第11話 アホなヒーローが怒った時……
パンダちゃんは、軽快な音楽を鳴らしながら、走り出す。キモクサマンは、パンダちゃんの上で、上機嫌になり、奇声を上げる。
カマキリンは、そんなキモクサマンを一瞥すると、再び、ウインドキッドに話し掛ける。
「あ、そうだ、忘れていた。貴様を殺す前に、聞いておきたかったことがある。ゴリクマオトコを殺ったのは、どこのどいつだ?」
「……今、目の前にいる、そのアホだよ」
「は……、ゴリクマオトコは、俺の次に怪人協会で、強かったヤツだぞ。冗談にしては笑えん。本当のことを言え!」
「本当だよ。そのアホが一撃で、ゴリクマオトコを倒した。私も認めたくない事実だが……」
カマキリンはもう一度、キモクサマンの方を見る。キモクサマンは楽しそうに、パンダちゃんに乗っている。
「あり得ない。あんな鼻水とヨダレを、垂らしてる奴だぞ」
「だったら、試してみるがいい。私も本当にあのアホが強いのかどうか、確かめてみたい」
ウインドキッドは、キモクサマンが自分よりも強いかもしれないと言うことを、どうしても認めたくなかった。アホよりも弱いヒーローだと、他人に思われるのは、ヒーローとしてのプライドが許さなかった。
しかし今、殺されるかもしれないこの時に、素直な気持ちになる。
本当にキモクサマンは、強いのかと……。もし、本当に強ければ、自分を助けて欲しいと……。
カマキリンは、パンダちゃんに乗っているキモクサマンの前に立つ。
「おい、そこのアホ! 本当にゴリクマオトコを殺ったのは、貴様か?」
キモクサマンは相変わらず、パンダちゃんの上でノリノリである。カマキリンの言葉など、全く無視だ。
カマキリンはその態度に、イラッとして、右手の大鎌を振り上げ、キモクサマンの首に振り下ろす。ウインドキッドは、首を斬られたと思って、目を伏せる。
カキンと、鈍い金属音が鳴り響く。カマキリンの鎌はキモクサマンの首元で、止まっている。キモクサマンは、何事もなかった様に、笑顔でパンダちゃんに乗っている。
カマキリンは、何故こいつは死んでいないのかと、自分の右手の鎌を確認する。よく見ると、鎌が刃こぼれしている。
「おかしいな。今度は、こっちを斬ってみるか?」
カマキリンは、キモクサマン本人ではなく、パンダちゃんの方を斬り付ける。パンダちゃんは真っ二つになり、動作を停止する。
「うがあああああああああああああああああああ」
キモクサマンは真っ二つになったパンダちゃんに駆け寄り、叫ぶ。動かなくなったパンダちゃんの顔に、そっと手を触れ、うつむく。
「うおおおおおおおおお、うおおおおおおおおお」
そして、天を見上げ、号泣する。短い間だったが、共に楽しい時間を過ごした、友と認めたものの死を悲しむ。
「いや、ついさっきの時間だけ、乗っていたパンダの乗り物が、壊されただけだろ?」
カマキリンは、この異常なキモクサマンの反応に、面食らいながら、突っ込みを入れる。
カマキリンはこのあと、後悔することになる……。
怒らせてはいけないものを、怒らせてしまったのである……。
キモクサマンは泣きながら、真っ二つに破壊されたパンダちゃんを抱き締める。
「もう、貴様のそのふざけた行動に、付き合うのも飽きた。そろそろ、死ね」
カマキリンは、キモクサマンの頭を上から踏み付ける。グシャッという鈍い音が、辺りに響く。
「何が、ゴリクマオトコを倒しただと? このアホは、これで終わりだ」
カマキリンが、更に踏みつけようとした時、カマキリンは突然、震え出す。カマキリンは、何かの異変を感じ、キモクサマンの上から、さっと飛び退く。
カマキリンは動物的本能で、辺りの空気が変わったことに気付く。
キモクサマンは、ゆっくりと立ち上がり、カマキリンの方を見る。笑みはない。カマキリンは思った。こいつ、キレてやがると。
カマキリンは、自分でもよく分からない恐怖心を、抱いている事に気付く。こんな経験は、怪人協会の総帥ブラックハートに闘いを挑んだ時、以来だった。
やらなければ、やられる……。
カマキリンは咄嗟にそう判断し、キモクサマンに向かって突進し、両手の大鎌で、何回も斬り付ける。キモクサマンは、それを無防備で受け続ける。鈍い金属音が、何度も鳴り響く。
カマキリンは息が上がり、汗だくになっていた。両手の大鎌の刃は、ボロボロになり、両腕は力尽きだらりと垂れ下がっていた。
しかし、キモクサマンは同じ状態で、全く動かず、かすり傷一つ受けていない。カマキリンは焦り、キモクサマンと距離を取り、自分の最大の技を繰り出す。
「カマキリンカッター!!」
カマキリンの大鎌から、円月輪のような物が飛び出す。円月輪はクルクルと回転しながら、キモクサマンを襲う。が、またもや、キモクサマンはそれを無防備で受ける。やっぱり無傷だ。
カンと弾かれ、円月輪は建物に当たる。すると建物は真っ二つに裂け、破壊され、ガラガラと崩れ落ちる。
カマキリンは、最大の技を無防備で受けられたことにより、絶望と屈辱を同時に与えられる。
ウインドキッドは、それをじっと見ていた。
先程の闘いで、自分が怪人に受けたことを、同じ様に仲間のヒーローが、怪人にお返ししてくれたのだ。
ウインドキッドは、少し嬉しい気持ちになる。
もちろん、彼はアホなので、意図してやっていないだろうけど……。
カマキリンは力無く、その場で膝をつく。そして、キモクサマンの方を見て、口を開く。
「俺が悪かった。もう二度と悪い事はしない。頼むから、命だけは助けてくれ」
ウインドキッドは、その言葉にムッとし、カマキリンを睨む。
今までそうやって、何人もの人達が、命乞いをしてきたのに、無視して、惨殺してきた、怪人どもが何を言ってるんだ。それにコイツらは、反省もしない。また、人を殺す。
ウインドキッドは、怒りで身体が震える。
「キモクサマン、ダメだ! こいつらの言う事は嘘だ。信じちゃいけない!」
ウインドキッドは、たまらず叫ぶ。
キモクサマンは相変わらず、人の話を聞いてるのか分からない状態で、カマキリンに近付いて行った。
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