第22話 イナズマを操るヒーロー

「愛花さん、無事ですか? 大丈夫ですか? 良かったぁ」


大好きな愛花が生きていて、目の前に現れたので、阿多はつい嬉しくて叫んでしまう。


「阿多くん、声が大きい。大丈夫よ。それで何で、阿多くんも来たのよ。危険だから、来ないでって言ったのに……」


「ゴメン、つい心配になって……」


「もう! でも、嬉しかった。助けに来てくれて、ありがと……」


阿多が照れて頭をかいていると、店の奥の方から何人か残された人達が出て来た。


「ここに、全員で何人居ますか?」


山田は冷静さを取り戻し、リーダーシップを執る。


「そこの彼女を含めて、五人です」


このカフェのオーナーらしき、髭を生やした人が愛花を指指し、答える。


「他の人達は?」


「先に逃げました。逃げ切れたか、怪人達に捕まったかは分からないのですが……」


「そうですか……」


山田は少し考える。捜索範囲を広げるべきか、ここにいる人達だけで脱出するべきか。


外の方からザワザワと、話し声が聞こえ出す。カフェの窓から、光が急に漏れ出す。カフェの外の道はライトで照らされ、明るくなっている。


怪人達が集会を終え、帰って来た。山田はそう直感する。怪人達により、辺り一帯を明々と点灯された為、もう暗闇に紛れて、隠れて行動は出来ない。山田は決断する。


「このメンバーでバスまで行き、ここを脱出します。皆さんは、私達が守ります」


山田は、救出対象者の五人を確認する。


阿多の友達の愛花と、その会社の同僚の眼鏡の女の子。髭を生やしたカフェのオーナーと、そのカフェで働いている茶髪の女の子。背広を着たガリガリの男の五人だ。


カフェのオーナーが裏口からなら怪人達に見つかりにくいと、山田に提案する。山田は直ぐ様、裏口のドアを開け、外の様子を伺う。


「先頭を雷川、その後を阿多さんで。一番後ろを私が守ります。皆さん、バスまで移動しますよ」


一行は、ライトで明るくなったカフェの外の道を、警戒しながら早足で歩いて行く。


山田の指示通り、雷川と阿多が一般人の五人を率いて、その後ろを山田が護衛する形になっている。


合計八人となった一行は建物を背にして、低い姿勢で身を隠しながら、辺りを見回し移動する。まるで、夜中に集団で脱獄しようとしている一行の様だ。


明るくなった周りを、阿多は恨めしく思う。眩しくこちらを照らしているライトを、阿多は睨む。


すると突然、建物と建物の間の路地から怪人が二人現れる。蜘蛛の顔をした怪人と、蛙の顔をした怪人だ。


お互い、予想だにしていない状況に驚く。この場にいた人間、怪人、双方が一瞬固まる。この時、一行の先頭にいた雷川は誰よりも早く、この状況に反応する。


腕を交差し、変身と言う言葉を叫ぶ。彼の身体が光に包まれる。眩しいと、この場にいた誰もがその光により目を瞑る。


そして光が消え、そこに一人のヒーローが現れる。額には稲妻の紋章が施され、髪型はアフロヘアー。目元はサングラス、身体はプロテクターで覆われている。


彼の名は"イナズマダンディー"。英雄仮面同盟の稲妻を操るヒーローが、ここに参上した。


イナズマダンディーは、蜘蛛の怪人と蛙の怪人の前に立ちはだかる。彼の人を守ろうとする、正義のヒーローとしての意志を、阿多は感じ取る。


「イナズマビーム!」


イナズマダンディーは両手を伸ばし、両手からビーム状のイナズマを放つ。バリバリバリと空気を裂く様な音が響き、蜘蛛の怪人と蛙の怪人を襲う。


二人の怪人は、戦闘態勢に入っていなかった為、ヒーローからの攻撃に対処出来ずに、そのイナズマをまともに食らう。両怪人の胸にイナズマが走り、身体を貫通して行く。怪人達は胸に風穴を開け、黒こげになって絶命する。


「凄いです。雷川さん。めちゃくちゃ強いじゃないですか。カッコ良かったです」


阿多は嬉しくなり、イナズマダンディーに駆け寄る。が、彼にそっぽを向かれる。


阿多は、なぜ無視されたんだと思い返し、褒め方を間違ったと気付く。


「雷川さん、凄くダンディーです。ダンディー過ぎますよ」


「えーっ、そうっスか。マジっスか。自分もそうじゃないかなって感じてるっス。あ、ちなみに自分、今は雷川じゃなくて、イナズマダンディーって言うっス」


イナズマダンディーは、阿多の言葉にご満悦である。阿多は再び、ホントに面倒臭い人だなと感じたが、意外に分かりやすくて良いのかもと思う。まるで、イナズマダンディーの取り扱い説明書を手にした様な、阿多はそんな気分になる。


「阿多さん、今の騒ぎで他の怪人達が気付いた可能性があります。先を急ぎましょう!」


いつの間にか変身して、ウインドキッドになっている山田が、辺りを見回しながら、人々を誘導している。


阿多も、辺りがざわついている気配を感じる。隣にいる愛花が怯えている。自分もしっかりして、彼女を守らなくちゃと、右手の中にあるレーザーガンを、阿多はギュッと握り締める。


阿多達一行は、倉庫街の大通りに出る。ここを通らないと目的地のバスまでは行けない。相変わらずライトが昼間の様に明るく倉庫街を照らし、侵入者達はここにいるぞと、怪人達に示さんばかりに存在している。


「アイツらヒーローじゃねえのか? ここに乗り込んで来るとはいい度胸してんじゃねぇか」


怪人達がそう言いながら、ゾロゾロと大通りに出て来る。数にすると十人はくだらない。怪人達は数でヒーローに勝っている為、ニヤニヤとした余裕の表情でこちらに近付いて来る。


「イナズマダンディー、私達でここを死守するんだ。阿多さんは、皆さんを連れて、早くバスに!」


ウインドキッドは人々の盾になる様な姿勢を取り、皆に指示をする。阿多は、彼の特長的な額の風車の紋章とキャップを見つめながら、お願いしますと無言で一礼をする。


怪人達が奇声を上げ、ウインドキッドとイナズマダンディーに襲い掛かって来る。阿多は、倉庫街に残っていた五人を先行させ、皆の後方を守りながら進む。


「さぁ、イナズマダンディーよ。見せ場だぞ。私達が強いと言う所を見せてやろうではないか」


ウインドキッドは、隣にいるイナズマダンディーを鼓舞する。が、彼に完全に無視をされる。


ウインドキッドは寂しそうな顔をし、褒め方を間違ったと後悔した……。














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