第6話





 俺が二人のことを認めたのを確認して安心したのか、父さんはゆっくりと息を吐き出した。


「ありがとう蒼夜くん。紗枝も、ほら」


「これから、よろしくおねがいします。にいさま」


 紗季さんと紗枝ちゃんも俺の言葉に安心したのか、そう言って頭を下げてきた。


「良いですよ。さっきも言いましたが、兄妹が欲しいなと思っていましたから。紗季さんも紗枝ちゃんもこれからお願いします」


「ええ、もちろんです」


「はい、にいさま。あとにいさま、さえのことはさえとよんでくだしゃい」


「それじゃあ、これからは紗枝と呼ぼうかな」


 紗枝の言葉にそう返すと、彼女は両手で顔を隠して紗希さんに頭突きをしていた。

 俺と同い年ぐらいの割に大人びていると思ったけど、こうして見るとやはり年相応の子だ。可愛い。


「それで、父さん。紗季さんたちの事はわかったけど、俺への用事は?何かあったんじゃないの?」


「おお、そうだったそうだった。安心してすっかり忘れるところだった」


 ったくちゃんとしてくれ。


「で?結局なんのようだったの」


「おう。蒼夜、お前そろそろ初陣してみるか?」


 一瞬聞き間違えたかと思った。

 いや、そんな軽いノリで言わんでくれ。来る前に予想していたとはいえ、そんな感じで言われるとびっくりするから。


 そんな俺の思いも虚しく、父さんは話し続ける。


「しばらくは紗枝と遊んだりしてあの子がこの家に馴染めるようにしてほしいが、お前は既に十分強い。甘く見積もっても中の二はある。剣術・体術、体力も十分。霊力・霊術、そしてそれらに関する技術は言うに及ばず。正直、お前は色々大人びてもいるから年齢が許すのならば一人前認定をしたいぐらいには強い」


「え?」


 そんな父さんの言葉に、さっきとは別の意味で驚いた。


 正直そこまで評価してくれるとは思わなかった。だって俺自身、まだまだだと思っているところも多いからな。

 剣術は父さんの本気を引き出せたことなんてないし、霊術もイメージだけで発動できるようになったものは増えたけど、上位の術はからっきし。誇れるのは霊力だけみたいな。

 そんなふうに俺が思っていると


「蒼夜。お前はまだ力不足ではと思っているかもしれんが、この屋敷にいる者は召使達も含めて全員、最低中の二の実力はあるんだぞ?」


 なんでも全員、父さんや母さん達上の一とか上の二の退魔師達に徹底的に鍛えられたらしい。なんなら元が一般人でも身体能力と剣術だけ上の三に食い込んだ人もいるみたい。流石にそこまで行くと霊力なしはきついからって、霊術は使えなくても霊力量増やして身体強化は使えるようにしたみたいだけど。


 そんな感じで、普通とまではいかなくても何となく参考にしていた人たちが特殊部隊ばりに鍛えられていたようで、俺の中の基準は役に立たないガラクタになりましたとさ。


 俺がそんなふうに思っていると、それまで静かに聞いていた母さんが口を開いた。


「あなた。確かに蒼夜は強いです。けれどもまだ五歳の子供よ?早過ぎはしない?」


「そうですよ蓮也様。蒼夜君は確かに強いです。他は分かりませんが、霊力の量だけなら私より多いですし。ですが唯様が言うようにまだ五歳なのです。さすがに早すぎます」


 紗季さんも母さんに続いてそう言った。


「お前達の言うことも最もだが、そうもいかん。オレの初陣が八歳だったから大丈夫だろうという考えもあるが、それ以上に昨今妖の封印や魔界、邪教などが騒いでいるのは先程も話しただろう?そちらに人手を取られないうちに蒼夜の初陣を済ませておきたいのだ」


 なるほど、母さん達の言うことも最もだが父さんの言うことも正しい。俺自身、初陣は出来るだけ安全を確保したい。この世界に慣れはしたが、前世の感覚が残っている。妖は異形のものもいるが、美雪達雪女のように人に近い姿をした妖もいる。

 そう言った存在と戦う時、前世の感覚が邪魔して攻撃できないとか、相手の雰囲気に飲み込まれるなんて事もあるかもしれないわけだ。ならば保険はしっかり用意したい。


 それに、恐らくだが父さんは俺のことも戦略として認識している。俺の安全を気遣ってくれているのは確かなんだろうけど、同時に早く戦いに慣れて強い妖と正面から戦えるようになって欲しいんじゃないだろうか?自身が強くなれば安全になるって見方もできるしな。


 そこまで考えた俺は、まだ話し続けている父さん達をみて口を開いた。


「父さん達、俺初陣やるよ。強い妖が封印破って出てきたり、魔界の妖がこっちに来たりしているなら少しでも早く強くなりたいしね」


 俺の言葉に母さんと紗希さんは少し眉を寄せたが、最終的に諦めたのか父さんの意見に賛成した。


「良し!ならば決まりだな。蒼夜、さっきも言ったように紗枝が馴染めるまで待ってもらうが......そうだな、三ヶ月後にお前の初陣としようと思う。どうだ?」


 三ヶ月。それならちょっと前にぶつかった剣術と霊術の壁も壊せそうだな。


「わかったよ。それじゃあ三ヶ月後に俺は初陣するよ。あ、装備とかはしっかり用意してよ?」

 

「はっはっはっ、任せろ!」


 俺も鍛錬以外に符とかを準備しておこうかな。

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