 詳しいやり方とかはウーチューブに沢山動画が上がってると思うからそれを見てね!』


―― グラン:はい、わかりました!

―― Siro:あとで検索してみるね


『うんうん、是非とも参考にしてみてね! よし、それじゃあこの質問に対する回答は以上って事で次の質問にいくね! えぇっと、次の質問は……』


 そんな感じで今日もスズハちゃんによるぽわぽわっとした天然トークが始まっていった。俺はそんな楽しい雑談配信を聞きながら荒んだ心を癒していったのであった。

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