第4話 ん?
いくら自分の身に革新的なことが起ころうとも、いくら諦めていたことが実現したとしても。
結局のところ時間の流れは変わらないし、俺が学校へ憂鬱な気分ながらも行かなければならないということは変化しないのである。
それはまるで自惚れるなと神に言われているようで。
俺は少しだけ世を儚んだ。
「……であるからして─」
窓の外を眺めながらどうでもいいことを考えていく。
見れば外では別のクラスがグラウンドで走らされていた。
可哀想に……どうして辛い顔して走らなければいけないのか。
俺は少しだけ世を儚んだ。
「……ここは省略─」
おっと連続で世を儚んだためか、今ちょっと意識が飛びそうだった。
もう昼ごはんも済ませ、授業としてはこれが今日の最後である。
ここまでせっかく起きていたんだ。
せめて頭に入ってなくとも最後まで参加s──。
※
「ハッ!」
辺りを見渡す。
閑散とした教室に1人取り残されている。
どうやら寝ていたみたいだ。
陽も傾いており、教室全体が橙に染まっている。
あれから結構な時間が経っている事が分かる。
掃除もある筈だが、それでも誰も起こしてくれなかったのだろうか。
自分がクラスでどのような扱いを受けているのか考え、天井を見る。
涙が溢れないように。
ああ、あとこれも言っておかなくちゃ。
「知らない天井だ……」
「何やってるの……?」
おっとお客さんだ。
1人でふざけていたところに、おそらく女性のものであろう声。
今が天井を見ていて良かった。
本当に涙が溢れるところだった。
いや……雨が降ってきたのかもしれない……。
「いやほら……天気を見てたんだ」
「……ここは屋内よ?」
「……」
「な、なによ」
……?
この声、何処かで聞いたことのあるような……?
俺は意を決して正面を向く。
正確には声のする方へ。
いやだって口調全然違うし、声のトーンまで違うからまさかとは思うんだけど。
果たして目が合う。
彼女と。
「こ、こんにちは……」
「こ、こんにちは……」
ハモった。
これまた綺麗にハモったな。
彼女はハモったことに恥ずかしさを覚えているのか、俯いて目を逸らしている。
そこにいたのは桐谷さんだった。
ふーん……?
気のせいだろうか。
僅かに違和感を覚えたが、その違和感も直ぐに溶けて消えてしまう。
おっ復活した。
「寝てたんだ?」
凄いさっきの一瞬で全部読んだのか。
速読が得意だったりするのかな。
「速読?人と比べたことはないけど、別に普通だとなんじゃないかなぁ。というよりそのおでこ。真っ赤っかだよ?」
ああ。
能力にばかり気を取られていた。
心が読めなくても見ればわかる事もあるか。
正しくその通りに、俺は寝過ごしてしまったのだから。
「誰にも起こされないなんて……むしろ愛されてるんじゃ?」
まさか。腫れ物扱いされてるだけだね。
「腫れ物扱いって……。どんなふうに過ごしてたらそうなるの……?」
え、なんスか、なんスか。
ただ自分から人と関わろうとしなかっただけですケド。
あれ?自分また何かやっちゃいました?
「あぁ〜……」
やめて?そのダメだこりゃみたいな反応。
たしかに自分が悪かったとは思うけどもね?
あーやめてやめて、その額に手を当てて天を見上げるわざとらしい動作。
「知らない天井だ(笑)」
「それイジるのもやめて!?」
※
帰宅中。
せっかくなので桐谷さんと一緒に帰ることにした。
まぁ最寄りの駅まで歩くことになるだろう。
長い通学路の中で短い時間を一緒に過ごすというのは、なんとも長らく味わっていなかった感覚がある。
「ぼっち」
「うっせ」
ぼっちといえば。
貴女だって初めて会ったときも、さっき会ったときも1人だったろうに。
いや……なんでだ?
あのメアド交換のやりとりから俺は少なくとも友達が居ないような雰囲気は感じなかった。
先ほどの会話からも、だ。
じゃあなんであの時も、さっきも誰もいない時間で教室で1人……。
……この人と会話してる中で気づいた事がある。
こうやって一度出来てしまった思考は。
それが脳内でとどまっている限り、読まれる可能性があるということ。
つまり。
……。
ああ、ほら。
目があってしまった。
「1人になりたい時は誰だってあるでしょ?」
そう言って彼女は目を逸らす。
能力者でないと剥がせないような笑顔を湛えて。
それを見てしまって俺は、僕は。
…………。
……どうしよう?
ここは、なにか、気の利いた言葉の一つでも。
でも知ったような口は言えないし、まず結局どういうことなのか完全には掴めてないし。
んと、ええと。
取り敢えずはなにか言わなくちゃ……!!
「いい天気ですね」
終わった……。
もう完全にやらかした。
「そうだね」
そりゃこんな反応にもなるよ。
会話これで終了だよ。
しかしながら考えても言葉が出てこない時は出てこないもんだ。
しょうがない。
つまりこの台詞は何も考えてなくて。
だからこそスムーズに出た。
「ごめん。邪魔しちゃったかな……」
足を止めて言う。
おそらく気分転換のようなことをしている時に、こうやって悉く関わっているのは良くないのではないか。
後付けするならそんな理由だろう。
前触れなく止まったために、少し前にいる彼女が振り返る。
髪がサラサラと、陽に反射して輝いて見えた。
そうして目が、また。
「ふふ。ははは。……楠木くんならいいよ」
え。
ん?
※
そうして。
いつのまにか駅に着いていた僕たちは、各々電車とバスで別れて帰った。
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