第13話 そんなにですか?

「阿多くん、この定食屋さんの唐揚げ、スッゴく美味しい」


愛花と阿多は、スーパーニクニクマートの近くの定食屋に来ていた。愛花が、阿多の行きつけの店に行きたいと、かねてから言っていたので、阿多は自分の勤務先の近くの定食屋に、愛花を連れて来たのだ。


「僕は、オシャレな店とか知らないから、こんなとこで、ホント申し訳ない」


「そんな事ないよ。私は、こういうお店好きだよ」


愛花は、阿多に笑顔で答える。愛花が気を使ってじゃなく、本心で言ってくれてるみたいで、阿多は少し安心する。


「あ、阿多くん。スーパーの担当部署のリーダーになったんだってね。昇進おめでとう」


阿多は、自分がリーダーに昇進した事を、愛花にお祝いされ、少し照れる。


阿多に、パワハラをしていた黒原店長と違い、今の新しい店長は、阿多に対する評価が高かった。真面目にコツコツとする、阿多の仕事の成果が、キチンと認められての結果であった。


「次は副店長だね。仕事が出来る男の人って、やっぱり、素敵」


遊園地の一件から、阿多と愛花の仲は、急接近していた。相変わらず、阿多は勇気が持てず、愛花に告白を出来ずにいたので、関係は友達のままであったのだが……。


  そこへ定食屋のおばちゃんが、阿多達の会話に割り込んで来る。


「まさか、阿多くんが、こんなにカワイイ彼女を連れて来るなんて。あんたも、隅に置けないねぇ」


「おばちゃん! まだ、彼女じゃないよ。友達だよ」


  阿多はかなり動揺して、定食屋のおばちゃんに否定する。


「ここの定食、スッゴく美味しいです。また、阿多くんと来ますね」


 愛花は、動揺している阿多を横目に、おばちゃんに話し掛ける。


「あら、ありがとね。カワイイだけじゃなくて、性格もいい娘だね。阿多くん、幸せ者だね」


  おばちゃんは、顔を赤くして、焦っている阿多にからかう様に言って、食べ終わった食器を下げて行く。


「ねぇ、聞いた? 私の事カワイイだって」


 愛花は、もの凄く上機嫌だ。阿多は、もしかして愛花は、自分の事を、好きなのではないかと感じる。


 付き合って下さいと言えば、愛花は彼女になってくれるんじゃないかと、阿多は考え始める。しかし、自分には、愛花に伝えていない秘密がある。


 そうなのだ。阿多はヒーロー、キモクサマンなのだ。阿多は、自分がキモクサマンである事がバレて、嫌われる事を恐れていた。


 阿多は不意に、定食屋のテレビに目をやる。テレビの番組は、S市のローカル放送が、流れていた。新しく、S市の市長になった女性が、アナウンサーにインタビューを受けていた。


「S市初の女性市長だって」


 愛花が、テレビの方を見ながら、阿多に教える。阿多は新市長の事を、太った、性格が意地悪そうな、おばさんだなと思った。


「それでは、新しく市長になられた座間巣(ざます)市長に今後の活動内容について、お聞きしたいと思います」


「えー、私が選挙前に公約していた事を、やっていくザマス。憎き、キモクサマンのS市退去命令と英雄仮面同盟の活動の停止を、市民の皆様の為にやるザマス」


「何だって!!」


 テレビ番組の市長の発言に対して、阿多は驚き、席を立ち上がる。


「わ、どうしたの?阿多くん。何かあったの?」


 愛花がビックリして、阿多の顔を見る。


「いや、スーパーによく来る仲の良いお得意さんに、英雄仮面同盟の人がいるから、ちょっと心配になって。活動停止とか、ないよなって思って……」


「阿多くん、優しいんだね」


 愛花は微笑んで、またテレビの方を見る。阿多も再び席に着いて、テレビに目を向ける。


「役立たずでカッコ悪い、英雄仮面同盟に変わって、このわたくしが設立したヒーロー軍団"イケメンインテリズ"がS市の皆様を怪人達からお守りするザマス」


 テレビの中で女性市長がアナウンサーに答える。


「ヒーローは見た目と頭の良さが大事。そして、市民に愛されないといけないザマス。それに比べ、キモクサマンは怪人と同じ、市民の敵。排除しないといけないザマス」


  市長が熱く語る。阿多は何でだよ、ふざけんなよと心の中で思い、テレビ画面に映る市長を睨む。


「私もキモクサマン、大嫌いだわ。嫌がる女の人に抱き付くのって最低よね。オナラも毒ガスみたいに臭いらしいし。一刻も早く、S市から出て行って欲しいわ。この市長に賛成!」


  愛花がテレビに向かって話す。えぇー、そんなに自分って嫌われてるんですかと、阿多は愛花の方を困惑した顔で見る。


  阿多は考える。自分はみんなを助ける為に怪人と戦っていたのに、それはみんなにとって嫌がる事であった。自分が命を懸けてやってた事は、間違いだったのかと。


  ドンドン気分が落ち込んでくる。阿多は段々、気分が悪くなってきた。


「大丈夫?阿多くん。何だか顔色が悪いよ」


「急に体調が悪くなってきたみたい。今日は無理かもしれない。うちに帰って、ゆっくり休んでもいいかな?」


「うん、その方がいいね。無理は良くないから。うちまで送っていこうか?」


「いや、一人で帰れるよ。ありがとう、心配してくれて。ごめんね、途中で帰る様な形になって」


「ううん、気にしないで。気を付けて帰って、ゆっくり休んでね」


 阿多は愛花と別れ、自分のアパートにフラフラになりながら、たどり着く。そして、敷いている布団に倒れる様に寝転がる。


  その時、阿多の携帯電話の着信音が鳴る。阿多はかけてきた相手を確認する。電話の相手は、英雄仮面同盟のボス、駄段であった。


「もしもし、阿多くん。大変な事になったぞ!」


「もしかして、例の新しい市長の事ですか?」


「そうじゃ。ワシら英雄仮面同盟をキモクサマンごと排除しようとしておる」


「あれ? そこはキモクサマンって通り名じゃなくて、クレイジーフールって呼び方じゃないんですか?」


「世間は今やキモクサマンで、君の事を認知しておる。その方が話が早いじゃろ?」


「はぁ……。言われる方は嫌なんですが……」


「単刀直入に言おう。キモクサマンに変身する事をしばらくの間、禁止してくれ」


「え……」


「理由は分かるじゃろ? 君はS市の人々から、怪人以上に嫌われておる。このままだとホントにS市に住めなくなるぞ! 分かったな?」


  この日、阿多は泣いた……。


 阿多は朝まで泣き続けた……。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る