第10話 お触りよりも興味を持ったもの

 この異様なキモクサマンの出現により、動きが止まっていた怪人カマキリンに突然、竜巻が襲う。


 カマキリンは、殺そうとしていた男の子の前から吹っ飛ばされ、メリーゴーランドに叩きつけられる。


「坊や、大丈夫かい? 向こうで君のお母さんが、探していたよ。早く行きなさい」


  その声の持ち主は、正義のヒーロー、ウインドキッドの物だった。男の子は、この優しい声とカッコいい正義のヒーローの姿を見て、安心して、母親のいる方角へと走って行った。


  額の風車とキャップがトレードマークのウインドキッドは、横にいる嫌がる女性に抱き付いて離れない、気持ち悪い男を横目で見る。


「あんた、何やってんだ!子供が殺されそうな時に、馬鹿なのか!」


  ウインドキッドは、キモクサマンに激しく罵声を浴びせる。が、キモクサマンは相変わらず、下品な笑い声を上げ、気にも止めていない。


「さっきの竜巻は、貴様が放ったものか?」


  怪人カマキリンは、ゆっくりと立ち上がると、ウインドキッドの方を睨み付ける。


「そうだ。私は、英雄仮面同盟のナンバーワン、ウインドキッドだ」


 ウインドキッドは、自分の方に近付いて来る怪人に対して、身構える。


「目障りなヒーローか。貴様を始末すれば、俺の面子も少しは保たれるか」


  カマキリンは、ウインドキッドに向かって突進し、右手の大鎌を振り下ろす。


「風の盾(ウインドシールド)よ」


  ウインドキッドは、風で作り上げた盾を、両腕に纏い、カマキリンの大鎌を防ぐ。鈍い音が辺りに響き、ウインドキッドは少し後退する。


「我が力、ウインドキッドは駄段博士の改良により、以前よりも、数段強くなったのだ。かつて、英雄仮面同盟最強と呼ばれた、ファイアバンドさんよりも強く。私に勝てる怪人は、もはやいまい!」


  ウインドキッドは両腕を前に出し、風の刃を放つ。複数の風の刃が、カマキリンを捉える。


  しかし、カマキリンは両腕の大鎌で、身体を守ろうとする。風の轟音と共に、カマキリンの身体に、切り傷が刻まれていく。


「フッ、なるほど。風使いのヒーローか。面白い」


 カマキリンは、大鎌の防御を解除すると、不敵な笑みを浮かべる。


  対照的に、ウインドキッドは、自分の攻撃が思った程、効果がなかった為、焦りを感じる。


「俺も、同じような技を持っている」


 カマキリンが、大鎌をウインドキッドと離れた位置から振り下ろすと、先程のウインドキッドの風の刃と同様の物が、ヒーローを襲う。


  ウインドキッドは、再び風の盾を出し、防ごうとする。が、怪人の技はヒーローの技よりも、数も威力も格段に上だった。


  ウインドキッドは吹っ飛ばされ、地面に仰向けになって倒れる。ウインドキッドは、素早く立ち上がり、両腕を前に出し、今度は竜巻を放つ。


 カマキリンは、右手の大鎌で、竜巻を振り払い、竜巻の軌道を変える。行き場の変わった竜巻は、遊園地の建物の壁へと激突し、壁は粉々に吹き飛ぶ。


  キモクサマンは、これをまるで子供が、遊園地でヒーローショーを観るような感じで、目を輝かせ、楽しんで観ていた。


ウインドキッドは、自分の最大の技で、怪人との決着をつけなければと、考えていた。力の全てを両腕に集める。


「ウインドキッド最大奥義!ダブル竜巻!!」


ウインドキッドが、両腕を前に出すと、左右の腕から、一本ずつ竜巻が放たれる。二本の竜巻は、ぐるぐると轟音を上げながら、怪人カマキリンに向かって行く。


「どうやったら、貴様に一番絶望を与えられるか、考えていたよ」


カマキリンは、ニヤリと笑うと、両腕の大鎌を下げ、防御の姿勢を取らない。ただ、突っ立っているカマキリンに、二本の竜巻が直撃する。


凄まじい衝撃音が、辺りに響く。竜巻が巻き上げた砂ぼこりの中から、カマキリンが現れる。


「これでナンバーワンか? ヒーローは、もう終わりだな」


カマキリンは、頭を振って、身体に付いたほこりを払うと、ゆっくりと、ウインドキッドに近付いて来る。


ウインドキッドは、自分の最大の技が、ノーガードで受けられたことに、ショックを受け、呆然と立ち尽くす。


こんなに力の差があるのかと、己の無力さに絶望する。


一方、両者の戦闘の隣にいた、キモクサマンは突然、目を輝かせ、抱き付いていた女性から離れる。と、同時にメリーゴーランドの方へと、走って行く。


解放された女性は、キョトンと立ち尽くしていたが、我に返り、慌てて遠くへと逃げて行く。


キモクサマンは、目標物に到着すると、立ち止まる。キモクサマンが向かった先は、メリーゴーランドではない。パンダの乗り物、そう、あのパンダちゃんであった。


キモクサマンは、奇声を上げ、パンダちゃんに乗り込む。しかし、パンダちゃんは、百円硬貨を入れないと動かない。キモクサマンはアホである。そんなこと分からない。


キモクサマンは、自分で動かしてみようと試みる。しかし、パンダちゃんは動かない。キモクサマンはガックリと、頭をうなだれる。


カマキリンとウインドキッドは、このキモクサマンの奇行を、呆気にとられて見ていたが、我に返り、再び戦闘を再開する。


「もう、楽にしてやるよ。あの目障りなアホも、殺そうと思ってるからな」


カマキリンは、ウインドキッドに向かって、突進し、両手の大鎌を、激しく振り続ける。ウインドキッドは風の盾と風の鎧で、防御を試みる。が、全て防ぎきれない。


ウインドキッドは、全身を切り裂かれ、血まみれになり、吹っ飛ばされる。飛ばされた先は、キモクサマンがパンダちゃんに、乗っている辺りだった。


風の防御で、致命傷は免れているものの、ウインドキッドの傷は、決して軽くはなかった。


このまま戦っても、勝ち目はゼロ。この傷では、怪人から、逃げ切れる自信もない。ウインドキッドは、死を覚悟する。


ウインドキッドは、横にいるパンダちゃんの上で、うなだれている、キモクサマンを見る。死が近いと人は無駄なことをしたり、優しくなったりするのかもしれない。


ウインドキッドは、フラフラになりながら、キモクサマンの乗ったパンダちゃんに、百円硬貨を入れる。


パンダちゃんは、軽快な音楽を流しながら、動き始める。




















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