第3話:自らの意思でクルスドライブを辞める事に

「いや、だから俺は今までもちゃんとクルスドライブのために一生懸命に働いてたさ。でもクルスドライブが有名になってきたから裏方作業も相当に増えてきてるんだよ。だからもう俺一人で編集作業と裏方作業を全部やるのは厳しいんだって」

「……はぁ。何かお前さ……もしかして自分が担当してる仕事をすっごく大変な仕事だって勘違いしてないか?」

「は……はぁ? いや何言ってんだよ、秀?」


 俺は何とかして秀達の説得を試みようとしたんだけど……でも俺の話を聞いた秀はため息をつきながら俺の事を侮蔑した表情で見てきた。


「えけっと……お前の言う裏方作業だっけか? いやそんなの超楽な作業しかねぇだろ?? それなのに何でお前はそんな嘘をついてまでスタッフを増やそうとしてんだ? いや誰がどう見ても自分の給料を横領するためにしか見えねぇよ。はぁ、お前マジで終わってんな……」

「は、はぁっ!? い、いやいや! 俺の仕事だって相当大変だからな!」


 流石にここまで俺の仕事を下に見られるのは納得出来ないので、俺は秀の言葉にすぐさま反論した。


「はぁ? お前の仕事のどこが大変なんだよ?? 撮影とか編集なんて誰でも出来る簡単な作業だし、コラボやら案件を取って来るのだって俺らの知名度からしたらそんなの向こうから勝手にお願いをしに来るわけだろ? お前の頑張りって何だよ? 結局お前は大変だって口にしてるだけで、結局は何も頑張ってねぇんだよ。それなのに俺はめっちゃ仕事してるぜっていう感じでドヤ顔すんなよ……バカすぎて哀れに見えるぞ?」

「あはは、それマジで言えてるわ。要はお前って楽して金稼ぎたいだけだろ? そういやずっとお前の顔に書いてあるな。こんなチョロイ仕事で毎月50万も貰えるとかコスパ良すぎだろーってさぁ? はは、図星だろ??」


 秀達そう言って俺の事を馬鹿にしながら大きな声をだして笑ってきた。どうやら俺の今までの頑張りというのは、メンバーの皆には一切伝わっていないようだった。


「なぁ、だからさぁ……もうさっさとクルスドライブから抜けてくんねぇか? 正直お前みたいな勘違い野郎がいるとグループ内の士気も下がるしさ。それにもう友瀬も十分にウーチューブドリームは見れただろ? だからもうそれで良いじゃねぇか。そのウーチューブドリームの思い出を持ってさっさと地元にでも帰れよ」

「はは、何なら地元の友達とかにその事を自慢しても良いんだぜ? 俺は昔クルスドライブのメンバーと一緒に働いてたんだぞ!……ってさ。そう言えばもしかしたら地元の女達にモテるかもしんないぜ? あ、可愛い女がいたらちゃんと俺達に紹介しろよ? あぁでもお前の地元って田舎だもんな。そんな田舎に可愛い女がいるわけないか、あははっ!」

「……」


 俺だけが馬鹿にされるのなら我慢は出来るけど、でも流石に地元の事や友達の事を馬鹿にされるのは許せない……。


(……もうコイツらと一緒にやっていくのは無理だな……)


「……あぁ、わかったよ。皆がそう言うなら俺はクルスドライブから抜けるよ。でも俺が抜けた後の裏方業務はどうするんだ? それにお前らの歌の楽曲提供だって俺がしてたんだぞ?」

「はぁ? いやだからさっきも言っただろ、そんなの今時誰だって出来る簡単な作業だってさ。それに俺達にはファンも大勢いるし、そいつらの中には俺達の動画撮影とか編集とか楽曲作成を手伝いたいっていうやつらも大勢いるだろ」

「……お、おい、まさか……ファンの人達に無償でお前達の動画編集とかをさせるつもりじゃないだろうな?」

「いやマジで馬鹿だろお前? そんなんちゃんと金は払うに決まってんだろ。ま、でもただの編集作業如きで毎月50万も払わされずに済むってんなら幾らでも払えるけどな、あはは!」

「あぁ確かにな。いやでもよく考えたらこんな楽な作業をしていたヤツに毎月50万も払っていただなんてさ……これってある意味ぼったくりだよな? どうするよ、これって警察にでも相談した方が良い事案か?」

「は、はぁっ!? ぼったくりだって??」


 そりゃあ編集だけしてるんだったら月50万は貰い過ぎかもしんないよ? でも俺はさっきから何度も言ってるけど編集作業以外にも沢山の仕事をやらされてんだよ。しかも毎日休みなしで18時間くらい働いてんだぞ?? 時給換算したら800円/hだぞ? 都内の最低賃金知ってんのかこいつら??


「ははは、そりゃあいいな。それじゃあ早速だけど詐欺の被害にあったって言って警察に相談してみようぜ! あぁ、よく考えたらただの編集作業者に毎月50万とかマジであり得ねぇもんな!」

「……いいよ、わかったわかった。もう今日中に辞めるよ。今までありがとな、こんな詐欺師みたいな男を雇ってくれてよ!」


 秀達の俺を馬鹿にする会話を遮って、俺は秀達に向かってそう言ってやった。


「はは、良いって事よ。俺達はこう見えてもお前みたいな弱者男性に優しいからさ。ま、それじゃあ今までの給料は手切れ金という事で持っていけよ。あぁ、もちろん警察になんて通報しねぇからさ。これからは田舎で慎ましやかに第二の人生を過ごせよ」


 秀は先ほどの馬鹿にした態度とは一変して満面の笑みを浮かべながらそんな事を言ってきた。そしてすぐに俺がいなくなった後の話をしだしていきだした。


「あはは、でもこれで友瀬がいなくなるなんてせいせいするな。あ、そうだ! せっかくだし次に雇うスタッフは女にしようぜ! それでめっちゃ可愛い女をオーディション形式で採用するってどうよ? めっちゃエロい子採用しようぜ!」

「おーいいなそれ! ついでにそのオーディションも動画にしちゃえば広告収入も稼げて一石二鳥になるんじゃね? メチャシコ動画編集者オーディション! これどうよ、再生数めっちゃ稼げるんじゃね?」

「あはは! なんだよそれ、まるでAVの企画物みたいなタイトルだな! いやめっちゃ面白そうだけどな!」

「あぁ、本当にな! よし、それじゃあ早くこれ企画にしようぜ!」


(……お、おいおい……)


 何というか、今のご時世だと確実に炎上しそうな話で盛り上がってんだけど……まぁでも俺はこのグループから脱退するんだからもうどうでもいいわ。


「……まぁ何でもいいけど、あまり炎上するような事だけはすんなよ。せっかく沢山のファンがついてくれてるんだからさ」

「はぁ? 炎上?? ぷはは、俺達が炎上なんてするわけねぇだろ。そもそも炎上なんてするユーチューバーは何も考えてない馬鹿しかいねぇんだからよ」

「あはは、そうだよな。俺達だって一度も炎上なんてした事ないのに……って、あれ? という事はもしかして、俺達って意外と品行方正なユーチューバーなんじゃね?」

「あぁ、確かに確かに! いやマジで俺達めっちゃ優等生すぎだろ! 同じタイミングで始めたユーチューバーなんて皆大なり小なり炎上してファンの人数とか思いっきり減らした事あるのになーww」

「……」


 今秀達が言ったようにクルスドライブが炎上した事は今まで一度もない。でも炎上してない理由は俺が皆に対して口酸っぱく注意してきたからだし、炎上しそうな事案を見つけたら俺が事前に根回しして対応してきたからだ。


 だからこいつらはこの数年間で炎上になりかけた未遂事件自体は何度もあったんだ。でもこいつらにそんな事を言った所で納得なんて一切しないだろう。だから俺は黙ってこいつらの聞き流す事にした。


「……まぁいいわ。それじゃあ俺は今日限りでグループから抜けるけどよ……これからは自分達で全部やれよ? 年末の確定申告とかも自分達でやるんだぞ? わかんない所があったらちゃんとググれよ」

「あぁ、それくらいわかってるに決まってんだろ。はぁ、全く……最後までうるせぇ奴だな、お前は……」

「それくらい重要だって事だよ。まぁわかってるようならそれでいいわ、それじゃあな」


 そう言って俺は長年愛用していたクルスドライブの撮影スタジオから出て行った。


「さてと、これで晴れて無職になったわけだけど……これからどうするかなぁ」


 まぁ無職になってもウェブ関連の仕事なら俺でも出来る仕事はあるだろうし、それに貯蓄もそれなりにあるからしばらくはノンビリと仕事探しをしていく事にするかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る