第37話 世界を救うエロ本

「あああああ、ワシのスマートフォンが海の底に……」


駄段は泣き叫びながら、その場にうずくまる。スタアボウイがポンポンと駄段の肩を叩きながら励ます。しかし次の瞬間、駄段は目をカッと見開き、振り返る。


「こうなったら、アイスギャルよ。世界の平和の為に服を脱いでくれ!」


駄段がアイスギャルに襲い掛かる。しかし、駄段の腹にアイスギャルのパンチが炸裂する。


「ほうっ……」


駄段は苦悶の表情を浮かべ、再びうずくまる。


「次やったら、ホントに凍らせて海の底よ」


アイスギャルは苦しんでいる駄段を見下し、吐き捨てる。ヒーロー達も同情の余地無しと冷たい視線を駄段に送る。


「ぬおおお、ワシは負けん! こうなったら、愛花さん! 君が服を脱いでくれえ!」


駄段は気力を振り絞り、今度は愛花を襲う。


「いやああああ」


愛花の悲鳴が辺りに響く。駄段の手が愛花に触れそうになったその時、駄段の足が凍り付く。


「へ……」


駄段は凍り付いた自分の足を見て、アイスギャルの方を見る。そして、自分の足を凍らせたのは彼女だと確信する。


「このエロジジイ。海に落としてやるわ!」


アイスギャルはそう叫ぶと、足の凍った駄段を担ぎ上げ、海に投げ込もうとする。


「いやだあああ。ワシは世界の平和の為に良かれと思ってしただけなのに。助けてくれー」


駄段は号泣し、アイスギャルに命乞いをする。しかし、アイスギャルは聞く耳を持たない。まさに、駄段を海に放り込もうとした瞬間。


「すいませーん! イナズマダンディーがエロ本を隠し持っていまーす!」


スタアボウイがイナズマダンディーを指差す。アイスギャルはその声に反応し、駄段を海に落とそうとする手を止める。そして、イナズマダンディーは体で見えなくなる様にエロ本を抱えて隠し、怒って叫ぶ。


「言うなッス!」


次の瞬間、駄段がイナズマダンディーの方を見て、叫ぶ。


「イナズマダンディー、そのエロ本をよこせ!」


「嫌ッス! 自分、この戦いが終わったら、このエロ本をゆっくり見ようと思ってたッス!大事なエロ本ッス! これは譲れないッス!」


イナズマダンディーは激しく抵抗し、エロ本を離さない。 駄段はアイスギャルに担がれたままの状態で、イナズマダンディーに話し掛ける。


「イナズマダンディーよ。君のエロ本を宇宙の平和の為に使えば、君は宇宙のダンディーになれる。どうか、君の為にそのエロ本を譲ってもらえないか?」


イナズマダンディーは身体から電撃を放電し、宇宙のダンディーと言う言葉を何度も復唱する。そして、担ぎ上げられている駄段をじっくり見て、口をゆっくりと開く。


「駄段さん、自分は最初から決めてました。このエロ本を宇宙の平和の為に使おうって……」


イナズマダンディーは、海に投げ込まれそうな駄段にエロ本を渡す。駄段はエロ本を受け取ると、ウインドキッドに向かって叫ぶ。


「今だ! ウインドキッドよ! このエロ本をキモクサマンに届けるんだ!」


ウインドキッドはハッと返事をすると、エロ本を風に乗せてキモクサマンの元へと運ぶ。


再び、ズドンという衝撃音が鳴り響く。ブラックハートの拳が、キモクサマンの顔面を直撃する。キモクサマンは鼻と口から血を流し、地面を転がり回る。そして、仰向けになり、天を仰いでいる。


ヒーロー達の顔は皆、失望で溢れていた。勝てる訳がない。もうすでに、あんなに一方的にやられ、ボロボロではないかと。誰もが、エロ本一冊でこの絶望的な状況を打開出来るとは思っていなかった。


そんな中、アイスギャルから許しを得た駄段は、身体を下ろされて涙を拭っていた。そして、マイクを手に取りキモクサマンを指差す。


「キモクサマン、そのエロ本を見るんだ!」


エロ本はウインドキッドの風に運ばれ、まるで鳥が羽ばたく様にキモクサマンへと向かって行く。しかし、キモクサマンまで、あと少しという所で、ブラックハートが異変に気付く。


「何だ? これは?」


ブラックハートは飛んで来たエロ本を、キモクサマンの寸前で阻止する様に掴み取る。そして、確認する様に中身をパラパラとめくる。


「いかん! 奴に奪われた!」


駄段はその光景を目の当たりにし、愕然とする。もう、ダメかと駄段はうなだれる。


「ただのエロ本ではないか。何でこんな物が飛んで来たのだ」


ブラックハートは不思議に思い、辺りを確認する。海上の橋の上とはいえ、今は大して風は吹いていなかったはず。ブラックハートは首を傾げ、手に取ったエロ本をポイっとその場に投げ捨てる。


その瞬間を駄段は見逃さない。駄段の目がキラリと光り、大声を出す。


「キモクサマン! その本に裸のお姉さんの写真があるぞ!」


キモクサマンは駄段の声にビクッと反応し、投げ捨てられたエロ本を取る為に、犬の様に駆け回る。投げ捨てられたエロ本を手に取り、ページを必死にめくり出す。そして、裸の美女の写真の所で、手を止める。キモクサマンは、その写真を凝視する。


「な、何だ、貴様! そんなに身体を痛め付けられても、まだエロ本が見たいのか? どんだけ、スケベなのだ」


ブラックハートは、キモクサマンのあまりのスケベさに動揺する。キモクサマンは、スゴい鼻息で裸の美女の写真を見続けている。すると、キモクサマンからカチッというスイッチの入る様な音がする。駄段は、その音を聞き逃さず、ヒーロー達の方を振り返り、叫ぶ。


「やったぞ! ムッツリスケベネットワークに接続した。間もなく、キモクサマンエロティックモードに突入するぞ!」


キモクサマンはプルプルと震え出す。そして、頭に付いている一輪の花が、キュイーンと音を立てて、回転し出す。


「ふごおおおおおおおおお」


キモクサマンは、エロ本を凝視しながら叫び出す。そして、キモクサマンのゴーグルから見えている両目はハート型になる。全身がピンクの光に包まれる。


「ピンクの闘気だ。やった、成功した。キモクサマンエロティックモードが発動した……」


ピンクの闘気に包まれたキモクサマンはエロ本を投げ捨て、ブラックハートをじっと見る。ブラックハートは、あざ笑う様にキモクサマンを見て言葉を告げる。


「フッ、まだやるつもりか? 貴様の命、終わらせてやろう」


両者は再び、向かい合う。


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