第6話 やっぱり確信犯ですか?

 ゴリクマオトコは、目の前のプロテクターの男にかなりいら立っていた。


「そろそろ殺してやるよ」


 ゴリクマオトコは、若い女性従業員に抱きついて離れない、プロテクターの男の前に立ち、その太い右腕を男の頭部に振り下ろす。


 鈍い金属音が店内に鳴り響くと、鮮血が飛び散る。


「ぐあああああ……」


 声を発したのは、ゴリクマオトコだった。殴った右の拳が砕けている。そこから血が流れ出していた。


 プロテクターの男は無傷だった。しかし、女性に抱きついているのを邪魔されたのが、気に食わない。


 男は女性から離れ、尻をゴリクマオトコの顔に向ける。そして、屁を放つ。轟音と共に異臭が店内に広がる。


「く、臭いぃぃぃぃ。何を食ったらこれだけ屁が臭くなるのだ」


 ゴリクマオトコは、あまりの臭さに、のたうち回る。


  人質達は、全員口から泡を流し、意識を失い倒れていく。


  早く新鮮な空気を。


 ゴリクマオトコは、自ら作らせた商品棚のバリケードを払いのけ、店の窓ガラスを、片っ端から壊して行く。壊した窓から、新しい空気が入って来る。ゴリクマオトコは息切れをしながら、窓に鼻と口を持っていき、荒い呼吸を再び始める。


 店の外で包囲していた英雄仮面同盟のヒーロー達と警察官達が、この店内の異常事態に気付く。


「報告します。怪人が店内で暴れている模様です。突入しますか?」


 若きヒーロー、ウインドキッドが総指揮の駄段に指示を仰ぐ。


「なぜ、ゴリクマのヤツは窓ガラスを割ったんだ……。う、何だ、この匂いは臭せぇ、とんでもなく臭せぇぞ。いかん、これはマズい!」


 駄段は慌てて、カバンからガスマスクを取り出す。割られた窓から出た屁の匂いが包囲していた者達の所まで流れる。全員口元にハンカチや手を当て匂いを防いでいる。が、全員バタバタと泡を吹き、倒れて行く。


「ウィンドキッド君、ガスマスクを着けろ!」


 駄段のその声で、ウィンドキッドは急いでガスマスクを装着する。


「いまいち状況が把握できない。ウインドキッド君、店内の様子を確認する為に、二人で侵入するぞ」


 駄段は嫌がっているウインドキッドを無理やり引き連れ、店内への侵入を決行する。


 ゴリクマオトコは、店内の屁の匂いがほとんどなくなったのを実感すると、力なくその場に座り込んだ。


 大変な目にあったと思い返し、店内の様子を見回す。


 人質達は、皆口から泡を吹いて失神している。中には死んでるんじゃないかと思うくらい、ピクリとも動かない人質もいた。


  ゴリクマオトコは、事の発端のあの忌まわしい男を目で追う。


「おえええぇ、おえええぇ・・・」


 その屁を放った問題の男は、数メートル離れた所で吐いていた。


 こいつ自分で放った屁で、気持ち悪くなって、吐いているのかと、ゴリクマオトコは改めて、この男のアホさ加減に呆れた。


「もう、このアホと付き合うのも疲れた。本気で終わらしてやるよ」


 ゴリクマオトコが力を込めると、一回り筋肉が大きくなり、その全身にオーラを纏う。そして、吐いている男の頭上に立つ。


「我が最大の必殺技、パワーマッスルアタックを食らわせてやる」


 ゴリクマオトコのパンチの連打が始まる。激しい爆音が店内に広がる。そして、渾身の力を込めた最後の一撃を、プロテクターの男に見舞う。落雷のような轟音が、辺り一帯に響く。


「はぁはぁ、終わったな・・・」


 ゴリクマオトコは、殴り続けた目標物を確認する。


「あは、あは・・・・」


 目標物の男は、またしても半笑いで無傷であった。


 怒りのゴリクマオトコはそれを見て、プロテクターの男に体当たりを仕掛ける。プロテクターの男はゴリクマオトコを待ち構えて、パンチの体制に入っている。


 そして、プロテクターの男のパンチがゴリクマオトコに放たれる。凄まじい轟音が辺りに響く。プロテクターの男のパンチが、ゴリクマオトコに炸裂したのだ。ゴリクマオトコの上半身は吹き飛び、肉片が辺りに飛び散る。


 こうして、ヒーローと怪人の二人の戦いは、決着した……



  *  *  *  *  *



 阿多が目を覚ますと、そこは見覚えのない部屋でベッドの上で横たわっていた。どれくらい眠っていたのだろうか。体中が酷く痛い。物凄い疲れている。頭もボーっとしている。気分も悪い。


 辺りを見回すと、駄段と見知らぬ若い男が、座って話をしている。阿多は、重い体をゆっくり起こし、二人に話し掛ける。


「ここは一体どこなんですか?僕はどうなってしまったんですか?」


「気が付いたかね?体は大丈夫なのか?」


  駄段は、阿多のベッドの方へと駆け寄る。阿多は、何とかと大丈夫ですと答える。


「ここは英雄仮面同盟の本部の医務室だ。君はクレイジーフールに変身して、怪人と戦ったんじゃ」


「怪人?そうだ!あの怪人はどうなりました?人質のみんなは無事なんですか?」


 阿多は、ベッドから飛び起きようとするが、体が思うように動かない。


「怪人は君がパンチ一発で倒したよ。人質の方は一人助けられなかった方がいる。非常に残念じゃ。あとの生存者は全員入院しておる」


 駄段は、目を伏せながら説明する。


「犠牲になった方の事は覚えています。変身前の出来事だったので・・・。でも変身してからの事が全然思い出せないんです。何があったのか説明して下さい」


 阿多は駄段にしがみつく。


「私が代わりに説明しますよ。生存者の方々は、あなたのオナラのせいで、全員病院送りになったんですよ。警察や我々ヒーローにも被害が出た。まるで、毒ガスのようなあなたのオナラでね」


 若い男が席を立ち、阿多の方へ近付きながら、説明する。男は阿多を見下したような目で見る。


  自分のせいで色んな人が病院送りになったと言われても、まるで覚えがないので阿多は困惑する。


「申し遅れましたね。私は山田と申します。あなたと同じ英雄仮面同盟のヒーローです。私は、ウインドキッドと言う、風を操るヒーローに変身することができます」


 その若い山田という男は、皮肉だけを言うと、再び駄段の方を見て、お願いしますという合図を目で送る。


「君にはちゃんと説明しないといけないな。クレイジーフールの能力と特性について」


 駄段は一度山田に目を向けた後、また阿多の方を見て説明し出す。


 普通こういうのって、変身装置を渡す前にキチンと説明するんじゃないかなと阿多は思いながら、駄段の話に注意を向ける。


「実を言うと、君に今までクレイジーフールについて詳しく説明しなかったのは、それを聞くと君が変身装置を受け取るのを、拒否すると思ったからじゃ。」


 駄段は悪びれる様子もなく、ぶっちゃけ話をする。


 おいおい、やっぱり確信犯かよと、阿多は駄段に冷たい視線を送る。駄段はそんな阿多の表情を気にもせず、自分の作った変身装置の説明を、自信満々に説明し出す。


















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