第28話 善と悪の全面戦争
決戦当日の朝は、雲一つない、まさに晴天の青空であった。
ヒーロー陣営と怪人陣営は、川中橋の架かる海を挟んで、対岸で睨み合っている。出島の倉庫街側の怪人陣営は、ざっと百人くらいの戦力を投じて来ている。
相対するS市、市街地側のヒーロー陣営は三十人ほどである。
「こんなに戦力差があるんスか。マジッスか。」
アフロヘアーとサングラスが特徴的な、イナズマダンディーがボソッと言葉を漏らす。
「心配するな。イナズマダンディー。ワシには秘策があるからな」
ヒーロー陣営の中心にいる、象の着ぐるみがヒーロー達に告げる。ヒーロー連中は、何だこいつはと言う様な目で見る。
「みんな! あれは駄段さんだ。訳アリで着ぐるみでの参戦だ」
象の着ぐるみを補佐する様に、風車の紋章のあるキャップを被った、ウインドキッドがヒーロー達に叫ぶ。
「デカい声で、駄段って言うなつっただろ!」
象の着ぐるみの駄段は、ウインドキッドに軽くパンチをする。ウインドキッドは申し訳なさそうに、象の着ぐるみに頭を下げる。
「皆に確認だ。この戦いの勝利条件は、怪人達にこの橋を渡らせない様に死守し、市街地に入れない事だ。勝ちに行くぞ!」
象の着ぐるみの駄段が、皆を鼓舞する。ヒーロー達はおーっと反応する。
「あ、スンマセン。お話の所、申し訳ないんですけど、携帯電話が繋がらないですけど、何故ですかね?」
額に星の紋章を付けた、若きヒーロー、スタアボーイが手に携帯電話を持ち、ウインドキッドに訴える。
「え、そんな、まさか」
ウインドキッドも携帯電話を取り出し、確認する。確かに圏外になっている。この場所は市街地だし、おかしいなと、ウインドキッドは感じる。
「あいつら、やりやがったな?」
象の着ぐるみの駄段が腕組みをし、怪人側を睨む。
* * * *
「ブラックハート様、人間達はさぞ肝を冷やすでしょうな? 携帯機器が繋がらない状態で、怪人達が街に攻めて来て、自分達が襲われ始めたら、ヒヒヒ」
狼の顔をした怪人が、怪人の総帥、ブラックハートに笑いながら話し掛ける。
「フッ、そうだな。怪人側がこんな情報遮断をして来るとは、あいつらは夢にも思わぬだろうな」
ブラックハートは、対岸のヒーロー側を見て、あざ笑っている。
「でも、ヒーロー達がS市の奴等を避難させたりしないんですか? 俺達が攻めて行って、誰もいなかったから、面白くないじゃないですか?」
狼の怪人は首をかしげ、ブラックハートに質問する。
「根回しはしてある。俺達怪人とS市の女市長とは、実は繋がっている。だから、警察もマスコミも動かない。英雄仮面同盟の奴等の言う事など、誰も信用しないから、市民が避難する事はない」
ブラックハートは、誇らしげに話す。
「ホント、英雄仮面同盟の奴等はバカで可哀想ですね」
狼の怪人は大笑いをしている。
「あれ? 何ですかね? 誰か川中橋を歩いて来ている奴がいるんですけど……」
羊の怪人が、市街地と倉庫街に架かっている川中橋の中心を指指す。
ヒーロー側と怪人側で封鎖されているはずの、誰もいないはずの橋の上を歩いている者が一人いる。
ヒーローでも、怪人でもない。人間だ。
その人物は、まぎれもない、阿多であった……。
阿多はマイクとスピーカーを引っ提げ、川中橋の中央へと一人で歩いて行く。
「あの人、何してるんスか? 一人であんな所にいたら、危ないッスよ。誰か止めに行かないと……」
イナズマダンディーは、橋の中央へと歩いて行く阿多を発見し、ウインドキッドに必死に報告する。
「阿多さんが、私達は邪魔だと言っている。大人しくここで待機していろ」
ウインドキッドは、阿多の様子をじっと見ながら、イナズマダンディーに告げる。
「でも、あの人ヤバいッスよ。せっかく助かった命なのに……」
「いいから、下がってろって言ってんだろ!」
ウインドキッドは声を荒げる。イナズマダンディーはマジかよと呟き、黙って阿多の方を見る。
そんな中、アイスギャルが一同に合流する。傍らには女性を一人連れている。
「この子がどうしても、ここへ来たいって言うから連れて来たの。私が責任を持つわ。ここに居させてあげて」
アイスギャルは、連れの女性をウインドキッドの前まで連れて行く。連れの女性とは、愛花であった。
「阿多くんは何処なんですか? 彼、詳しい事は言ってくれなかったけど、ヒーローでここへ来てるんでしょ? 会わせて下さい」
愛花はウインドキッドに詰め寄る。ウインドキッドはうつむき、視線を再び橋の中央へと戻す。
「阿多さんはあそこです。でも今は、会えません。ここは戦場となる。早く避難を」
「嫌です。彼と一緒じゃなければ離れません!」
愛花は断固として、意思を変えるつもりはないと、ウインドキッドに訴える。
「話は分かった。ここに居ても構わぬよ。ワシがこの件、責任を取ろう。ワシが英雄仮面同盟のボス、駄段だ」
象の着ぐるみが、愛花の前に出る。愛花とアイスギャルは少し引いている。着ぐるみは、二人の女性の反応を気にせず、話を続ける。
「阿多くんは作戦上、重要な役割を担っている。彼に、S市の、いや世界の命運が掛かっておる」
「え、何で彼が……」
愛花がそう言い掛けた時、橋の中央へ到達した阿多がマイクとスピーカーのスイッチを入れ、話を始める。
「あー、あー、マイクのテスト中。怪人さん、聞こえますか?」
阿多がマイクを手にし、スピーカーから大きな音声が流れる。
「ブラックハート様。あいつは、昨日の奴じゃ?」
狼の怪人が、橋の中央を指差し、ブラックハートの方を向く。ブラックハートはただ黙って、倉庫街側の岸から橋の中央を見ている。
「ブラックハートさん。約束通り、駄段さんを連れて来ました。あの象の着ぐるみがそうです」
阿多は、象の着ぐるみの方を見る。着ぐるみはバラすなよと言う風な感じで、激しく動いている。
そこで、阿多は愛花の存在に気付く。え、何でと阿多は思ったが、気持ちを切り替え、話を続ける。
「怪人さん達に、告ぎます。S市に攻め込むのを止めて頂けますか? 止めて頂ければ、命を助けます」
「待て! その着ぐるみが、本物の駄段かどうか確認させろ!」
ブラックハートは、阿多の方を見て叫ぶ。
「駄段さん、お願いします」
阿多は象の着ぐるみの方を向き、頭を下げる。象の着ぐるみは、やれやれと言うポーズを取り、着ぐるみを脱ぎ始める。
そこから、白衣を着た駄段が現れる。
「ワシが英雄仮面同盟のボスにして、ヒーローを生み出した科学者、駄段だ!」
彼はヤケクソになっていた……。
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