第21話 敵地潜入
「山田さん、間もなく倉庫街のある出島に架かっている、川中橋に差し掛かりますが、このまま突っ込みますか?」
バスの運転手をしている、英雄仮面同盟のスタッフから、山田に指示を求める声が聞こえる。バスは夕暮れを背にしながら、川中橋手前で一時停車する。
「このまま様子を見ながら、突っ込んで。敵が来たらこちらで対処する」
山田は、運転手の方を向き、そう話し、次に後ろに乗っている、ヒーロー達の方を向く。バスは再び、動き出し、薄暗くなった川中橋を渡って行く。
「私達五人を二つの班に分けます。第一班は人々の救出を、第二班はバスに残り、バスを守る。このバスを破壊されたら、ここから逃げるのは困難になるので、第二班も重要な任務です。阿多さん、班分けをどうしますか?」
「ゴメン、僕では皆さんの特性とか強みとか分からないので、山田くんに編成を任せるよ」
「では、第一班を、私と阿多さん、雷川で、第二班を、氷子さんと星で。それで大丈夫ですか?」
阿多は山田にコクリと頷く。
「また、星を絞め落としても、構わないのですか?」
氷子はまた、山田に怖い事を聞いてくる。
「いいけど、敵が来たら星を起こしてね」
山田はサラッと氷子に返す。阿多は、いいのかよと無言で突っ込む。星は相変わらず、雷川を相手に喋り続けている。
「皆さん、倉庫街、入り口に着きました。怪人はこの辺りにはいない様です。バスをこの物陰に隠しておくので、第一班の方は捜索をお願いします」
バスを、敵に見つかりにくい所に停車させ、運転手は後ろを振り向き、皆に告げる。予定通り、第一班の阿多、山田、雷川は辺りを警戒しながら、バスを降りる。
氷子と星の第二班は、バスの後部座席に座って、待機する。やはり星は起きていると、うるさいので、氷子に絞め落とされて眠っている。
とりあえず、第一班の阿多達は、懐中電灯で地図を確認しながら、愛花達がいると思われるカフェを目指す。
阿多達、三人は身を隠しながら、暗い倉庫街を歩いて行く。不気味な程、静かだ。怪人に全く出くわさないので、逆に何かの罠かもしれないという、嫌な予感が脳裏をよぎる。
しばらく、暗闇の中を歩いていると、人の声らしきものが聞こえる。かなり大勢の声だ。近付いて行くと道にも、灯りがたくさん点いている。目の前の声のする大きな倉庫に、大勢が集まっているとうかがえる。
阿多達は恐る恐る、その声のする倉庫の様子をうかがう。その倉庫の中は、まるで真っ昼間の様に明るく、電灯に照らされていた。
倉庫の中には所狭しと、大勢の怪人達が集まっていた。数にすれば百人はくだらない。山田はそれを見て、呆然とし呟く。
「こんなに、怪人がいるのか……。見つかって、囲まれたら終わりだ……」
阿多と雷川もあまりの怪人の数の多さに、一瞬怖じ気付く。そして、阿多は冷静になり、理解する。
怪人は今、この場所、一ヶ所に集まって来ている。恐らく今から怪人達の集会か、ミーティングが行われるのであろう。
阿多は逆にチャンスだと感じる。愛花達を救出するのは今しかないと……。
阿多は、山田に先を急ごうと、目で合図を送る。愛花達を助けて、早くこの地を離れなければと、阿多は行動を急ぎ出す。
怪人の集まっている倉庫から、阿多達が移動しようとしたその時、ザワザワとした空気がピタリと止み、倉庫内は水を打った様に静まり返る。
阿多達はその異変が気になり、もう一度倉庫内を覗き込む。倉庫内の怪人達は全員、倉庫の二階のオープンになっている所を見上げている。
その方角には全身を黒の鎧で固め、黒のマントをなびかせ、威圧感のある風貌の怪人が、下にいる怪人達を見下ろしている。
阿多は、その黒ずくめの怪人に視線と心を奪われる。今まで、ナンバー2、ナンバー3という強者の怪人と相対してきた阿多だったが、目の前にいる黒ずくめの怪人の格の違いを肌で感じていた。
「阿多さん。私も今まで遭遇した事がなかったんですが、恐らくあの黒ずくめの怪人、ボスのブラックハートだと思われます」
山田が緊張した声で呟く。彼の額からは、冷や汗と思われる物が吹き出し、小刻みに震えている。
アイツが怪人のボス……。倒さなければならない、最大の相手……。
阿多は再度、認識し直す為、黒ずくめの怪人をじっと見据える。
「いよいよ我等、怪人達が世界征服に向け、大々的に世間に力を見せ付ける時が来た! 二日後、S市壊滅計画を決行する! S市の人間どもを、ここにいる百人を越す怪人達で、一斉に全て狩るのだ!」
黒ずくめの怪人、ブラックハートは下の階にいる怪人達を鼓舞する。怪人達はおーっという歓声を上げ、皆、テンションが上がっている。
「何だって、そんな事をされたら、誰も奴等を止める事が出来ない。英雄仮面同盟のヒーローは、新人や素人を含めても、全員で三十名程度しかいないんだぞ。戦力差が違い過ぎる……」
何故こんなにすんなり、敵の巣窟に潜入出来たのか、山田は不思議でならなかった。
この怪人達は、どの組織も軍隊も、自分達に対抗出来る勢力だと思っていないのだ。潜入されても、攻め込まれても問題ないくらいに、自分達の方が強い事を確信している。
山田は呆然を通り越して、絶望のドン底に陥る。
「山田くん、しっかりしろ! 今は、ここにいる人達の救出の事だけ考えんるんだ!」
阿多は、山田の肩をポンと叩き、我に返る様に促す。
「スイマセン、阿多さん。目的を見失う所でした。ありがとうございます」
「さぁ、今の内に取り残された人達を助けに行こう!」
山田は、阿多に救われた、そんな感覚になる。この人はやはり、何かを持っているなと、山田は阿多に対して尊敬の念を再度感じる。
阿多達、三人は足早に目的地のカフェを目指す。道中、怪人達がいるかもしれないので、三人は警戒しながら暗闇の中を進む。そして、一行はカフェに到着し、彼等は必死で捜索を開始する。
阿多は、小声で愛花の名を呼ぶ。すると、カフェの奥の方から、ゴソゴソという物音が聞こえる。誰かが出て来た、阿多はそう感じ、手の中の懐中電灯でその場所を照らす。
「阿多くん? ……阿多くんなの?」
暗闇の中、阿多は聞き覚えのある声を聞く。阿多は、声のする方向に懐中電灯を動かし、目を凝らす。女性らしき人が暗闇から現れる。
その女性は、探していた人、愛花であった。
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