第5話 キーボードクラッシャー

後日。

休日なので例によって例の如く、家でゴロゴロしていたのだが。

滅多にない通知を受け取ったスマホが鳴った。


梓:文化祭、そっちのクラスでは何するか決まった〜?


桐谷さんからだ。

そう言えばそろそろ文化祭だった。

言われるまで記憶の隅に追いやっていた。

あと一ヶ月と少しだったかな。


クスノキ:あーなんだっけな

     たしかアラジンだったような


梓:ような、かぁ〜


クスノキ:申し訳ございません?


梓:いや〜?別に〜?

  やっぱり忘れてたんだろうなって


クスノキ:え、なにチクチク言葉ですか?


梓:そんなんじゃないって〜

  うちのクラスはね〜?

  なんだと思う〜?


いや知らんが。

そう送るのは容易いが、流石にそれは味気ないか。

少し考えてみることにする。

我が高校では、一年が教室を使った出し物を。

これはお化け屋敷とかだな。

そして二年生は演劇を、三年生は出店を出す。

演劇とはいうが、基本は現存のものに自分たちで面白おかしくアレンジを加えるのが通例。

うちのクラスではそれをアラジンにしたわけだ。

今問われているのもこの既存の物語についてで相違ないだろう。

うーん……。

こういうのは、うちのクラスみたいな雰囲気のが多いんだよな。


クスノキ:オズの魔法使い!


梓:おお!

  驚きました

  ちゃんと考えたのが伝わる答えです


クスノキ:ってことは


梓:いや全然違うけど〜?


クスノキ:あっ……そっすか……


梓:正解は〜

  白雪姫でした


クスノキ:思ったより王道


梓:わざわざ奇を衒う必要もないでしょ〜?


クスノキ:それはそう


梓:それでね〜?

  私、役をもらったんだよね〜


クスノキ:おお、おめでとう?


梓:何の役だと思う〜?


いや知らんがPart2!

その天丼は果たして要るのか!?

またしても思考しようとする、が。

その前に答えが出された。



梓:主役の白雪姫でした〜……助けて……



クスノキ:急に切実!!


いつになく"ほわんほわん"してると思ったら!

どうしろっていうんだ。

クラス違うからどうしようもないぞ。

ちなみに学年は同じ二年生である。

会話で知ったというよりはプロフィール欄に書いてあった。

女子はあだ名で表示されている事が多い。

だからではないが、学年とクラスをプロフィール欄に書いておくのは現代高校生の常識だ。

クラスのグループでこの人誰だろう……ってなるのは、あるあるをを超えてお決まりだと思っている。

まぁ桐谷さんは普通に下の名前を出しているみたいだけど。

うん、まぁ、取り敢えず。


クスノキ:骨は拾ってあげるよ……


梓:見捨てるのが早い!


クスノキ:見捨ててないさ……信じて送り出しただけ


梓:ひどい……見損ないました


クスノキ:俺にできる事があればよかったんだけど

     別クラスだし、しょうがないのですよ


梓:いやいや〜……私の練習を見るって事ができるよ〜?


……?

何言ってるんだろうこの人。

まさか俺に練習してる様子を見てほしいって言ったわけじゃないよな。

そんなわけないよな、まさか俺にその様子から改善点等を聞こうとしてるわけがないんだよな。

当たり前のようにそんなことを要求してくるわけw


流れるような思考で出た結論は"ありえない"だった。

よって勘違い、あるいは文面上のやりとりだからこそ生じるバッドコミュニケーションだと判断。


クスノキ:頭大丈夫ですか?


梓:殴るよ〜?


おっとバッドコミュニケーション。いい例だ。

こうして考えると心を読んでもらっているときは、誤解とか絶対にないので便利なものである。

はやくも恋しくなってきた。


クスノキ:え、本当に?本気で?


梓:やる時はやるよ〜?


クスノキ:嘘だろ……?


梓:この会話で嘘をついた記憶はないよ〜

  こう……ブンっていくよ、グンって


なにか絶妙に会話が噛みあってないような気もするが。

どうやら俺に練習に付き合わせる気満々のようだ。

嘘はないって言ってるしそうなのだろう。

しかし……予定とかは大丈夫なのだろうか。


クスノキ:暇なんですか?


梓:殴るね〜?


おっとっと、バッドコミュニケーション。よく考えたら悪い例だ。

スマホ越しに心読めるようになってくれないだろうか。

無理か。無理だな。


……ビデオ通話ってどうなってるんだろう。

今度聞いてみるか。


クスノキ:俺は時間なら腐るほどあるから全然大丈夫だけど

     部活とかの予定はないの?


俺は部活に入って早々、面倒になって幽霊部員状態だ。

よってこうして休日にだらだらと過ごす事ができる。


梓:私は今はそういうのちょっとお休み中なので〜

  2人ともフリーという事で〜

  明日の放課後208教室で集合〜


クスノキ:拒否権は?


梓:ありません


クスノキ:……ご期待に添えるよう頑張らせてもらいます


梓:よろしい〜



なんかそういう事になったらしい。

桐谷さんとの連絡は初めてだったので、すごく緊張した。

思い返すと、彼女との会話は読心頼りだったかもしれない。

こうして読心の能力なしで会話すると自分のコミュ障ぶりが浮き彫りになる。


はぁー……。

208教室ってどこだっけなぁ……。

ダラダラと過ごす、いつもの日常が戻ってくる。

まだまだ昼の段階で、外は無駄に晴天だ。

もしかしたらピクニックにでも行っている家族がいるかもしれない。




なんか変な汗かいてきたな。

なぜかって?

確かにあの人と会うのはもう何度目かになるが。

今までは全て偶然の邂逅だったわけで、今回のソレとは全く違うのである。

待ち合わせ(?)に2人きり(?)に空き教室(?)を彼女から打診してきたのだ。

事実を確認すればするほど、緊張からか変な汗が出てくる。

横から、うわきしょ……と呟く声が聞こえてきたが気にしない。

いや気にする。

流石に妹の本気のドン引きは心にくる。

お兄ちゃん泣いちゃう。

泣くぞ!?

本当に泣くからね!?

泣いてもいいのか!?


ゴッ──……


鈍い音が自分の頭から響き、自分の身体から力が抜けていく。

ああ……これは……。

直感的にこの後の展開を悟る。

ので、お兄ちゃんはこのまま意識を失う前に言いたい事があります。

もう俺のパソコンを使ってるのは何も言わないけどさ。


「キーボードはそう使うもんじゃないからな……!」

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