第4話:かつての友人達に酷い動画を投稿をされる
日曜日の朝。
「ふぁあ……ふぅ」
俺は欠伸をしながらパソコンのメール画面を開いていた。
今までコラボをしてくれた方々や企業案件を頂いた企業の担当者さんにクルスドライブを脱退した旨のメールを送り続けていたらこんな時間になってしまった。
という事で俺は人気ウーチューブグループのクルスドライブを辞めてから一日が経過した。これからアイツら三人だけで本当に大丈夫なのか心配だな。
「本当にアイツら三人だけで大丈夫なのかな……って、あれ?」
俺はメール画面を閉じて何となくウーチューブを開いたんだけど、するとそのトップ画面にはクルスドライブの最新動画のサムネが写っていた。
「あれ? もうクルスドライブの最新動画が投稿されてじゃん」
俺が編集を途中までやっていた動画を完成させて投稿させたって事かな? なんだ、アイツらもやればちゃんと動画編集出来るんじゃん。
よし、それじゃあ早速最新動画を見てみる事にしようかな。どれどれ、動画タイトルは……。
―― 【緊急】スタッフが金持って飛びました。。。
「……はぁっ!?」
その動画は俺が編集していた動画とは全く関係のない動画のようだ。いやそれにしても何だよこのふざけたタイトルの動画は? サムネイルも黒背景にデカ文字で【緊急報告】の四文字のみのよくあるサムネだ。
「いや、こいつらさぁ……マジでやってんな……」
という事で、まぁ何となく想像はつくんだけど、それでも一応内容を確認するために俺はその動画をクリックしてみた。
『えー、どうも皆さんこんにちは、秀です』
『雄大です』
『こういっちゃんです』
『えーっと、実はですね……今現場で大変な事が起きてしまったので急遽動画を撮っています。すぐにでも動画を投稿する必要があるので、今回はノー編集で投稿させて貰います、すいません……』
そう言ってリーダーの秀は神妙な面持ちで画面の前に向かってペコっと頭を下げていった。そして頭を上げてから神妙な面持ちを維持したまま本題に移っていった。
『えーっと、それでは本題に移ろうと思うんですけど……実は俺達の動画編集をしていたスタッフが俺達の金を全部持って飛びました……』
『……』
『……』
秀は苦痛な表情をしながらそんな事を喋り出してきた。そして残りの二人も秀の言葉に反応しながら悲しそうな表情を作ってから喋り始めた。
『……いや、こんな酷い事ってあるんだな……かなり信頼してたスタッフだったからマジでショックだわ……』
『いや本当にな……ずっと一緒に苦楽を共にして頑張ってきたスタッフだったのにさ……突然裏切られるとは思わなかったよな……』
『あぁ、本当にな。信頼してた分、裏切られた時のショックは半端なかったよな……という事で視聴者の皆さん……これからしばらくの間、俺達は給料0円生活を送る事になってしまいました……』
『はぁ、マジかよぉ……いやそれガチでキツいんだけど、今月の家賃どうやって払えば良いと思うリーダー??』
『うーん、どうやっても金は払えないから……こういっちゃんには限界状態で闇金に凸ってみた動画を撮って貰う事になるかな?』
『いやいやいやいや!! そんなん無理だって、海に沈められるよ!! そんなんリーダーがやってくれよ!』
『いや俺だっていやだよ、あはは』
そう言って神妙な面持ちだった三人は穏やかな顔に一瞬で変わっていき和やかな雰囲気になっていった。
「まぁでも金がないっていう事実は覆しようがないからな。でもこういうピンチの時こそ俺達三人で力を合わせて乗り切るしかないよな!』
『あぁ、そうだな! 俺達は他の全ウーチューバーよりも圧倒的に金欠だけど、でもその分絆の強さだけは他のウーチューバーには絶対に負けないしな!』
『はは、確かに絆の強さ以外じゃ他のウーチューバーには絶対に勝てないよな。いや俺は絆なんかよりも金の方が断然嬉しいけどなw』
『うっわ、マジで最悪だろww 俺達の絆……今日で崩壊しましたw はい、という事で皆さん今までありがとうございました、本日をもってクルスドライブは解散です!』
『いやいや嘘だよ嘘!! 俺だって金なんかよりもお前達と一緒にいられる事の方が嬉しいに決まってんじゃん! だからこれからも一生友達でいてくれよな!』
『秀……あぁ、もちろん、そんなの当たり前だろ!』
『あぁ、俺達はどんな事があっても一生友達でいようぜ!』
そう言って三人は嬉しそうな笑みを浮かべながら固い握手を交わしていった。
『はい! という事でこれから編集スタッフがいなくなったのと、俺達の金が全額消えてマジでピンチすぎる状況だからしばらく間は投稿頻度はガッツリと減る事になるわ。まぁでも俺達はそんなピンチも絶対に乗り切ってみせるから、だからファンの皆は何にも気にせずいつも通り応援よろしくな!』
『よろしくお願いします!』
「……なんだこの茶番?」
いや何で俺が金を持ち逃げしたみたいな動画を投稿してんだよ? 俺がいつそんな事をしたんだよ。
しかも俺のせいでメンバーの全財産がなくなってでピンチ!的な動画構成にしてるけど、そもそもお前ら年収数千万以上あるクセに何で貧乏人のフリしながら動画投稿してんだ。いや、まぁ理由なんてわかってるんだけどさ……。
「……これあれだな。次の配信で投げ銭をいっぱいして貰うための布石に使われてるな……」
いや俺自身は投げ銭という文化を否定するつもりは一切ない。ファンの皆が純粋な気持ちで実況者や配信者の人達を応援するためのツールとして非常に便利だと思っている。俺も好きな配信者にはちょくちょく投げ銭してるし。
それに推してる配信者が配信中にゲームをクリアした時のお祝いだとか、誕生日とかのお祝いとかでファンの皆で一斉に投げ銭を貰ったりするのも俺はとても良い文化だと思っている。ファンの皆で一緒になってお祭りのように盛り上がる事が出来るのも一つの文化だと思っている。
でも今回みたいな明らかな嘘をついてまで投げ銭を要求するのは絶対に違うだろ。何だよこいつらの金を俺が全部持ち逃げしたってさ、それが本当ならどう考えてもこれこそ警察案件だろ。動画撮ってる場合じゃねぇよ、今すぐ警察にいけ!
『という事でしばらくの間は更新頻度が減っちゃうけど……でも俺達はファンの子達のためにもすぐに戻ってくるから! あとは動画投稿が出来ない代わりに配信をガッツリと多めにしていく予定だから、ファンの皆はそっちを楽しんでくれ!』
『あ、それと今回動画編集のスタッフが飛んじゃったから、今後新たに編集スタッフを募集しようと思ってんだけど……もしこの動画見てる子で俺達の専属スタッフになりたいって子いないかな? もしやってみたいって子がいたらコメントしといてくんない? もしそういうコメントが多かったらスタッフ募集オーディションの開催してみようと思うからさ!』
『おー! 何だよそれめっちゃ面白そうじゃん! とりあえず決めてる採用条件とかはあったりすんの??』
『はは、んなのあるに決まってんだろ! 今の所決めてる条件はなぁ……俺達の金を持って勝手に飛ばないこと!』
『あはは! 確かにそれは一番重要な条件だな!』
『まじまじ! ってかもうそれさえ守ってくれれば他には何もいらないな!』
『あぁ、そうだよな! ってことだからファンの中で俺達の動画編集の専属スタッフをやりたいって思ってる子は気軽にコメント書いといてなー? アットホームな職場だし入ったらすぐに馴染めると思うからさ!』
『って事でここからはもう少し込み入った話をしていくな。まずは……』
……という事でここからはスタッフ募集の話へと移っていった。俺が金を持って飛んでしまったというエピソードをここにも活用してくるとは……。
「……はぁ。もういいわ」
もうこれ以上コイツらの動画を見ていると何だか具合が悪くなりそうになってきたから、俺はさっさとブラウザバックして違う動画を見始める事にした。
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