第15話 命令を守るか? 少年の命か?

「俺は暴れたくて、イライラしてるんだ! 貴様等、このガキを助けたかったら、かかって来いよ、コラ!」


赤鬼の怪人オニサンレッドは再び、イケメンインテリズの二人のヒーローを挑発する。


「ハッキリ言いましょう! 怪人と戦うなんて、バカのする事です」


メガネをかけている方のヒーロー、ゴッツインテリがメガネのズレを直しながら、怪人に答える。


何言ってんだ、こいつと、阿多は心の中で呟き、舞台袖からゴッツインテリをじっと見る。


「何だと? お前達、ヒーローじゃないのか? 怪人と戦うのが仕事じゃないのか?」


オニサンレッドは意外な返答が来た為、ちょっと戸惑う。


「私達の仕事は、テレビに出て、CMをスポンサーから貰ったり、SNSをバズらせるのが仕事です。怪人と戦っても、お金は稼げません。だから、戦いません。私達はヒーローと言う、ビジネスをやっているのです」


ゴッツインテリは淡々と怪人に答える。


「じゃあ、俺との戦いは?」


「もちろん、ありません。無駄ですから」


と言って、ゴッツインテリは隣のメッサイケメンと二人して、ゆっくりと舞台から降りて行く。


「待ってよ! メッサイケメン! ゴッツインテリ! 僕を助けてよ!」


五歳の男の子、タケルは、必死で叫ぶ。襟首を怪人に捕まれているので、タケルは逃げられない。


メッサイケメンは舞台の階段を降りながら、振り返り、男の子に言い放つ。


「バカなのか? このガキ! 今、無駄だって言ってんだろうが! そもそもな、俺達は弱いんだ。怪人と戦っても勝てねぇんだわ。だから、他の奴に助けてもらうか、諦めて死ね」


「お願いです。どうかタケルを助けて下さい。お願いします。何でもしますから」


タケルの母親は、ヒーロー二人の前に立ち、泣き付いて頼む。


「子がバカなら、親もやっぱりバカだな。無理だって言ってるだろ!」


メッサイケメンはタケルの母親を手で押し退け、また階段を降りて行く。


阿多は舞台袖から、この様子を見ていて、拳を握り締める。


「お前達、それでもヒーローかよ!」


舞台の下にいた野次馬の中の一人が、イケメンインテリズ達に、叫ぶ。


「あの子供と母親が可哀想だとは思わないのか?」


「そうだ! そうだ!」


他の野次馬達も叫び出す。


「だったら、あなた達が怪人と戦って、あの子供と母親を助けたらどうですか?」


ゴッツインテリが叫んでいる野次馬達に向かって、言い放つ。


「所詮、あなた達も、批判しか出来ない臆病者達ですね。まぁ、ホントにあの怪人に向かって行ったら、あの金棒で、殴り殺されるのは必至ですがね」


ゴッツインテリは、オニサンレッドと野次馬達をチラリと見て、広場を歩いて行く。野次馬達は何も言えず、うつむく。


「ちょっと待てよ! 俺の事は無視かよ!」


オニサンレッドは二人のヒーローに呼び掛けるが、彼等は無視して、その場を離れて行く。


「お願いです。怪人さん、止めて下さい。タケルを助けて」


タケルの母親は、オニサンレッドから我が子を救おうと怪人に飛び掛かる。


「どけ、放せ!」


オニサンレッドは、母親が掴んできたのを、振り払う。母親は勢い良く、ぶっ飛ばされる。タケルはそれを見て、お母さんと泣き叫ぶ。


阿多は、怒りで震えていた。我慢の限界が近付いていた。


「このガキを助けたい奴、俺に文句がある奴、この舞台の上に上がって来い!」


赤鬼の怪人オニサンレッドは、イケメンインテリズの二人が、去って行ったので、今度は観客側の野次馬達の中から戦う相手を探す。


阿多は悩んでいた。イケメンインテリズが、まさかの戦闘拒否を行ったので、タケル君達を助けに行く者がいなくなったのだ。


頼りの山田は、一時間後じゃないと来られない。駄段はお腹痛いとか言って、無理だし。


阿多は、キモクサマンに変身するかどうかを迷っていた。今までのケースとは違うのだ。


今回、もし変身すれば、自分はこの街に住めなくなるかもしれない。ヒーローをクビになるかもしれない。


でも、自分はタケル君を助けたいのだ……。


阿多は左手首に着けているブレストに、想いを込める。


頼む、キモクサマン。どうか、今回だけは暴走しないでくれ。あの子を助けたいんだ。力を貸してくれ。


阿多は覚悟を決めた。両腕を交差し、変身と呟く。


「もう、分かった! このガキはここで公開処刑だ。ホント、根性の無い奴等だな。もう一回だけ言ってやる。文句のある奴、この舞台へ上がって来い!」


怪人は再び叫ぶ。会場が一瞬、静まり返る。


怪人オニサンレッドは、背後から人の気配を感じる。誰か舞台の上に上がっている。オニサンレッドは嫌な予感がして、振り向いて、確認する。


そこには、どう見ても変質者と思われる男が、お尻をフリフリして、立っていた。


頭には一輪の花が咲き、目にはゴーグル、鼻水とヨダレまみれである。身体はプロテクターで覆われており、黒のブリーフ姿で、よく見ると漏らしている。ブリーフからは水滴が垂れて、足を伝って流れている。


舞台下にいた野次馬の一人が気付く。


「あれって、キモクサマンじゃね?」


「そうだ。キモクサマンだ!」


会場は騒然となり、人々はパニックになる。怪人の出現には、怖いもの見たさで残っていた人々も、キモクサマンの出現により、態度が一変する。


「逃げろ! キモクサマンだ! 何されるか、分からねぇぞ!」


会場の人々は我先にと、逃げ出す。


それは、そうなのだ。キモクサマンの屁の匂いを嗅ぐと、身体が拒否反応の起こし、泡を吹いて失神する。一週間以上、気分が悪い状態が続き、入院しなければならないのだ。誰もそんな経験したくない。


女性にしても、あんな気持ち悪い奴に、飽きられるまで、抱き付かれたくない。必死で逃げるのは当たり前だ。


こうして、キモクサマンの出現により、会場は怪人と人質になっている親子と、キモクサマン以外誰もいなくなってしまったのである。


オニサンレッドは思った。この男、怪人の俺様より、人間に恐怖を与えるヤバい奴なのかよと……。


タケルとその母親も、キモクサマンの出現に呆然としている。


だが、オニサンレッドは不敵な笑みを浮かべる。


「先に言っておくぜ、キモクサマンよ。俺は今までの怪人とは違うぜ。俺は過去の怪人と、お前の戦いのデータを取っている。つまり、キモクサマン対策が万全と言う事だ」


赤鬼の怪人は自信満々にキモクサマンに言い放つ。


キモクサマンはただ、鼻くそをほじっていた。

















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