第14話 イケメンのインテリヒーローと赤鬼の怪人

キモクサマン変身禁止命令から、早三ヶ月が過ぎていた。怪人達は不気味なほど、鳴りを潜め、S市の人々は平穏な日々を送っていた。


英雄仮面同盟のヒーロー達も、怪人達が全く出なくなったので、活動の場を失っていた。人々は自分達を守ってくれるヒーロー達を必要としなくなっていた。


そこで英雄仮面同盟の代わりに、日の目を浴びてきたのが、座間巣市長のイチオシの"イケメンインテリズ"であった。彼等はテレビやSNS等を活用し、ドンドン知名度と人気を獲得していった。


阿多はそんな世の中の風潮の中、街へ一人で買い物に出掛けていた。そうなのだ。愛しの愛花の誕生日が近いということで、プレゼントを買い求めに街中へとやって来たのだ。


阿多は今までに女性にプレゼントとかした経験がなかった為、オシャレな店の店員さんにオススメを聞いてから買おうと思っていた。とりあえず、デパートに行ってみようと、街中を歩いていたのだ。


歩いているとふと、阿多は気に障る、のぼりを目にする。イケメンインテリズのイベントの、のぼりであった。この先の広場でトークショーとサイン会をするみたいだ。


こいつらのおかげで英雄仮面同盟は蚊帳の外になってるんだと思うと、イラッとする。しかし、自分達の代わりに怪人と戦ってくれるなら、辛い目に逢わなくて済むなと安心する気持ちもある。


阿多は複雑な気持ちで、歩いて目的地のデパートを目指していた。と、その時、女性の悲鳴が聞こえる。


阿多は久々にこの感覚を思い出す。まさか、怪人か? 阿多は急いで悲鳴のした方角へ向かう。


そこはイケメンインテリズのイベント会場であった。大勢の人がいたが、何やら騒然としている。舞台の中心を阿多は見る。何人かが舞台の上で動いている。


一方は、二人のヒーローらしき人物、恐らくこの二人がイケメンインテリズのメンバーであろう。もう片方は……。


怪人だ。赤鬼の様な怪人だ。その怪人が男の子を捕まえて、それを母親らしき人が助けようとしている。


会場は逃げる人と様子を見ている人に分かれている。阿多は流動する人混みの中で、ゆっくり舞台に近付いて行く。


「お願いです! うちの子を助けて下さい!」


その男の子の母親は、男の子を捕らえて離さない怪人に必死に頼んでいる。


「うちの総帥ブラックハート様に、怪人はしばらく街で暴れるな、俺に考えがあるって言われてたんだが、ストレスが溜まって。つい暴れちゃった」


その怪人はてへと言いながら、母親を見る。その怪人は頭に二本、角が生えており、赤い裸の身体に虎柄のパンツを履いて、片手に金棒を持っている。阿多は、節分の時期じゃないのに、勘弁してくれと心の中で呟く。


「そもそも、お前達が調子に乗って、テレビとかに出て来るから、俺様が腹が立ってここに現れたんだぞ」


赤鬼の怪人はどうやらイケメンインテリズに怒っているみたいだ。おぉ、そこは僕と同じ気持ちだと阿多は舞台の袖の方に移動しながら、怪人に共感する。


このイケメンインテリズが、一体どのように行動するのか気になり、阿多は注意深く観察していた。


阿多は今の状況を冷静に分析する。


舞台の右側には、赤鬼の怪人が男の子を捕らえ、人質の様な形を取っている。


舞台中央には男の子のお母さんが、我が子を助けようと、何とか怪人を説得している。


舞台左側にはイケメンインテリズのヒーローが二人いて、怪人と男の子の方を見ている。


阿多は怪人に近い方の舞台袖にいて、様子を見ている。怪人は阿多側を背にしているので、阿多には気付きにくいと思われる。


つまり、舞台上には五人の人物がいて、その舞台袖に阿多がいる状況になっている。


舞台の観客側には、ヒーローが怪人とどう戦うのか、気になっている野次馬の様な人達が残っている。


阿多は現在、変身禁止命令をボスである駄段から受けている。会社員をしていて、しかも真面目な性格の阿多は、規則を忠実に守る人生を送って来た男だ。命令違反など、もってのほかだ。


阿多は、英雄仮面同盟のボスである駄段と、ヒーロー名ウインドキッドこと山田に、応援要請のメールを送る。


そして、一番近くにいる謎のヒーロー達、イケメンインテリズ達に期待をかける。


「どうした?ヒーロー達。かかって来ないのか?」


赤鬼の怪人は、目の前にいるヒーロー二人に、挑発をして来る。


「あなた、お名前は何て言うのですか?」


金髪で長髪のヒーローの方が、怪人に話し出す。身体にはキラキラのプロテクターを着けており、とても派手な印象を受ける。


「俺の名はオニサンレッド。貴様等は何と言うのだ?」


阿多は、律儀に自己紹介し合うんですか、と心の中で突っ込みを入れる。


「俺の名はメッサイケメン。女の子にモテモテでしょうがないヒーローだ。こっちのメガネがゴッツインテリだ」


金髪長髪のヒーローは自分の自己紹介をし、隣のヒーローの紹介もする。隣のメガネをかけ、七三に黒髪を分けているヒーローがどうもと怪人に挨拶する。


そんな一連の様子を見ている時に、山田から返信のメールが届く。


"そこの場所まで一時間くらいかかります。なるべく早く向かいます"


一時間……、それは、正直きついなと阿多は嘆く。一番期待していた山田が、助けに来るのが厳しいので、阿多はショックを受ける。


続いて、駄段からの返信が届く。


"お腹痛い……。トイレから出れません。助けて。"


阿多はガックリとうつむく。助けて欲しいのは自分なのにと心の中で呟く。何て間が悪いんだ。この人も頼りに出来ない。阿多はまた、目の前の謎のヒーロー達を頼りにしてしまう。


あれ、まさか。人質になっている親子が、見覚えのある人だと、阿多は今頃になって気付く。


やっぱり、そうだ。タケル君だ。お母さんと一緒に、阿多の勤務しているスーパーニクニクマートへ、よく買い物に来てくれる男の子だ。


タケル君はスーパーに買い物に来ると、すぐに阿多の所へ寄って行く。そして、阿多のお兄ちゃんなどと言って、阿多に凄く懐いている男の子なのだ。


どうすればタケル君を助けられるのかを、阿多は静かに考えていた……。














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