第32話 キモクサマンの三つの条件
駄段は怪人達が笑っている姿を双眼鏡で確認する。
「あいつら、何か仕掛けて来るつもりだ。みんな、注意しろ!」
駄段は、後ろにいるヒーロー達の方を振り向く。
怪人達が、キモクサマンの方へと突進して来る。が、途中で進路を変え、キモクサマンの脇をすり抜ける様に移動する。
「そうか、奴等。キモクサマンを無視する作戦に来たか!」
駄段が双眼鏡で見ながら、叫ぶ。
キモクサマンは、すり抜けて来る怪人を何人か仕留める。しかし、三人の怪人が隙を見て脇をすり抜け、市街地側のヒーロー達の元へと走って行く。
「いかん! 抜けられた! あの怪人達を止めるんだ!」
駄段はまた叫ぶ。
キモクサマンを突破し、先頭を走っていた怪人がヒーロー達に迫る。次の瞬間、その怪人の額に氷柱状の氷が刺さる。怪人はバタッと倒れる。
「私達なら勝てると思ったワケ? ふざけないでよ!」
アイスギャルが、倒した怪人に吐き捨てる。
残りの二人の怪人も、ヒーロー達に攻撃を仕掛け様とする。怪人達に稲妻と竜巻が襲う。二人の怪人は、直撃され、絶命する。
「やっと、役に立てたッス! 自分はダンディーッスか?」
「あぁ、ダンディーだ」
イナズマダンディーとウインドキッドは言葉を交わし合い、微笑む。
駄段はこの状況を見て、マイクを手に取る。
「あー、キモクサマン、聞こえるか?」
駄段の声がスピーカーから放出される。しかし、キモクサマンは聞いているのか、聞いていないのか相変わらず分からない状態だ。
「キモクサマンよ! 君の脇を怪人達がすり抜けてしまったら、S市の可愛い女性が襲われる事になる。それでもいいのか? お触り出来なくなるぞ!」
駄段はキモクサマンを指差し、ポーズを決める。ウインドキッドは、最低なモチベーションの上げ方だと駄段を軽蔑する。隣の愛花も冷たい視線を駄段に送っている。
「このエロジジイ、もう我慢出来ないわ。足を凍らせて、海に投げ込んでやるわ!」
アイスギャルが、駄段の胸倉を掴む。
「ま、待て、見てみろ、キモクサマンを……」
駄段は苦しそうに、キモクサマンを再び指差す。ヒーロー達は、一斉に指された方向を見る。
キモクサマンは、両腕をグルグル回している。キモクサマンの鼻息が荒い。やる気満々だ。
「キャー、キモクサマン様! 素敵」
アイスギャルは駄段から手を放し、また乙女になっている。
「行け! 作戦は変わらない! キモクサマンを避けて、市街地を目指せ!」
羊の怪人が、他の怪人に号令をかける。怪人の大群が、キモクサマンの横を通り過ぎようとする。
しかし、次の瞬間、キモクサマンの脇を通った怪人達は全て消し飛ぶ。一瞬で、キモクサマンの見えない力により、怪人の集団が塵と化したのだ。羊の怪人は恐怖し、その場に座り込む。
ヒーロー達は歓喜する。キモクサマンの鉄壁の防御は破られない。もう、怪人達はこの橋を渡る事が出来ないと、ヒーロー達は確信する。
羊の怪人は後ろを振り返る。気付いてみれば、百人近くいた怪人達は、残り僅か五人となっていた……。
ウインドキッドは、橋の上の状況を見る。橋の上には、キモクサマンと怪人が五人いる。幹部の怪人は、恐らくあの羊の怪人と狼の怪人だけだ。市街地側のヒーローは三十名はいる。
形勢は逆転した。この戦い、勝てる。ウインドキッドは安堵し、笑みが溢れる。
ウインドキッドがふと横を見てみると、愛花が駄段の方を向いている。そして、彼女は思い詰めた様な顔をして、口を開く。
「貴方が阿多くんを、キモクサマンにしたんですね? お願いです、教えて下さい。阿多くんとキモクサマンの事を……」
駄段は、一瞬驚きの表情を見せ、ウインドキッドの顔を確認する。ウインドキッドは、無言でコクリと頷く。
駄段は意を決して、愛花に話し始める。
キモクサマンはアホになる代償に、最強の力を手に入れる事。キモクサマンに変身している間は、阿多には記憶がない事。そして、今までの怪人との戦いで多くの人の命を救った事などを、駄段は淡々と話す。
愛花は複雑そうな顔をして聞いている。そして、愛花は切迫した様に駄段に質問する。
「それは阿多くんじゃなければ、ダメだったんですか? 他の人がキモクサマンでも、別に良かったんじゃないですか? なぜ、彼なんですか?」
「阿多くんは適任だった。誰でもいいと言う訳じゃなかったのだ。キモクサマンになるには、三つの条件が必要だったんだ」
駄段は、愛花の目を見て話す。ウインドキッドも初めて聞く話なので、興味を示す。
「一つ目の条件は、強靭な肉体を持つ人物でないといけないと言う事。ワシも実験でキモクサマンに変身したのだが、一週間腰痛で動けなくなった。変身に耐え得る筋肉と骨格が必要なのだ」
ウインドキッドは考える。確かに阿多さんは、筋肉質な身体だ。なるほどと、頷く。
「二つ目は、強いメンタルの持ち主。つまり、何事にも動じない心を持っていなければならないという事。阿多くんの前に実は、被験者が何人かいたのだ。その被験者は皆、引きこもりになるか、発狂しておったわ」
ウインドキッドは納得する。変身して、アホになり、気持ち悪い、臭いと言われ嫌われる。これに、耐え得る人間は確かに少ないだろうと思われる。自分もこれに耐えられず嫌で、キモクサマンになる事を拒否したのだ。
「そして、三つ目の条件が一番重要なのだ……」
駄段は、少し勿体ぶって話す。
「三つ目の条件は、エロい事だ!」
駄段は拳を握り、叫ぶ。聞いていた人間は皆、キョトンとする。
「すまぬ、ちょっと難しい表現だったかな? 言い直そう。ドスケベな人間でないと、いけないのだ!」
ウインドキッドは思った。三つ目のハードル、スゴく低くないですかと。大抵の男ならクリアしてると思いますけど。それに、言い直さなくて良かったですよと。
愛花も嫌な顔をしている。駄段はさすがにマズいと思って、話を付け足す。
「ま、阿多くんは誠実で心優しい青年だから、信用して渡したんだけどね。あの力が悪の手に落ちたら、大変だからね」
ウインドキッドは、駄段に冷たい視線を送る。エロとドスケベの話、いらなかっただろと。愛花は、遠くの方を見つめながら、その話を聞いていた。
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