第17話 カワイイ女性にしか抱き付きません
そのニュースは、たちまちS市全域に広まった。
"キモクサマン、五歳の少年を病院送りに!"
"キモクサマン、今度は母子を毒ガス攻撃か?"
キモクサマンの話題は、S市の新聞、ニュース、SNSのトップを飾った。キモクサマンの評判はいよいよ最悪な物となり、世間では退去命令を勧告せよという動きが加速していった。
それを阻止するべく、英雄仮面同盟の代表、駄段とその補佐、山田が市長のいる市役所に弁明に訪れようとしていた。
「駄段さん、今日の市長との話し合い、英雄仮面同盟とキモクサマンの今後の事に、非常に重要となってきます。ミスは許されません」
市役所へ向かう道中の車の中で、山田は厳しい顔をしながら、駄段に告げる。
「分かっておる。交渉はワシの得意分野じゃ。任せておけ!」
駄段は自信満々な顔で、山田に答える。
山田は思った。駄段さんが自信満々の時ほど、状況がヤバくなる時はないと……。
「いえ、ここは私に任せておいて下さい。駄段さんの力を、借りるまでもありませんよ。あの手の市長みたいなタイプは褒めてやれば、コロッといくので、私が話を上手くまとめてみせます」
どうにか、駄段に話をさせない様に持っていこうと山田は決心していた。この人に以前、交渉をさせて、酷い目にあった事を思い出していた。
「まぁ、いざと言う時には、ワシが助けてやるから心配するな」
駄段は満面の笑みで、山田に答える。山田はその一言で、余計に不安になっていた。
市役所に車が到着し、駄段と山田は市役所の職員に市長室へ通される。市長は後から来ますと職員に告げられ、山田は只ならぬ緊張感で、女性市長を出迎える。
「私が市長の座間巣ザマス。あなた達があの噂の英雄仮面同盟ザマスか?」
「はい、そうです。私は、山田と申します。この度は、聡明で崇高な市長にお会い出来て、大変嬉しく思っています。ご報告が遅くなり、申し訳ありませんでした。」
山田は市長に、お世辞交じりの丁寧な挨拶をする。こいつ心にも無いこと言いやがってと、駄段は横目で山田を見る。逆に市長は、満更でもない顔をしている。
「今回の件ザマスが、キモクサマンが母子を毒ガスにより、入院させたのは事実ザマスね?」
「はい、事実です。本当に申し訳ありませんでした。でも、彼は怪人に襲われている母子の命を救いました。今回の母子の件は、不可抗力だったと考えます。どうか、市長の寛大な処置をお願いします」
山田は必死に頭を下げる。え、ワシも頭を下げないといけないのっ、とばかりに遅れて、駄段は山田につられ、頭を下げる。
「ちょっと待つザマス。怪人を倒したのは、イケメンインテリズと聞いているザマス。その後に、キモクサマンが乱入して、母子を攻撃したと報告を受けているザマス。嘘は止めて欲しいザマス」
女性市長は険しい顔で言い返して来る。
「私もあの現場に行きましたが、それは事実ではないと思います。怪人の身体をあそこまで粉砕出来るのは、私の知る限りでは、キモクサマンくらいです。イケメンインテリズが倒したというのは、信じがたいです」
「私が嘘をついているというザマスか?」
座間巣市長はジロリと、山田の方を見る。
山田は感じた。ここは敵地なのだと……。
山田は、事実が捏造されている事に、怒りで身体が震える。キモクサマンが、赤鬼の怪人を倒した事に、間違いはないはずなのに、何故なんだ。
そんなにこの市長は、我々、英雄仮面同盟とキモクサマンを悪者にして、イケメンインテリズを推したいのか?
しかし、ここで市長の話を否定しても、こちらの心証が悪くなるばかりだ。山田は怒りをグッと堪えて、作り笑いをし、座間巣市長に答える。
「そうですね。こちらの情報の間違いかもしれません。イケメンインテリズが、赤鬼の怪人を倒したのかもしれないですね」
「そうザマス。イケメンインテリズが、嘘をつくはずないザマス」
座間巣市長は、ブスッとした表情をしている。性格の悪そうな顔が余計に際立って、意地悪そうに見える。座間巣市長は太った身体をゆっくり起こし、再びソファーに座り直す。
「と言う事で、キモクサマンに対して、S市退去命令を勧告しようと思うザマス。私も女性なので、キモクサマンが嫌で、怖いザマスから。意義はないザマスね?」
女性市長は山田と駄段を交互に見ながら、圧力をかけてくる。山田は状況がかなり劣勢なので、何とか打開しようと必死で思考する。
「市長のお気持ち、分かります。容姿端麗な市長ですから、余計にそう感じると思います」
山田は、お世辞作戦しかないと必死で取り繕う。
駄段が驚いた顔で、山田の方を見る。この女に容姿端麗ってマジか、という視線で合図して来る。
言わなきゃ仕方ないでしょと、山田は視線で駄段に送り返す。二人はまるで、一流のサッカー選手並みのアイコンタクトで意思の疎通を図る。
「そうなんザマス。わたくし、男性から好色の目で見られてしまうので、困ってしまうザマス。ホホホホ」
座間巣市長は、明らかに上機嫌になる。
こいつ、ナンシストかよと、駄段と山田はげんなりとした表情を浮かべる。
「駄段さんは、先程からあまりお話されていませんが、どうお考えザマスですか?」
座間巣市長が、急に駄段に話を振る。
その人に話をさせると大変な事になると、山田は凄く焦り出す。
「キモクサマンに関して言えば、市長は大丈夫だと思います」
駄段は、科学者っぽく知的に答える。
「あら? なぜかしらザマス?」
「キモクサマンは綺麗な女性、又は可愛い女性じゃないと抱き付かないからです。市長はその点、問題ないので抱き付かれないのです」
「それはつまり、わたくしがブサイクだと言いたいザマスか?」
市長は、ピクピクと顔が痙攣している。
「人間、見た目だけじゃないですよ、市長。元気出して下さい、ハハハ」
駄段は、笑顔で爽やかに答える。
やってしまったと、山田は慌てて市長の顔を見る。市長は、鬼の形相になっている。
「てめえ、コラ! ぶっ飛ばすぞ、ザマス」
座間巣市長は立ち上がり、駄段の胸ぐらを掴む。
「こっちも我慢の限界だ! 上等だ! 表出ろや!」
駄段も座間巣市長の胸ぐらを掴み、取っ組み合いになる。
何事かと慌てて、市長室に入って来た市役所の職員達に、座間巣市長と駄段は羽交い締めにされる。山田は頭を抱えて、うつむいている。
「てめえ、絶対、S市に住めなくしてやるからな! ザマス!」
市長にそう挑発されると、駄段は職員に取り押さえられながら、啖呵を切る。
「市長ごときが、そんな事出来る訳ねえだろが! やれるもんなら、やってみやがれ!」
三日後、世論の力を借り、駄段とキモクサマンのS市退去命令が市から下される……。
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