第27話 バレたら困る二人

 阿多は倉庫街を背に、川中橋を歩いていた。もう夜が明けようとしている。長い一日だった。生きて帰れたのはホント良かったが、どっと疲れが出ている。どこかで休みたいなと、阿多は思った。


 阿多は携帯電話を取り、電話を掛ける。掛けた相手は駄段だ。呼び出し音がしばらく鳴り、電話が繋がる。


「もしもし、駄段さん?」


「もしもし、阿多くんか? 無事だったのか? 山田くんから話を聞いて心配しとったんじゃが、生きていて本当に良かった」


「ブラックハートに会って、話をしました。彼は明日のS市襲撃の際に、駄段さんに来て貰いたいそうです。どうしますか?」


「そうか……。。奴に会ったのだな? だから、逆に生きて帰れた訳だ。なるほど。良かろう。明日、川中橋へ行き、奴と対決をしよう!」


「駄段さん、僕も戦います。だから、もう一度キモクサマンのブレストを僕に貸して下さい!」


「分かっているのか? ワシと君、いやキモクサマンにはS市退去命令が出ている。それを、違反すればワシ等は犯罪者扱いとなり、市から拘束される事になるのだぞ、いいのか?」


「構いません! 奴をこのまま野放しにすれば、世界中の人達が大勢死にます。ブラックハートを止められるのはキモクサマンだけです。お願いです、駄段さん」


「拘束されれば、マスコミから君がキモクサマンだと言うのが公表されるぞ。そうしたら、今の生活には戻る事は出来ない。それでもいいのか?」


「はい、覚悟をしています。僕が、キモクサマンがブラックハートを必ず倒します。」


「すまない、阿多くん。ワシにも分かっていたのだ。キモクサマンじゃないと、ブラックハートには勝てぬと。いや、キモクサマンでも、奴を倒す事は不可能かもしれんが。阿多くん。明日の決戦、また君頼りになる我々を許して欲しい。精一杯、ワシ等もサポートするからよろしく頼む」


「分かりました。駄段さん。みんなの為に、必ず勝ちます」


 阿多は、そう言って駄段との電話を終わらせる。そして、心配しているであろう、山田に電話を掛ける。


  山田も、阿多の無事の帰還に大いに喜んでいた。阿多はこの後合流し、作戦を立てようと言う話をし、電話を切る。


 そして、阿多は愛花に電話をする。


「もしもし、愛花さん?」


「え、阿多くん? 良かった。無事だったのね?」


「無事に帰って来れたよ。運だけはいいみたい。それより、愛花さん。明日、S市はヒーローと怪人の戦場になるから、今から遠くへ避難して欲しい」


「え、阿多くんは? もちろん、阿多くんも私と一緒に避難するんでしょ?」


「僕はいけない。やる事があるんだ」


「まさか、阿多くん。明日、戦うつもりなの? やっぱり、阿多くんはヒーローなの?」


「うん、隠していてゴメン。僕じゃないと明日の戦い、ダメみたいなんだ。だから、愛花さんと一緒に逃げれない。ゴメンね」


「そんなの嫌よ。一緒に、逃げようよ!」


「ゴメン、それは出来ない。愛花さん、必ず生きて帰って来るから待っててよ」


「嫌よ、阿多くん!ちょっ……」


 阿多は、愛花との電話を話の途中で切る。阿多は朝日を見つめ、士気を高めていた。




  阿多は、山田と川中橋の近くのホテルのロビーで待ち合わせをした。阿多が昨晩一睡も出来ていないので、阿多は山田に言ってホテルの一室を取ってもらった。


  そのホテルの一室で、阿多と山田は明日の決戦についての話し合いをする。


「山田くん、明日なんだけど、僕一人で川中橋の上で怪人達と戦おうと思うんだ」


  阿多はベッドに腰を掛け、椅子に座っている山田に向かって提案をする。


「え、そんな無茶ですよ。相手の怪人は幹部達も含め、百人くらいですよ。無謀です」


「でも、僕がキモクサマンになると、敵も味方も区別がつかなくなるよ。必ず味方をぶっ飛ばすと思うんだ。それでもいいなら、みんなで共闘してもいいけど……」


「……分かりました。阿多さん。キモクサマン一人で橋の上で、怪人達を待ち構えて下さい。私達、他のヒーローは対岸で、キモクサマンが討ち漏らした敵を討つ作戦でいきましょう!」


  山田は、あっさり阿多の意見を受け入れる。キモクサマンを知っているだけに、本当にキモクサマンに殺されかねないと想像したからだ。


「駄段さんと、他のヒーロー達は?」


「間もなくここへ集まって来ると思いますが……」


「ゴメン、僕はちょっと寝てないから休ませてもらうよ」


  阿多はベッドに横になる。


「分かりました、阿多さん。また阿多さんに頼ってしまって申し訳ないです」


「いいよ。おやすみ、山田くん」


  と言うと直ぐ様、阿多は寝息を立て眠りにつく。山田はそれを見て、静かに部屋を出て行く。


  山田は考える。明日の決戦、いや世界の命運はキモクサマンに掛かっていると。自分は精一杯、キモクサマンが戦える様に、サポート役に徹しようと。


  阿多は真夜中、ホテルの部屋で目が覚める。良く眠れて疲れは取れたが、今度は腹が減っている。何か食べようと阿多はロビーの方へ降りて行く。


  ロビーにはこの場に似つかわしくない、象の着ぐるみを着て座っている者がいる。阿多は驚き、飛び退く様に後ずさりをする。


  阿多は考える。このホテルのロビーで真夜中に、象の着ぐるみを着る様な変な人間は一人しかいない。


「駄段さんですか?」


 ソファーに座っている象の着ぐるみに、阿多は話し掛けた。


「そうだ。良く分かったな。退去命令があるゆえ、こんな姿で申し訳ない」


 象の着ぐるみを着た駄段は、阿多にお辞儀を何度もする。


  もう少しマシな格好はなかったのかよと、阿多は思ったが、これが駄段さんだと思ったので、直ぐに納得をした。


「阿多くん、例の物を渡そう」


 象の着ぐるみは首の繋ぎ目から、キモクサマンのブレストを取り出す。そして、それを阿多の目を見ながら渡す。


「駄段さん、任せて下さい! 僕が必ず、みんなを守ります!」


 阿多は元気よく答え、象の着ぐるみからブレストを受け取り、それを左手首に装着する。


「あんまり大きな声で、名前を言うなよ! バレたら困るだろうが。でも、頼むぞ! キモクサマン! 君に世界の命運は託された」


  象の着ぐるみの駄段は大きな声で答え、阿多の肩を叩く。


「駄段さんも、大きな声でキモクサマンって言わないで下さいよ。バレたら困ります」


  阿多は焦って、象の着ぐるみの口を抑える。


  こうして、運命の朝を迎える……。

















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