第31話 死神と呼ばれたヒーロー
怪人の大群が、キモクサマンに襲い掛かって行く。ドドドと言う、地鳴りの様な足音が辺りに轟く。キモクサマンは相変わらず、半笑いで鼻水を垂らしている。怪人達をボーッと他人事の様に眺めている。
「食らえ! キモクサマン!」
竜の怪人が、口から炎を吐く。炎の直線はゴオッと焼け付く様な音を出し、キモクサマンに向かって行く。
キモクサマンはそれを脇を上げ、まるでシャワーを浴びる様に受ける。彼は気持ち良さそうな顔だ。それが、竜の怪人を余計に怒らせる。
「舐めるな! キモクサマン!」
竜の怪人は、キモクサマンの顔目掛け、剛拳を振るう。キモクサマンはハエを追い払う様に、軽く手を払う。竜の怪人の上半身は、跡形も無く消し飛ぶ。
イナズマダンディーは口をポカンと開けたままの状態で、それを見ていた。自分達ヒーロー幹部三人でも全く通用しなかった、あの竜の怪人があんなにあっさりとやられるなんて……。
イナズマダンディーは、キモクサマンに対し、ちょっと嫉妬心を抱く。この男、自分よりダンディーかもしれないと……。
一気に橋の上に走って来た他の怪人達も、目の前で竜の怪人がやられた事で、少し行動を躊躇する。
しかし、怪人達は再び声を上げ、武器や各々の技でキモクサマンに一気に攻撃を仕掛けて来る。キモクサマンは軽くパンチやキックを繰り出し、それに応戦する。
ドンドンと、花火の上がる様な爆発音が連続して響き、怪人達の肉片が辺りに飛び散って行く。
キモクサマンと怪人の戦闘を、市街地側のヒーロー達は呆気に取られて見ていた。キモクサマンに近寄る怪人達が、次々に粉々にされていく。まるで、三級のスプラッター映画のワンシーンの様だ。
「キモクサマーン、こっち向いてー。キャー、素敵!」
アイスギャルはキャーキャーはしゃいで、キモクサマンの戦闘を楽しんでいる。他のヒーロー達は、この女、正気かと言わんばかりの表情で彼女を見ている。しかし、批判した態度がバレると面倒臭いので、目線をまたキモクサマンに戻す。
怪人達は、キモクサマンと距離を取り、一時制止する。
「キモクサマンは頭が悪い! こちらはちゃんと、頭を使って攻撃するんだ!」
羊の顔をした怪人が、他の怪人達に指示をする。怪人達は陣形を整え、キモクサマンを包囲する様に距離を詰めて行く。
「背後から攻撃をして行け! 後頭部を狙って行くんだ!」
羊の幹部の怪人が叫ぶ。
背後に回っていたヤギの顔をした怪人が、頭に生えた鋭利な角を前にし、突進して行く。
「頭を使えとは、こういう事ですか?」
ヤギの怪人の頭突きが、キモクサマンの背中に直撃する。ドンという激しい衝撃音が響く。
しかし、キモクサマンは何もなかったかの様に笑っている。代わりに、ヤギの怪人の自慢の角が折れ、頭から血を流し、フラフラしている。
「いや、そういう事じゃねぇよ!」
羊の怪人はツッコむ。
ウインドキッドは、それを見て呟く。怪人達の中にもアホがいる、と。
そして、イナズマダンディーはキモクサマンの戦闘を見ながら、悩みずっと考えていた。
自分、目立ってないッス! ダンディーさをアピールしてないッスと……。
* * * *
怪人達は、円を囲む様に包囲したキモクサマンを袋叩きにする。カンカンと金属音だけが、虚しく鳴り響く。
次の瞬間、囲んでいた怪人達が全て吹き飛び、粉々の肉片と化す。その上をキモクサマンはヘラヘラと笑いながら、歩く。まるで、破壊の神が降臨した様なそんな地獄のような光景だ。
羊の怪人は、何が起こったのか分からず戸惑う。一瞬で囲んでいた怪人が、消し飛んだのだ。爆弾か何か仕掛けられ、爆発したのか、そんな事を想像させる映像だった。
それに気付いてみれば、たった数分の間に、半分くらいの怪人達が、このアホ一人にやられている。バカな、あり得ない、俺達は生物最強の怪人様なのに……。
「茶番は終わりだ。俺があのアホを仕留める」
羊の怪人の後ろから、ガチャガチャと金属の足音が聞こえて来る。そうか、まだ怪人側にはこの男がいたのだなと羊の怪人は微笑む。
全身、金属の鎧で覆われ、人間の頭蓋骨を金属にした様な顔の怪人が現れる。男は通称、"ロボの怪人"と呼ばれる幹部であった。
「キモクサマンは、絶対的な防御力を誇っている。つまり、並みの攻撃では傷一つ付ける事は出来ないのだ。だから、攻撃力最強のこの俺が出番と言う訳だ」
ロボの怪人は、キモクサマンの前に出る。キモクサマンは、目の前のロボットに興奮する。子供がオモチャを見るような顔だ。
ロボの怪人の胸部がパカッと開き、中からミサイルが発射される。至近距離から放たれたミサイルは、キモクサマンに炸裂し、大爆発を起こす。爆音が轟き、大地を揺らす。
衝撃が、市街地側にいるヒーロー達まで伝わる。
「今のは、流石にヤバいんじゃねぇのか?」
駄段がウインドキッドに叫ぶ。巻き散った埃と塵がここまで飛んで来る。ヒーロー達は手でそれらの破片を防ぎながら、橋の上を確認する。
橋の上は粉塵に巻かれて、中の様子がよく見えない。ヒーロー達は全員心配そうに橋の方をうかがっている。
しばらく時が立ち、橋の上の視界が良好になって来る。そして、キモクサマンの姿が現れる。
ロボの怪人は驚愕している。至近距離でミサイルを食らったにも関わらず、キモクサマンは無傷だ。しかも、半笑いだ。このアホな表情が、ロボの怪人に更なる恐怖を与える。
「嘘だろ? そんな、こんな生物が存在してもいいのか? 怪人は最強のはずじゃなかったのか?」
ロボの怪人は錯乱状態に陥り、手からレーザービームを放ち、キモクサマンに攻撃する。キモクサマンは手を叩き、喜ぶ。キモクサマンにレーザーは当たるが、やはり全く効いていない。
ロボの怪人は突進し、キモクサマンに体当たりしようとするが、その前に粉砕される。また、一つ怪人の死体が増える。
怪人達は再び実感して来た。敵にしてはいけない、死神が目の前にいる事を……。
羊の怪人は、この状況を見て叫ぶ。
「作戦変更だ! キモクサマンを相手にするな! 奴には戦っても勝てない! 奴の脇をすり抜けて、市街地に攻め込むんだ!」
怪人達は、キモクサマンの後方にいるヒーロー達の集団を見て微笑む。後ろのザコになら、決して負けないと……。
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