第36話 憎悪の感情 VS モテたい感情

「くそーっ。こうなったらキモクサマンの屁クラスの毒ガスを用意して、ブラックハートに食らわすんだ! 誰か早く持って来い! このままだと全員、やられちまうぞ!」


駄段はかなりヤケになって、騒ぎ立てる。


「駄段さん、落ち着いて下さい。そんな毒ガスをこんな短時間で、用意出来ません。それに、ここは市街地です。毒ガスなんか使ったら、守るべき市民の皆さんに被害が出てしまいます」


ウインドキッドは冷静に諭すように、駄段に告げる。


「敵の弱点が、あからさまに分かってるんだぞ! ただ指をくわえて見ていろと言うのか?」


駄段は興奮して、暴れ出す。ウインドキッドも為す術がないので、暴れている駄段を放置している。


そこに、ズドンという衝撃音が辺りに鳴り響く。橋の上のキモクサマンが宙に浮かび、そのままドッと地面に仰向けに倒れる。


ブラックハートの蹴りが、キモクサマンの顔面を捕らえたのだ。キモクサマンは、ピクピクと小刻みに痙攣して横たわっている。


キモクサマンは全身アザだらけで、身体のあちらこちらから出血している。プロテクターも亀裂が入り、何ヵ所も破損している。見るも無惨な姿だ。


「ヤバいッス。今のはかなり効いてるッス。マジでキモクサマン、殺されるッス」


イナズマダンディーも慌て出す。他のヒーロー達も頭を抱え、うなだれている。


「キモクサマン、確かに貴様は強かった。さすが駄段の最高傑作だけの事はある。だが、俺の方が上だった。久々に熱くなれた。楽しかったぞ。でも、これで終わりだ。とどめを刺してやろう」


ブラックハートは倒れているキモクサマンを見下しながら、言葉を告げる。そして、腕を振り上げ、キモクサマンに振り下ろす。キモクサマンは間一髪で起き上がり、それを交わす。


「諦めが悪いぞ、キモクサマン。それとも、アホだから勝ち目が無くても、まだ立ち向かって来るのか?」


ブラックハートは再び、あざ笑う様な仕草を見せる。キモクサマンは息切れをして、ヨロヨロとしながら立っている。


「フハハハハ、ブラックハートめ。もう許さんぞ」


突然、駄段が狂った様に笑い出し叫ぶ。ヒーロー達は、とうとう恐怖でおかしくなったと諦めた顔で、駄段を見ている。


「あまり使いたくはなかったが仕方ない。奥の手を使う」


駄段は橋の上の二人を見ながら、口を開く。


「キモクサマンは理性ではなく、本能のままに戦う。みんな知っておるな? キモクサマンの力の根元は、エロの力なのだ。モテたい、ヤりたいという感情を爆発させ、とんでもない戦闘エネルギーを作っているのだ」


駄段は拳を握り締め、解説する。ヒーローの皆は、もう付いていけないので、呆れ顔をして無視している。


「一方、怪人達は、人に対する怒り、恨み、憎しみ、嫉妬などの負の感情が力の根元となっているのだ」


駄段は誰からも相手にされていない状態で、話を続けている。


「この戦いは言わば、エロの感情と憎悪の感情、どちらが勝っているかの戦いなのだ。つまり、感情の強い者が勝つ!」


駄段は目を見開き、言葉を発する。


「キモクサマンの第二形態、キモクサマンエロティックモードを発動させる」


ウインドキッドは、再び希望を取り戻し、駄段の方を見る。


「駄段さん、キモクサマンエロティックモードとは何ですか? その状態になれば、キモクサマンはブラックハートに勝てるのですか?」


「あぁ、勝てる。しかし、発動させるには条件を満たさねばならない」


「条件とは何ですか? 私に出来る事があれば、何でも言って下さい」


ウインドキッドは、必死に駄駄に詰め寄る。恐らく話から察すれば、最後の切り札、そしてそれが最後の希望なのだろう。ヒーロー達も期待して、駄段の話に耳を傾ける。


「さっきも言った通り、キモクサマンのパワーの根元はモテたい、ヤりたいと言うエロの感情だ。その感情を激しく覚醒させる事により、キモクサマンはエロティックモードに入り、戦闘能力が数倍に上がるのだ。それでは、条件を説明しよう」


駄段はアゴに手を当てフムフムと頷きながら、話を続ける。


「まず、阿多くんはムッツリスケベだ。その阿多くんのムッツリスケベ回路、ムッツリスケベネットワークに刺激を与える。その事により、キモクサマンエロティックモードのスイッチが入るのだ」


ウインドキッド、並びにヒーロー達はポカンとする。


「スイマセン、ムッツリスケベとは何ですか?」


ウインドキッドは首を傾げ、質問する。


「ムッツリスケベとは、エロい事なんか一切興味持ってませんよと、人前ではそう見せ掛けておいて、実は頭の中でスゴいエロい妄想をしている奴の事だ。つまり、隠れエロ人間の事を言う」


駄段は科学者の顔になり、話を続ける。


「そう、このムッツリスケベは、通常のエロい人間よりもエロの感情がより強いのだ! 言わば、ムッツリスケベネットワークはエロの爆弾の様な物」


ウインドキッドの顔はピクピクとひきつっている。駄段はそんな彼を気にせずに、得意げにまた話を続ける。


「つまり、キモクサマンにエロ画像を見せる事により、条件は満たされ、エロの爆弾は大爆発する。その事により、キモクサマンは強くなるのだ!」


ウインドキッドは、力なくその場に座り込む。アホ過ぎる、頭がおかし過ぎる。ウインドキッドは、呟く様に口を開く。


「まともじゃないですよ、駄段さん。私はもう付いていけない……」


「フン、まともじゃない? 上等だ。最初から人間を殺す事に快楽を感じてる様なイカれた怪人と戦おうってんだ。こちらもまともな精神状態で対等に戦えるかよ」


駄段は胸を張って答える。なるほど、今の答えはまともだなと、ウインドキッドは感じて、駄段を見直す。


「では、ワシのスマートフォンでエロ動画を流すから、これをキモクサマンに届けるんだ」


駄段はスマートフォンを取り出し、起動させる。が、エロ動画が表示されない。駄段は電波が悪いのかと思って、必死にスマートフォンを振り出す。


「あ、駄段さん。戦いの前に言いましたが、怪人達に通信を全て遮断されているので、エロ動画はおろか、インターネットは全て使えないですよ」


スタアボウイが、明るく笑顔で駄段に説明する。駄段は再び怒り狂い、持っていたスマートフォンを海に投げ捨てる。



















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