第19話 新たなる戦い

「どう言う事? キモクサマンが悪くないって?」


阿多は、キモクサマンに変身している時の記憶はない。直接、キモクサマンと関わった人達の気持ちを聞くのは、阿多にとって初めての経験だった。


「キモクサマンだけが、僕達を助けてくれたんだ。他の人達は、誰も助けてくれなかったんだ。キモクサマンは、ちょっとオナラが出ただけなんだよ」


タケルは真剣に、阿多の目を見て話す。阿多はタケルくんは、キモクサマンの事を分かってくれていると嬉しく思う。


「そうなんです。赤鬼の怪人を倒したのは、キモクサマンなんです。イケメンインテリズが倒したと世間の皆さんは言ってますが、事実ではありません。キモクサマンがいなければ、私達は赤鬼の怪人に殺されていました」


タケルの母親が、それに付け加える。


「僕は信じますよ。タケルくんとお母さんの事を。キモクサマンは赤鬼の怪人を倒して、二人を助けたって」


阿多は、自分はやはり間違っていなかったんだと確信する。


キモクサマンは完璧なヒーローではないのだ。二人の命を守るという、最優先事項を達成した結果、アクシデントで二人を病院送りにしてしまったという事なのだ。


阿多は元気を取り戻した。


「それでは、そろそろ帰ります。二人の元気な顔が見られて、ホント良かったです。また退院したら、スーパーに買い物に来て下さいね」


阿多は、タケルと彼の母親に挨拶にして、二人の病室を後にする。足取りが軽い。気分がすごくいい。そんな気分良く、阿多が帰っている時であった。


阿多が、病院の出入口に差し掛かった時、ピーポーと音を鳴らしながら、救急車が一台、出入口の所へ入って来る。


看護士達が何人か、救急車に急いで駆け寄っている。救急車の中から、ストレッチャーと呼ばれる車輪付きの担架に乗った怪我人が出て来る。


怪我人は、腕から大量の出血をしている。阿多は、事故か何かに巻き込まれた人が、怪我をして救急車で運び込まれたのであろうと、ボーッと見ていた。


「大丈夫ですか?」


慌ただしく、看護士がストレッチャーを運びながら、怪我人に状態の確認をしている。


「怪人に、怪人にやられた。倉庫街が怪人達の巣窟になっている。まだ、他に人がいるんだ! 誰か、助けに行ってくれ!」


怪我人は必死で看護士の腕を掴み、訴え掛けている。そして、ストレッチャーは病院の奥へと運ばれて行く。


「え……」


阿多は、その一部始終を見ていた。頭の中で引っ掛かるキーワードを整理する。


今、倉庫街が怪人の巣窟って言ってたよな……。他に人がまだ残っている……。誰か、倉庫街に行くって言ってなかったっけ?


阿多は必死で思い出そうとする。


そうだ、愛花だ。愛花が友達とランチをしに、倉庫街へ行くと言っていた。


愛花が大変な状況に巻き込まれたのではと、阿多は不安になる。阿多は、自分の左手首を確認する。自分にはもう、キモクサマンに変身出来るブレストがないのだ。


誰かの力を借りなければ……。


駄段さんはS市退去命令が下され、近くにはいない。


自分が頼れるのは、英雄仮面同盟の山田しかいない。


でも、あの怪我人が怪人の巣窟と言っていた。恐らく、怪人が大勢いると考えられる。


ウインドキッドという、風を操るヒーローに変身出来る山田とは言え、一人では無理だ。多勢に無勢、殺されてしまうのが落ちだ。


ヒーローチーム……。阿多は、救出作戦の構想を練っていた。


阿多は、愛花の状況が心配になり、愛花に電話を掛ける。呼び出し音が、しばらく続く。阿多は繋がらない事で、焦り出す。そして、ようやく電話が繋がる。


「もしもし、阿多くん?」


「もしもし、愛花さん。今、大丈夫なの?」


愛花の電話の声が小さい。誰かに会話を聞かれたくない、そんな意図が感じられる話し方だ。


「今、倉庫街のカフェにいるんだけど、外に怪人が大勢いるの。隠れているけど、いつ見つかるか分からないのよ。お願い。イケメンインテリズに頼んで、助けに来て」


「イケメンインテリズはダメだよ。彼等は見せかけのヒーローだから、助けにならない。英雄仮面同盟のヒーローと、一緒に助けに行くよ」


「それこそ、ダメよ。キモクサマンを擁護している団体でしょ。最低の人間ばかりよ」


阿多は、その言葉にショックを受けたが、今は落ち込んでいる場合じゃないので、気持ちを切り替える。


「頼もしい人達に頼んで、必ず愛花さんを助けに行くから」


「阿多くんは危ないから、絶対来ちゃダメだよ」


「う、ううん……」


阿多は微妙な返事をする。そして、愛花との電話を切る。


覚悟とやる事は、すでに決まっている。こんな危険な事を他人に頼んで、後は知らないという顔は出来ない。阿多は自ら、救出作戦チームに加わろうと考えていた。


そして、阿多は直ぐ様、今度は山田に電話を掛ける。


「もしもし、山田くん! 緊急事態だ! 怪人の巣窟が分かったんだ!」


「え、阿多さん。それ、本当ですか? いったい何処なんですか?」


「海岸の方にある、出島になっている倉庫街あるだろ? あそこみたいなんだ。そこに取り残されている人達がいるんだ。僕の大切な友人も、その中にいる。どうしても、助けに行きたいんだ。もし、良かったら山田くん、協力して欲しい」


阿多は電話越しに頭を下げる。場所が場所だけに、命懸けの救出となる。下手をすれば、死ぬかもしれない。断られても仕方がないと、阿多は山田の返事を緊張しながら待つ。


「私が阿多さんのその頼みを、断れる訳ないじゃないですか。今から準備して、直ぐに向かいます」


「ありがとう、山田くん。ホントにありがとう!」


阿多は嬉しくて、拳を握り締める。


「でも、山田くん。僕らだけじゃダメだ。仲間が必要だ」


「分かっています。直ぐに精鋭部隊を集めます。英雄仮面同盟最強のヒーロー達を」


「え、その人達はキモクサマンよりも強いの?」


「いや、さすがにそこまでは……。でも、恐らく私のウインドキッドよりも強いです。クセが強いですけどね……」


ん、クセが強い?


阿多は、少し引っ掛かる言葉があったが、頼もしい仲間が一緒に愛花の救出に来てくれる事を、嬉しく思い、感謝する。


「ありがとう、山田くん。ホントに頼りになるよ」


「準備が出来次第、お迎えに上がります。なるべく早く向かいます」


阿多は、山田との電話を切ると、震えが止まらなくなっていた。


何故なら、阿多にとって、初めてのキモクサマンのブレスト無しでの、怪人との戦いになるからであった……。


















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