第24話 禁断の力
阿多は思った。この竜の怪人、恐らく怪人幹部だと。アイスギャルがこの怪人に勝てるのか、阿多は気にせずにはいられなかった。
アイスギャルは両手を前に出し、吹雪の様な氷の礫つぶてを竜の怪人に放つ。しかし、竜の怪人は口から炎を吐き、吹雪を掻き消す。
炎がアイスギャルを襲う。アイスギャルは氷の盾を出し、それを防ごうとする。が、炎の勢いに押され、またもや壁に激突する。
それを見たウインドキッドとイナズマダンディーが、竜の怪人に攻撃を仕掛ける。が、やはり予想通り通用しない。彼等もアイスギャルと同様に、口から吐かれた炎にやられ、吹っ飛ばされる。
阿多は感じる。やはり、怪人幹部達を倒すにはキモクサマンの力が必要だと。
アイスギャルは全身に軽い火傷を負いながら、ゆっくりと立ち上がる。初めての怪人幹部との対戦に戸惑う。予想よりも遥かに強い。アイスギャルは少し焦り出していた。
「氷子さん、ダメだ! アイツには勝てない! ここは引くんだ!」
阿多は、氷子ことアイスギャルに向かって叫ぶ。アイスギャルは目を見開き、阿多を睨む。
「ふざけないで! 私が勝てないですって! あんたブチ殺すわよ! 今から反撃するんだから!」
「あんたこそ、ふざけんな! ここであんたが無茶をしたら、みんな死ぬんだぞ! それでも、ヒーローか! よく考えろ!」
阿多は、アイスギャルを睨み返す。アイスギャルは阿多の威圧感に押され、たじろぐ。
「……分かったわ。私が時間を稼ぐから、みんな逃げて」
「ダメだ。あんただけ置いて行けない」
「大丈夫。私も後でちゃんと行くから」
アイスギャルは、阿多に目で合図する。ウインドキッドはそれを見て、阿多に彼女に任せようと促す。そして、阿多達はバスの方角へと走り出す。
「ほぅ、俺を一人で止めるつもりか? 俺もナメられたものだな」
竜の怪人は腕組みをし、アイスギャルを見下している。アイスギャルは、キッと竜の怪人を睨むと、両手を前に出す。
「お前程度の氷の技など効かぬわ! 怪人幹部は防御力が半端ではないのだ。傷ひとつ付ける事は叶わぬぞ」
「あら? どうかしら? 本当に効かないのかしらね」
アイスギャルは、周りの大気を一気に冷やす。大気は急激に冷やされた為、霧が発生する。かなりの濃い霧だ。すぐ目の前も真っ白で、何も見えない。
「な、何?」
竜の怪人は、突然周りが霧で視界不良となり、辺りを見回す。竜の怪人は何も見えない状況で焦り出し、口から炎を吐く。
「ぐああああああ」
何人かの断末魔の叫び声が聞こえる。人が燃えて倒れる音がする。竜の怪人は手応えを感じる。
次第に霧が晴れて来る。竜の怪人は仕留めた相手を確認する。数は三人。いずれも丸焼きになっている。その死体は三体とも、三流怪人達の変わり果てた姿だった。
「あの女、やってくれるわ。お前達、アイツらを追うぞ! よくも俺をコケにしてくれたな。許さぬ」
竜の怪人は、後ろにいるザコ怪人達に叫ぶ。ザコ怪人達は慌てて、ヒーロー達を探す為に走り出す。
竜の怪人は、怒りで壁を何度も殴っていた。
阿多達一行は、バスの見える所まで帰って来ていた。アイスギャルもしばらくして、無事合流して来た。阿多はもう少しでここから脱出できる、そう思った、その瞬間。
「いやあああああ」
隣の愛花の叫ぶ声が聞こえる。阿多はすぐさま、そちらの方へと顔を向ける。
愛花は牛の顔をした怪人に腕を捕まれ、何とか振り払って逃げようとしていた。怪人の腕が、愛花の首に巻き付く。愛花は観念し、苦しそうな顔で阿多の方を見る。
「待てよ。ヒーローども。こいつがどうなってもいいのか?」
牛の怪人は、バスの前にいるヒーロー達に向かって叫ぶ。ヒーロー達はカフェにいた四人の人間達をバスに乗せ、バスの前でこちらの動向を伺っている。
バスに残っていた星も変身し、バスの外に出ている。額に星型の紋章があり、プロテクターを纏うスタアボウイと呼ばれるヒーローだ。
愛花を捕らえている牛の怪人は、阿多の目の前にいる。しかし、阿多は為す術なく、見ている事しか出来ない。少し離れた所にいる、他の四人のヒーロー達も、手が出せないで、焦り出している。
「もうじき、他の怪人達も集まって来る。お前達はもう終わりだ。ま、例えここから逃げ切れても、二日後には俺達全員でS市市街地へ乗り込むから、遅かれ早かれお前達は終わるんだけどな」
牛の怪人は、ガハハハハと笑っている。阿多は牛の怪人に向かって、レーザーガンを構える。
「面白い。撃ってみろよ! この女に当たっても知らないぜ。やれよ! やってみろよ」
牛の怪人は、阿多を挑発する。
阿多も分かっていた。自分の銃の腕では、怪人に当てる事が難しいと。もしかしたら、怪人の言う通り、撃てば愛花に当たるかもしれない。阿多は、撃つべきかどうか悩んでいた。
ウインドキッド、イナズマダンディー、アイスギャルもここから攻撃をすれば、愛花に当たる可能性が高いので、仕掛けられない。
時間だけが過ぎて行く。時間が立てば、怪人達に囲まれ、全員助からない。状況はますます不利になる。
阿多は決断をする。手の中のレーザーガンを投げ捨てる。そして走り出し、右の拳を固める。
「こいつ、バカか? 普通の人間が怪人を殴るという事は、鉄の柱を殴りつける様なものだぞ。つまり、拳は碎けて、その手は使い物にならなくなるぞ」
阿多には怪人の言葉は届かない。ただ真っ直ぐ向かって行く。
阿多は念じる。頼む、キモクサマンの力よ。自分に力を貸してくれと。何万分の一の力、いや何億分の一の力でもいい、僕に力を与えて欲しいと。
阿多は声を上げ、牛の怪人を殴りに行く動作に入る。牛の怪人は面白いという様な感じで、あえて殴られに行く様に顔を差し出す。
阿多は思いっ切り、牛の怪人の顔面をぶん殴る。ドンという鈍い音が辺りに響く。牛の怪人は意識を失い、捕まえていた愛花を手放して、地面に倒れる。
「愛花さん、早くバスに乗るんだ!」
阿多は愛花に告げる。愛花は、はいと返事し、ヒーロー達のいるバスの方へと向かって走り出す。
禁断のキモクサマンの力をブレスト無しで、阿多は呼び覚ましてしまった……。
その事により、彼の身体には異変が起こっていた……。
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